78. 6週目、互いに整ってきた準備
ドラマリーンの街で装備を発注してから約2週間が過ぎ、装備を取りに行こうとしたらドラマリーンの冒険者ギルドのギルドマスターデレック様がやってきた。
なんでも、私の代わりに発注していたレザーアーマー一式を届けにきてくれたそうだ。
本当にありがたい。
デレック様はついでと言わんばかりにキラーブルやフォーホーンブル、キラーヴァイパーの肉も買い付けていったけど、どっちが本来の目的だったんだろう?
どちらにしても、アイリーンの街側の防具が整ったのはありがたいことだけどね。
いまはギルドマスタールームにサンドロックさんとケウナコウ様、デイビッド教官、それに私が集まっての対策会議中だ。
……私がいても発言できることのなんて少ないんですけど。
「ふむ。冒険者の装備は整ったか、サンドロック」
「ああ、ケウナコウ。支援してくれて助かったぜ」
「なに、準備が間に合わずまた攻め込まれては元も子もない。それで、デイビッド。Dランク冒険者の仕上がり具合はどうだ?」
「なんとか戦えるでしょう。ただ、やはり倒せるのは一般兵クラスがぎりぎり。オークナイトクラスになるとCランク以上の冒険者がメインでしょうね」
「やはりそうなってしまうか。ハイオークの相手はできるのか?」
「数人で1匹を相手にできる状況が生まれれば、ですね。1対1だと難しいかと」
「そうか。サンドロック、隠密行動部隊の方は?」
「そっちはしっかり準備が整っている。武器も防具もアダムの装備が間に合ったからな。戦果も期待できるだろう」
「わかった。隠密行動部隊にはシズクも参加するのだったな。大丈夫か?」
「は、はい! やり遂げてみせます!」
「そう緊張すんな。お前が指揮を執るわけじゃない。先輩冒険者の指示に従って動き回り、ブラックスミスやアルケミストを始末して回ればいいんだからよ」
「は、はい」
そうは言われても緊張するよ。
街の命運を賭けた戦いに参加するなんてこと、これっぽっちも考えたことがなかったもの。
「シズクは無理をしない範囲にとどめておけ。お前の能力は強力だが、だからこそ最終手段として残しておきたいからな」
「デイビッド教官、それってなるべくペットから借りているスキルを使うなってことですか?」
「わかりやすく言ってしまえばそうなる。移動や索敵などのスキルは使っていても構わない。できれば、攻撃系のスキル、特に遠距離攻撃系のスキルは隠しておいてもらいたいんだ」
「それはどういう意味でしょう?」
「俺たちが攻め込むのは〝オークの砦〟、つまり、やつらの中枢部だ。街が攻められたときにはいなかった種類のオークも潜んでいるはず。オークジェネラルを討ち取ったときのことは、あちらも混乱していて詳しくは伝わっていないだろう。だが、〝オークの砦〟で使ってしまえば、すぐにその存在がオーク側の上層部に漏れる。お前を危険な戦いに巻き込むつもりはないが、いざというときには働いてもらわなければいけないからな」
うう、やっぱりそうだよね。
こんな豪華な装備に身を包んでいるんだもの、いざというときには備えないといけないよね。
覚悟は決めておこう。
「〝オークの砦〟に行けばオークアサシンも多数いるはずだ。攻め込まれたときにいなかったのは幸いだったが、さすがに〝オークの砦〟には控えているだろう。隠密行動部隊も決して安全ではないぞ」
「〝オークアサシン〟ですか?」
「オークの中でも隠密行動と暗殺を得意とする連中だ。非常に気配が薄く、柱の陰や天井の梁の上、屋根の上などからも攻めかかってくる。隠密行動部隊が一番相手にするのはこいつらだろうな」
オークアサシンか、強そうだなぁ。
暗殺が得意っていうことは不意打ちが得意ってことだよね。
仲間たちもだけど、それ以外の同行者も標的にされないように注意しないと。
「ともかく、シズクが一番戦いになりやすい相手はオークアサシンだ。オークアサシンと戦っていてもたつき、ブラックスミスやアルケミストを取り逃がしては意味がない。お前は先輩冒険者の指示をよく聞け。いいな」
「はい。わかりました」
よし、覚悟は決まった。
先輩方の足手まといにならないようにしっかりついていこう。
「シズクへの指示出しは終わったな。あとは全体としての流れを確認か」
「そうですね。まずはどうやって砦内まで侵入するかですか」
「跳ね橋じゃねえが、それでもそこまで広くない橋を渡らなくちゃいけねぇ。城壁も一部崩れているとはいえ、全部が崩れているわけじゃねぇからもたついていたら壁の上から矢や魔法が飛んできて蜂の巣だ。オークどももそれは理解しているだろうから、槍衾を使って遮ってくるだろう。壁の上をこちらから攻撃するのは難しい。どうする?」
「あ、あの。私が飛んで城壁上のオークたちを切り倒していくのは?」
「シズク、悪いが却下だ。お前が飛べることは可能な限り秘密にしておきたい。他にも特殊な移動方法はあるか?」
「ええと、壁を歩けるようになりました。これも基本的に禁止ですね」
「そうだな。基本的に使うな。そうなると、一番有効なのは俺とデイビッドのふたりで突っ込んで無理矢理こじ開ける戦法か?」
「そうですね。防具の防御力に頼り切った力押しになりますが、それが一番早くて安全でしょう」
サンドロックさんもデイビッド教官も血の気が多い。
でも、あのレザーアーマーに身を包んでいるんだもの、ふたりだけで突撃すれば被害は出ないのかも。
「問題はそのあとか。どうやって砦内に攻め込んだものか」
「正面入り口は崩壊していますからね。横の通路から入って行くしかありませんが、ここも狭く不意打ちされやすいポイントです」
「それしか道はないんだけどな。とりあえず、俺とデイビッドの二手に分かれて攻め込むしかないか」
「そうですね。隠密行動部隊はそのあとから入ってもらいましょう」
「そのあとは二手に分かれて侵攻か。なんとも言い難いな」
「砦内部がどう改築されているかもわかりませんからね。合流できれば運がよかった、程度に考えておきましょう」
「ああ。あとは退却時間だな」
「それも考えねばなりませんね。宿営地や治癒術士も問題ですが」
「宿営地はある程度プランができているからいい。治癒術士も希望者を募っているからなんとかそれでやりくりするしかないだろう」
このあとも難しいやりとりは続いた。
結局、私は最後の奥の手として動けるよう、手の内はなるべく隠せっていうことらしい。
ペットたちも気合いが入ってきたみたいだし、決行はもう目前。
予定は前倒しになっちゃったけどやるしかないよね!
オークをある程度減らせなければアイリーンの街が危ないんだ、頑張ろう!
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