夜景
付き合って3ヶ月になるらしい。
肌寒くなってきた。
健太郎の隣にいることにも慣れてきた。
そして、優の手を包む大きな手と、触れる体温にも、慣れてきた気がする。
次の予定が合う休みの日。
連れて行きたいところがあると手を引かれた。
「こんなところあるんだ。綺麗だね」
展望台から、海と夜景が一望できる。
キラキラとゆらめく夜景と、対照的に静まり返っている海。
「気に入った?」
「えっ、あっ、愛、こういうの好きだから、連れて来たら喜ぶかなあって」
見入ってしまっていたのがなんとなく気恥ずかしくて、思ってもないことを口走ってしまった。
「…あーあ、俺といるのに妹かー」
「あ、ごめん」
「そういうところも好きなんだけど」
「へっ」
拗ねた口調から一変、ニッと白い歯を見せて、思いがけず真っ直ぐ投げられた言葉に優は顔が赤く染まるのがわかった。
「可愛い」
優は目を伏せた。
「そ、そんなこと…」
「可愛いよ」
健太郎の手が頬に触れた。優の頬をなぞるようにして健太郎の方を向かせる。
まっすぐな瞳が優を見据える。
「優」
その瞳には一体どう映っているのだろう。
優はその瞳を見返して、ゆっくり目を閉じる。
知りたいと思った。
信じたいと、思った。
健太郎、ならーー
ーーー誰がお前なんか選ぶかよ。
「……っ」
唇が触れ合うと思った瞬間、過ったのはいつかの言葉で。
「…ぁ……」
健太郎の唇が掠めたのは、頬だった。
スッと背筋が冷えた。
今、何をした?
「あー……ごめん」
気まずそうに目を逸らして優から離れる健太郎。
「…ちが…」
震える唇からは掠れた声しか出ない。
「ごめ…なさ…」
蒼白になって唇を両手で押さえた優は、どう見えたろう。
そんな悲しそうな顔をさせたかったわけじゃないのに。




