96. ポイゾネスワイバーン戦
さて、目の前にいる巨大なポイゾネスワイバーンだけど、どうやって倒そうか?
ブレス攻撃は効かないみたいだけど、あの牙で噛まれたらこの鎧でも危険そうだよね。
「ミネル、どうしよう?」
『まずは《嵐魔法》を当ててみるぞ。《ストームエッジ》!』
ミネルが放った《嵐魔法》の《ストームエッジ》だけど、ポイゾネスワイバーンの表皮にすら傷をつけることができない。
逆にポイゾネスワイバーンの気に障ったみたいで、勢いよく突っ込んできた!
「ミネル!」
『あの程度ならばかわせる!』
ポイゾネスワイバーンの突撃はかわせたけど、すれ違いざまにトゲ付きの尻尾で殴られた!
鎧を貫通することはなかったけどとっても痛い!
あれで頭を殴られたら気絶して墜落しちゃうかも。
『シズク、無事か?』
「無事だけど……痛かった」
『鎧も一部欠けておる。何度も攻撃を受ければ鎧を破壊されるぞ』
「だよね。どうやって攻めようか」
『危険だが接近戦しかあるまい。《魔獣の鉤爪》で攻めてみるぞ』
「わかった。近づくのは危なそうだけど、いこう!」
私とミネルはポイゾネスワイバーンを追いかけるように飛び始める。
あちらが本気で飛んでいないのか、飛ぶ速度が遅いのかわからないけれど、追いつくことは簡単にできて《魔獣の鉤爪》の射程圏内に頭部を捉えることもできた。
「いくよ、《魔獣の鉤爪》!」
『《魔獣の鉤爪》!』
私とミネル、二重になった《魔獣の鉤爪》がポイゾネスワイバーンの頭部を締め付けた。
はずなんだけど、今度も傷ひとつついていない。
そして、また煩わしく思われたのか、ポイゾネスワイバーンに毒のブレスを吹きかけられて、姿をくらまされた。
毒は効かないんだけど、至近距離で受けるとなにも見えなくなるのが困りものなんだよね。
「まったくもう! このブレス、邪魔!」
『ワイバーン種はブレスを吐けないはずじゃが、さすがは特殊変異個体じゃな。さてどこに……シズク! 上じゃ!』
「えっ!?」
毒の霧を抜けると影が差し込み、真上からポイゾネスワイバーンが降ってきた!
私狙いだったから慌てて避けたけど、完全に避けきることはできず、翼の鉤爪が左肩を直撃、肩の部分の鎧を破壊し左腕にも力が入らなくなってしまう。
これって左肩の骨を折られたの!?
『シズク! 大丈夫か!?』
「つぅ……あまり大丈夫じゃない。《セイントヒール》」
私がシラタマから借りていた《命魔法》の効果で左肩の痛みも治まり、左腕にも力が入るようになった。
でも、肩の鎧はなくなっちゃったし、次に攻撃をもらえば左腕がなくなっちゃうよね。
気をつけないと。
私たちに急降下攻撃を仕掛けてきたポイゾネスワイバーンは勢いそのままに、再び舞い上がってきて今度は噛みつこうとしてきた。
今度こそ尻尾の攻撃にもあたらないように余裕を持ってかわすけれど、反撃の糸口が見つからない!
「ミネル! どうしよう!?」
『とりあえずいまは耐えしのげ! 反撃の糸口はそこから見いだすのじゃ!』
「うん! わかった!」
飛ぶ速度そのものは私たちの方が速いから逃げ回るのは楽。
でも、ポイゾネスワイバーンも毒のブレスをまき散らし、姿をくらませようとするから気が抜けない。
ときどき、すれ違いざまにオリハルコンのダガーで攻撃してみるけれど、その表皮もとても硬くダガーが刃こぼれする。
ダガーの再生を待って翼膜を切りつけても同じ結果だから本当に硬い!
そのまま空中戦は日が沈み始めるまで続いた。
お互いに決め手を欠くからなかなか決着がつかず、じれったいことこの上ない!
でも、表皮はオリハルコンでも傷がつかなかったし、一体どうすれば?
「ああ、もう! どうやれば倒せるの!?」
『落ち着け、シズク。あちらも相当いらだって攻撃が大振りになってきている。いまなら隙を見て首をはねることができるのではないか?』
「それに賭けてみよう! いこう、ミネル!」
『承知!』
また突っ込んできた私たちに向かって毒のブレスを吐き、目潰しをしようとするけれどそうはいかない。
今度は私たちが急上昇して毒のブレスをかわした。
そしてそのまま、真下に向かって急降下しながらの斬撃!
「《魔爪刃》!!」
「Gugya!?」
よし、効いた!?
『シズク、上から追って来ておる!』
「えぇ!?」
『横に逃げるぞ!』
「うん!」
私たちは大慌てで角度を急変更し、ポイゾネスワイバーンの攻撃を回避。
そのとき背中に衝撃を受けたから、また尻尾の攻撃を食らったみたい。
首を切り落とすこともできていないの!?
『シズク! レザーアーマーの背中も破壊されているぞ!』
「そんな気がした!」
うう、だんだんボロボロになっていっているよ……。
この鎧、本当に再生していっているんだけど、それ以上の速度で破壊されているから気が抜けない。
頭に攻撃を受けていないだけいいんだけど、頭に攻撃を受けたらそれだけで墜落死一直線な気がする!
くっ、このままじゃ本当に反撃する余地がない!
でも、逃げ回ってばかりでアイリーンの街の方へ向かわれてもまずいし!
「どうすればいいの、ミネル!? 攻撃手段がないよ!?」
『儂も考えておる! ええい、ここまで頑丈なモンスターがいるとは……』
そのあとも、空が赤く染まり日が沈みきるまであまり意味のない攻撃と死ぬ寸前の回避を繰り返し続けた。
でも、やっぱり打つ手が見つからない!
「ミネル! このままじゃ私の魔力が切れちゃう!?」
『マジックポーションも品切れか!?』
「あと1本しか残ってないよ!」
『ええい、どうすれば……』
空を飛び回りながらポイゾネスワイバーンと追いかけっこをしていたそのとき、急にやつの動きが止まりもがき苦しみ始めた。
一体なに?
「おーい! シズク! 待たせたな!」
この声は……サンドロックさん?
「そいつを操っていたオークエンプレスは始末した! 今がチャンスだ! なんとかしろ!」
「いや、なんとかしろと言われても……」
なんとかしようと思ってもすべての攻撃がはじかれるんですけれど!?
ええい、どうすれば!?
『シズク、喉元を狙ってみよ! そこならば柔らかいかもしれぬ!』
「喉元……そうか!!」
私はミネルの助言通り勢いをつけ、もがき苦しんでいるポイゾネスワイバーンの喉元めがけ突っ込んでいった。
「《魔爪刃》!」
やった!
今度はダガーが突き刺さってくれた!
突き刺したダガーを再度《魔爪刃》で押し込もうとしたけど、そっちは無理だったので喉元を《魔爪刃》で切り裂いて一度離れ頭部にはりつく。
「目玉なら切れるでしょう! 《魔爪刃》!」
そう考えてダガーを目玉に突き刺そうとしたんだけど、目玉も硬い!
ダガーが欠けなかっただけよかった。
でも、次の攻撃手段が……そうだ!
一旦離れて、勢いをつけなおす準備をして……。
『シズク、どうする気じゃ?』
「解体してみる!」
『解体?』
「解体の基本は下腹部から引き裂く!」
私は喉元を切り裂かれ、血を吹き上げながら苦しんでいるポイゾネスワイバーンの真下に回り、勢いよく跳び上がりながらダガーを突き刺した!
「《魔爪刃》!」
すると、ダガーは綺麗にポイゾネスワイバーンの下腹部に突き刺さり、血がこぼれ落ち始めた!
これならいける!
「《魔爪刃》! 《魔爪刃》! 《魔爪刃》! 《魔爪刃》!!」
したたり落ちる血を浴びることも気にせず、私は下腹部から胸の方めがけてダガーで切り裂いていく。
うん、バッチリ切れるね!
そして胸まで切り裂き終わったところ、心臓の隣に紫色に輝く石が見えた。
あれって……。
「んふふ……さすがに魔石がなくなればモンスターは死ぬでしょう!!」
私は再び胸めがけて突撃し、魔石の周囲にダガーを突き刺す。
そのままダガーで魔石の周囲を切り裂いていけば……。
「生きたモンスターからの魔石採取完了!」
私が魔石を取り出すと心臓も止まり、ポイゾネスワイバーンの体が地面に落ち始めた。
私を巻き込んで。
「ちょ!? 待って!?」
私はなんとか抜け出す事に成功。
ポイゾネスワイバーンは……〝オークの砦〟砦前広場に落ちたみたい。
なんにしても、私の勝利だ!
「勝ったぞー!!」
私の雄叫びが既に暗くなった夜空に響いた。
これで〝オークの砦〟攻略戦、完全勝利だ!
気に入りましたら評価ボタンのポチをお願いいたします。




