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79. 2月目、ついに始まる攻略作戦

 冒険者の武装も整い、人の確保もなんとかできたらしい。

 私はその辺を聞いていないから知らないけれど、ともかく、夏の2月目に入る今日から侵攻作戦開始だ。

 メルカトリオ錬金術師店で朝食を食べられるのも、これからしばらくは無理。

 メイナお姉ちゃんとミーベルンにもまた会えなくなっちゃう。

 きちんとあいさつしてから出向かなきゃ。


「ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした」


「ごちそうさまです」


 朝食も食べ終わったし、ふたりにあいさつを……。


「さてと、お店を開ける準備をしなくちゃ」


「私は朝食のお片付けー」


「へ?」


 ふたりともいつもと変わらない日常を過ごしに行こうとして一瞬動きが止まってしまう。

 そんな私を見て、ふたりも不思議そうな顔をして見つめているね。

 これってどういう?


「シズクちゃん。なにかあったの?」


「ああ、いや。私は今日から〝オークの砦〟討伐の遠征軍に加わるし、しばらく会えなくなるなと……」


「でも、シズクお姉ちゃん、帰ってくるよね?」


「え? それはもちろん」


家族(ペット)たちも一緒でしょう? なら心配いらないわ」


「そうだよ。お姉ちゃんたちは無事に帰ってくるんだもん。特にあいさつなんていらないよ」


「普通に〝いってきます〟って出ていって、〝ただいま〟って帰ってくればいいのよ」


 うう、ふたりとも優しいなぁ。

 涙が出ちゃいそう。

 でも、泣いたら台無しだよね。

 しっかりあいさつをしてでていかないと。


「それじゃあ、部屋に戻って装備を調えてくるね。それが終わったら出発するよ」


「ええ、気をつけてね」


「ウルフ狩り、またしばらくできなくなるけれど、我慢する!」


「うん、ミーベルンもいい子だね」


「えへへ、褒められた」


 私は部屋に戻り防具をすべて身につける。

 それが終わったら、オリハルコンのダガーの具合も確認して……よし、完璧!

 私は装備に身を包んだままお店の入り口側へと向かう。

 そこでは、メイナお姉ちゃんとミーベルンが開店準備をしていた。


「準備できたようね、シズクちゃん」


「うん。それじゃあ、〝いってきます〟!」


「はい、いってらっしゃい。気をつけてね」


「シズクお姉ちゃん、気をつけてね!」


 メルカトリオ錬金術師店を出発した私は、冒険者たちの集合場所でもある街の広場へと向かった。

 そこは、たくさんの冒険者であふれかえっているね。

 その中に見知った顔の冒険者を見かけたので、少しだけ声をかけてみることにした。


「ルイスたち。元気にしていた?」


「その声は……シズクさんですか!?」


「ああ、いまの私は兜も着けちゃっているからね。ルイスたちも参加するの?」


「はい。俺たちもDランクに上がれましたので参加することにしました」


「オークが怖い魔物だっていうことは十分承知しています。それでもなにかしたいんです」


 そっか、この子たちも成長しているんだ。

 ひとりひとり順番に声をかけていくと、それぞれが成長していっているのがよくわかる。

 普段はウルフ狩りで街への貢献、ゴブリンの大討伐では実戦経験と連携を強化していった結果らしい。

 本当にいいパーティに育ってくれたよ。

 最後は、ベティかな。

 この子は施療院への就職希望者だったけど、どの程度まで成長したんだろう?


「ベティはどの程度の《回復魔法》が使えるようになっているの?」


「まだ、《ミドルヒール》です。でも、後方支援ならお役に立てるかなって」


「なるほどね。今回の砦攻め、前回の防衛戦以上に負傷者が出そうだから大変だよ。頑張って」


「はい!」


 そのあともこれまでどんなことをしてきたかを聞いていると、群青色の革鎧を身につけた戦士が私を呼びにきた。

 言うまでもなくデイビッド教官だ。


「探し……はしなかったな。お前の白い鎧はこの冒険者の中でも目立つ」


「そんなに目立ちますか?」


「他の冒険者は濃い黒紫色のレザーアーマーがほとんどなのに、白い光沢を放つレザーアーマーを着込んでいるお前はよく目立つ。同じ色の兜も着けているしな」


「それもそうですね。なにかありましたか?」


「すまないが、お前にも演壇に上がってもらいたい。特に話すことはないが、前回の防衛戦以上の戦いだ。戦功第1位から第3位まで全員が参加することを見せる必要があるだろう」


 うう、目立つのは苦手なのに……。

 でも、仕方がないか。

 私も参加することを見せないとしまらないものね。


「わかりました、一緒に行きます。ルイスたちも、無理をしないように気をつけてね」


「はい。シズクさんもお気をつけて」


「うん、ありがとう」


 演壇の側に行くと、既にサンドロックさんとケウナコウ様が待機していた。

 これから遂に決戦が始まるんだ!


「来たか、シズク」


「はい」


「すまぬな。お主がいないとどうしても示しがつかぬ」


「いえ、ケウナコウ様からはオリハルコンのダガーもいただきました。これくらいはしないと」


「わかった。では、そろそろ時間だ。全員、演壇に上がるぞ」


「おう」


「わかりました」


「はい」


 ケウナコウ様を先頭にステージ脇から出ていき、前回の防衛戦で戦功の高かった全員が演壇上に立ち並ぶ。

 ここからが始まりなんだ!


「皆の者、よく集まってくれた。私はアイリーンの街領主ケウナコウ。この街を代表し、皆に敬意と感謝を述べたい。今回は我が街の脅威、〝オークの砦〟侵攻作戦に参加してもらいまことに感謝する。我が街からも可能な範囲で支援を行ってきたが、オークどもも同じように装備を強化しているようだ。気を抜かぬように心がけてほしい。この先は、冒険者ギルドマスター、サンドロックに任せる」


「ああ。俺がアイリーンの街の冒険者ギルドマスターサンドロックだ。俺は主に第一部隊の指揮を担当することになる。正面から向かってくるオークどもは俺が可能な範囲でねじ伏せる。だが、オークジェネラルなんかが出てきた場合、そっちにかかりきるになるだろう。そうなれば、オークナイトなどの相手もお前らがやらなくちゃいけねぇ。それ以外にも、オークアサシンやオークレンジャーだって多数潜んでいるはずだ。やつらの攻撃力を見くびるな! キラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの合成革製の鎧でも頭を狙われれば即死だし、アサシンに首を切られても即死だ! 死にたくなかったら、侵攻作戦中は常に気を張れ! 次、デイビッド」


「はい。私はアイリーンの街の冒険者ギルド所属指導教官兼ギルドマスター補佐のデイビット。今回の侵攻作戦では第二部隊の指揮を執る。サンドロックギルドマスターが言いたいことはほとんど説明してくれたが、我々にとっての脅威はアサシンとレンジャーによる不意打ちだ。こればかりは各自が気を抜かないようにするしかない。冒険者側にも相応の被害が出ることは覚悟して進み続けるしかないのだ。今回の侵攻作戦では可能な限りオークの指揮官個体を減らすことが目的だからな。諸君らの健闘に期待する。次、シズク、いけるか?」


「ひゃい!?」


 私!?

 私に話せることなんてあまりないよ!?


「ええと、〝ウルフ狩りのステップワンダー〟シズクです。私がオークの見張りを担当していた限りでは、いまのオークは門衛すら魔鉄の槍を持っていました。皆さんの防具なら魔鉄の装備でも防げるでしょうが、魔鋼製の武器になると深めの傷をつけられるはずです。防具の準備は間に合いましたが過信しないでください。それと、私は別働隊としての行動になります。夜には皆さんと合流する予定ですので、それまで生き残ってくれれば、私が治療して回ります。どうか、皆さん。生きることを諦めないでください。私からは以上です」


 私のスピーチまで終わると冒険者たちから大音量の歓声が沸き上がった。

 よかった、これで大丈夫だったんだよね。

 ある程度、歓声が鎮まると、サンドロックさんが左手を挙げて注目を集める。

 今度はなにを話すんだろう?


「いいか。今日から俺たちは決死の覚悟で〝オークの砦〟を攻めることになる。兵糧は1カ月分集まった。逆を言えば、1カ月以内には結果を出さなくちゃいけねぇ。目標は〝オークの砦〟壊滅だが、そこまでいかなくとも、指揮官個体の大多数を撃破できれば十分だ。予備の装備も持っていくし、作戦期間中に街からも取り寄せる。それでも、いま手元にある装備が一番質のいい装備だ。粗末に扱うんじゃねぇぞ! 俺たちからは以上だ、次は街門のところにいる出征受付担当に名前とランクを告げて本営設置予定地までの担当を決めてもらえ。ほとんどは荷馬車か治癒術士の護衛役になるだろうが、それ以外の役割を与えられる奴もいる。お前ら、気を抜くなよ」


 サンドロックさんの宣言とともに冒険者組の出征は始まった。

 私もできる範囲で担当をこなさなくちゃ!

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