澤村家
「送ってくれてありがとう」
「いーえ。次バイトいつ?」
「明日の」
「優!健太郎くんも!」
後ろから声をかけて来たのは麗だ。
「優のお姉さん。こんばんは」
健太郎はぺこりと頭を下げて挨拶をした。
「こんばんはー!デート帰り?健太郎くん夕飯食べて行きなよ」
「え?」
「せっかくここまで来てくれたんだし。もしかしてこの後予定ある?」
「ないですけど…急に悪いんじゃ」
「じゃあいいじゃない」
「えーと…」
「麗ちゃん…」
「健太郎くん、優の手料理食べたくなーい?」
「…え、優が作るの?」
今度連れてくるからと口を挟もうとした優を遮るように言い募る麗に、戸惑っていた健太郎は期待を込めた目で優を見た。麗がしたり顔で続ける。
「優、料理上手いんだよ」
こうして、健太郎は優の家で夕飯を食べて行くことになった訳である。
「ただいま」
「おかえり、優ちゃん!あのね、!?」
パタパタとリビングから顔を出した愛は、健太郎の姿を認めると慌ててドアの中に戻り顔だけを出した。
「愛…」
「愛ー、優の彼氏の健太郎くん。夕飯食べてくことになったから」
麗が紹介すると愛は半分ドアに隠れたまま健太郎をキッと睨む。
健太郎が微笑んで挨拶するが、愛はそれには何も言わず優の後ろに回ってぎゅうぎゅうとリビングに押して行く。
「優ちゃん数学わかんない」
「あ、愛?わかった、わかったから」
「愛、アンタさぁお客さんにそんな失礼な態度とるくらいなら部屋に引っ込んでなさいよ」
「もう、麗ちゃんそんな言い方しないで…」
ーーー帰りたい。
優はそんな気分だった。自分の家なのに。




