夕食の時間
今日はリビングがいつもより賑やかだ。
「愛ちゃん音大目指してるんだね」
「うん」
「音楽小さい頃から好きなの?」
「うん、3歳からピアノ習ってる」
健太郎と愛はいつの間にやら、勉強を終えて雑談に移行している。
愛は警戒しつつも、会話が続いている様子だ。
とても複雑な気持ちだ。
シュワシュワと、海老が油の中で泡を立てる。
揚げ物と換気扇の音で会話は聞こえないが、少し神妙な面持ちで話をしている健太郎と愛。
受験や進路の話にでもなったのだろうか。
「いい子じゃない、健太郎くん。優よかったねぇ。あたしは気に入ったぁ」
いい香りーと、キッチンに入ってきた麗が言う。
「…そう。」
「怒ってるー?健太郎くん強引に誘ったこと」
「…ちょっとね」
「ごめんねーもうちょっと話したかったからさぁ。」
「そう。麗ちゃん、これ運んで」
悪戯っぽく言う麗に、出来上がったご飯をお盆に乗せて渡した。
いつもより賑やかなリビング。
いつもと変わらずにこやかな健太郎。
楽しそうに笑う麗と愛。
なんとも言えない疎外感を覚えながら、優は料理を盛り付けた。
彼氏が、姉妹とと仲良くなるのは、いいことのはず。きっと。
◇◆◇
健太郎が席を立つ頃には、いい時間になっていた。
優は玄関まで健太郎を見送る。
「ごちそうさまでした。美味しかった」
「いえいえ、お粗末さまでした。ごめんね、遅くまで引き留めて」
「こちらこそ、遅くまでお邪魔しました。急にいろいろ作ることになって大変だったでしょ。それであんな作れるって優はすごいな」
優を見つめる視線はやわらかい。
見つめ返せずに、優はふいっと視線を下に落とした。
「うるさかったでしょう」
「楽しかったよ。姉妹ってこんな感じかぁって。なんか、優が今の優になったのが、わかったというか」
ふふっと思い出し笑いをする健太郎は楽しそうで、優は安心した。
「愛ちゃん。可愛いね」
ガンと頭を殴られた感覚。
ーーーあ、まただ。
「そ、うでしょう」
「優のこと大好きって感じで」
ズキンと胸の辺りが痛いのには、気付かないフリをした。
「来週休み合うじゃん。ちょっと遠出しない?」
「あ、うん。」
次に会う約束もした気がする。
正直、何を話したのかあまり記憶がない。




