87. 鉱山制圧後の事変
檻を解除してもらい外に出ると、先輩冒険者のみんながいた。
ただ、大怪我をしている人もいるし、大変そう。
「終わったようだな、シズク」
「はい、終わりました。次はなにをしますか?」
「キントキにはオークジェネラルとオークバーサーカーの解体を頼みたい。お前とシラタマは重傷者の治療を。軽傷者は手持ちのポーションで間に合わせる」
「わかりました。キントキ、シラタマ、始めるよ」
『わかった』
『はいなの』
今回参加している先輩冒険者の皆さんもやっぱりオークバーサーカークラスの相手になると辛いみたい。
60人がかりで3匹を相手にしていたのに骨折者が多数いたよ。
私とシラタマの魔法は《命魔法》だから骨折も治せるけれど、そうじゃなかったら戦線離脱を余儀なくされていたし、こんな山奥からだと帰るのも大変だよね。
オークバーサーカーの攻撃で武器を破壊された人も多いみたいだし、不意打ちと撹乱、分不相応なくらい上質な武器で戦う私なんかとは大違い。
やっぱり冒険者って命がけ。
負傷者の治療が終わったら、次の指示として壊れた武器などを回収してからサンドロックさんと合流し指示を受けるように命じられた。
デイビッド教官を初めとした冒険者の皆さんはここで一晩野営をしてから帰るらしい。
ともかく、指示を受けたから滝にある裏口まで戻ろうとしたんだけど……途中にオークジェネラルの死体が2匹分転がっていた!?
なにこれ!?
「おう、シズク。戻ったか」
「サンドロックさん?」
私がオークジェネラルの死体の側まで来るとサンドロックさんが姿を現した。
これってサンドロックさんが仕留めたのかな?
「シズク、話はあとでする。こいつらを解体して俺と一緒に戻ってくれ」
「わかりました。キントキ」
『うん』
キントキにオークジェネラルを解体して回収してもらい、サンドロックさんと一緒に洞窟側にある野営地へ向かう。
すると野営地にもたくさんの負傷者がいて……どうなっているの!?
「シズク、シラタマ。ひとまず冒険者の治療を頼む。重傷者を優先だ。あと、お前のマジックバッグの中にはポーションが大量に詰められていたよな?」
「はい。メイナお姉ちゃんからたくさんもらいました」
「すまないがそれも出してくれ。軽傷者はそちらで回復させる。お前の魔力も有限だろうからな」
「キントキがいればかなり回復は早いですが、連続使用をしていると気分が悪くなってきますね」
「お前にはこのあとも少し仕事をしてもらわなきゃならん。いまは無理をしない範囲にとどめてくれ」
「わかりました。ポーションはこちらに置いていきます」
「助かる。お前ら! ポーションの追加だ! 軽傷者はそれで回復しろ! 重傷者はシズクとシラタマが回復して回るからそれを待て!」
そのあとは私とシラタマで分担して《命魔法》を使って回ったけど、こっちも激戦のあとが見受けられた。
骨折者も多いし、骨折していなくてもポーションでは治すことが難しいような深い傷の人がいる。
一体、こっちではなにがあったんだろう?
治療も一通り終わってサンドロックさんのところに戻ってくると、〝オークの砦〟につながる洞窟をにらみながら難しい顔をしていた。
こっちでは一体なにがあったの?
「治療、終わったか?」
「はい、終わりました」
「そうか。今日は死人が出なくて運がよかったからな。明日からはそうも言っていられなくなるだろうが」
「明日から?」
「鉱山へ向かう山道で死んでいたオークジェネラル2匹は俺がぶっ殺した。問題はそいつらに付き従っていたオークバーサーカーが2匹いたことなんだ」
「オークバーサーカーが2匹いた?」
あれ?
オークジェネラル2匹は死んでいたけど、オークバーサーカーの死体なんてなかったよね?
あんな大物の死体を解体するなんて人の手では難しいから、なにか別の方法で取り除いたのかな?
「お前、オークバーサーカーの死体がなかった理由はわかるか?」
「いえ。……まさか、倒していない!?」
「そのまさかだ。残っていた冒険者が奮戦してくれたが、返り討ちにあい〝オークの砦〟へと逃げ帰らせてしまった。つまり、少なくとも鉱山を潰したことは露見した。俺たちがここで陣取っていることも露見したかもな」
「それ、まずいんじゃ」
「非常にまずい。いま、〝オークの砦〟の中でどのような状況になっているかは知らん。だが、確実に鉱山方面への攻撃部隊が遅くとも明日には出陣する。それに伴い、この野営地にも攻撃があるかもしれねぇし、本営にも部隊が送られるかもしれねぇ。このあとオークどもがどうでるかが運命の分かれ道だ」
うぅ……弱った。
鉱山はもう潰したからこれ以上の装備強化はされないはず。
でも、そのせいでオークがどう動くかわからなくなっちゃうだなんて。
どうするべきなんだろう。
「それで、もう夜だがお前に命令だ。まず、アイリーンの街へ戻り今日の戦果をすべて渡してこい。そして、完成している武器や防具、回復薬もすべて回収してくるんだ」
「はい。次はどうすればいいんでしょう?」
「次はそれらを鉱山付近にいる部隊に届けて明日の準備をさせろ。少なくとも、あいつらはどこかでオーク軍とかち合うことになる。街から持ち帰った回復薬も半分以上渡してこい」
「わかりました。その次は?」
「この野営地に戻ってきて残っている装備を置いていけ。回復薬も含めてすべてだ。それで、この野営地は準備をさせる」
「了解しました。他には?」
「本営に戻ってオーク軍の襲撃に備えるよう伝言を出してこい。残っている装備もいいものから使い始めて出し惜しみするなと伝えろ。本営の守備隊には悪いが、こちらから増援を送る余裕がない」
「以上ですか? 私はどうすれば?」
「本営への伝言が終わったら野営地に戻ってきて寝ろ。お前は明日状況を見て動いてもらうことになる。オークジェネラルとは戦えるか?」
「はい。不意打ちで1匹、1対1で無傷のまま腕を切り落とすところまでいけました」
「十分だ。冒険者1年目のお前に頼むことじゃないんだが、お前の相手はオークジェネラルかオークバーサーカーになる。オークバーサーカーは守りが弱いからお前にとっては格好の獲物だろう。だが、オークジェネラルには気をつけろ。攻撃の角度が悪ければ、お前のダガーでもはじかれるからな」
「わかりました」
「命令は以上だ。アイリーンの街へ急げ」
「では出発します。キントキ、お願い」
『早く僕に乗って!』
このあと、私はサンドロックさんの指示通り各所を走り回り伝令も伝え回った。
デイビッド教官たちはもう覚悟が決まっていたみたいだけど、本営の守備隊は動揺していたね。
サンドロックさんもデイビッド教官もいないところにオークジェネラルが来るかもしれないってなるとしょうがないか。
オークたちが動き出したら私がどう動くのかはサンドロックさんの指示次第だけど、なるべく被害は少なくすんでほしいな。
……死者を出さないのは難しそうだから。
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