71. 家族との団らんとスキルの強化
「シズクお姉ちゃん、起きて。朝食の時間だよ」
「ええ、もう?」
「シズクお姉ちゃん、お寝坊しすぎ」
「ごめんね、ミーベルン」
私、シズクは昨日、アイリーン特使としての任務を終え、メイナお姉ちゃんとミーベルンの待つメルカトリオ錬金術師店へと帰ってきた。
それで、昨日の夜はミーベルンにお願いして一緒に寝てもらったんだけど……気持ちよかったなぁ。
「シズクお姉ちゃん、早く着替えてきてね」
「うん。すぐ行くね」
私は起き上がって着替えるとすぐリビングへ。
そこではメイナお姉ちゃんが朝食の配膳を終えて待っていてくれた。
「シズクちゃん。お仕事が終わったからって気を抜きすぎだよ?」
「あはは、ごめんなさい」
「まあ、今日1日だけなら許してあげる。明日からはきちんと起きてきてね?」
「はい。そうします」
「じゃあ、シズクちゃんも席に着いて。朝食にしましょう」
私たちは家族3人仲良く朝食を食べることに。
ミーベルンも体調がよさそうだしよかったよかった。
他の家族たちもおいしそうにご飯を食べてくれているし、元気でなによりだね。
朝食を食べ終わると、私とミーベルンは食事の後片付け、メイナお姉ちゃんはメルカトリオ錬金術師店の開店準備に行った。
さて、食器も洗い終わったし、今日はなにをして過ごそうかな?
「ねえ、シズクお姉ちゃん。私、ウルフ狩りに行きたい」
「ウルフ狩りか。私もしばらく行っていないし、街にお肉と毛皮も供給しなくちゃいけないよね。いいよ、連れて行ってあげる」
「やったぁ! あのね、私、ペットから借りられるスキルの数が2つに増えていたの!」
「すごいね、ミーベルン! それで、なにを借りているの?」
「《隠密行動》と《周囲警戒》! ニベラマもベルンもハンテンも結構強くなってきたよ!」
「よかったね、ミーベルン。でも、油断しちゃだめだよ」
「うん! 私、鎧とかを着てくる!」
あらら、嬉しそうに駆けていっちゃった。
ミーベルンも〝ペットテイマー〟だし、将来は冒険者なのかな?
さて、私も冒険者服に着替えてレザーアーマーを身につけないと。
私が着替え終わったらレザーアーマーをつけるのに苦労していたミーベルンを手伝ってあげる。
私も最初の頃はもたついてたからね。
慣れれば早くなるよってミーベルンにも伝えておいた。
準備が整ったらメイナお姉ちゃんに一声かけ、ミーベルンと一緒に〝ウルフの林〟へ向かった。
最初は自信なさげだったミーベルンも、いまではちょっとだけ自信がついてきているからね。
仲間たちもいるから油断しないだろうけれど、無理はしないように見ていてあげないと。
「あ、早速ウルフ発見」
「え、どこ?」
ミーベルンにはまだ気付けないか。
わりと近くにいるんだけどな。
「そこの茂みの影。こっちにはまだ気がついていないから、うまくいけば先手を取れるかも」
「わかった。ベルン、お願い」
『《帯電》だな。任せておけ』
ミーベルンの指示を受けたベルンが体を青白く光らせながら茂みの奥へと消えていった。
すると、ウルフが一鳴きする音だけが聞こえて、ベルンが戻ってきたよ。
『気絶させておいた。ミーベルン、とどめを』
「うん、わかった」
へえ、ベルンの《帯電》って触れるだけで、もうウルフを気絶させることができるんだ。
このまま鍛えていけば触れるだけでウルフを倒せるようになっちゃうかも。
私もミーベルンと一緒に茂みの影へと回り込み、ミーベルンがウルフにとどめをさすところを確認した。
そして、ミーベルンは周囲に他のウルフがいないことを確認してから解体を始める。
ニベラマやベルン、ハンテンも周囲を警戒しているし、1週間いなかった間にかなり成長しているよ。
解体は経験が少ないからあまりうまくいってないけれど、それでも駆け出し冒険者と考えれば上出来な方。
このまま鍛えていけば上手に肉と毛皮を切り離せるようになる日も近いかも。
ミーベルンも頑張り屋さんだからね。
ミーベルンには10匹ほど狩りをさせたところで終了。
本人は不満だったみたいだけれど、持てる荷物の量を考えるように説明したら諦めてくれた。
今度は力も鍛えなくちゃね。
そうなると私の狩りなんだけど。
「あれ?」
さっきから気にはなっていたけれど、全方位の音がよく聞こえるし、走る速度もすごく速くなっている。
ダガーの切れ味は元々いいから《魔爪》を使わずにウルフの首をはねてるんだけど、こんなに楽だったっけ?
疑問に思いつつもキントキに解体と回収を任せながら歩いて50匹ちょっとを倒したら終了。
そのあとは、ミーベルンに薬草などの採取方法を教えるために沢の上流へ。
ここでも不思議なことに普段よりも静かに飛んでいる気がする。
一体なんで?
薬草を採取し終わったら沢の水で手を洗ってミーベルンと昼食なんだけど……なにが変わったんだろう?
『ふむ、ミーベルンにも移動手段として鳥系のペットがいた方がいいかもしれぬな』
「本当!? ミネル!!」
『嘘は言わぬよ。今度、儂の仲間を紹介してやろう。最初は弱いから即戦力として期待するなよ?』
「うん!」
ミーベルンたらあんなに喜んじゃって。
新しい家族がそんなに嬉しいんだね。
さて、私の疑問もミネルに聞いておこう。
「ねえ、ミネル。ひょっとしてみんなのスキルが強化されてる?」
『いまさらか?』
『鈍すぎるよ、シズク』
『教えてこなかったけど、気付くのが遅いわさ』
『もっと早く気がついてほしかったの』
「あ、やっぱり強化されているんだ」
『うむ。まずは儂から。儂は《魔の鉤爪》が《魔獣の鉤爪》に強化された。威力が数倍になっておるから、多少の鎧兜ならば気にせずひねり潰せるぞ』
うわー、《魔の鉤爪》でも凶悪だったのにさらに強くなってたんだ。
最近使ってなかったから知らなかったよ。
『次に《静音飛行》が《無音飛行》に強化されておる。その名の通り、空を飛ぶときにまったく音がしなくなり、飛ぶ速度も速くなっているはずじゃ。気をつけて使え』
「わかった。他には?」
『《超聴覚》が《全周囲集音》に変わった。これで前方だけではなく、背後や側面の音も拾えるぞ。混乱するなよ』
「気をつけるよ。これで終わり?」
『あとひとつ。《風魔法》が《嵐魔法》に変わった。これで、大規模な攻撃や高密度な風による攻撃が行えるようになる。シズクも使えるが魔力消費も相応に増えるから注意せよ』
「はーい」
私が知らない間にミネルがすごい強化されている!
ひょっとして他の子たちも!?
『次は僕かな。僕は《土魔法》が《大地魔法》になったくらいだよ。他のスキルも大幅にパワーアップしているけどね』
「キントキも強くなったんだね」
『次はわちだわさ。わちは《砂魔法》が《灼砂魔法》になったわさ。砂による攻撃や目くらましに熱を持たせてやけどを負わせることができるようになったのだわさ』
「モナカもかぁ」
『わちはもっと変わっているわさ。《魔爪》が《魔爪刃》に強化、《俊足迅雷》が《疾風迅雷》に強化、あと《壁登り》というスキルを覚えたのだわさ』
「《魔爪刃》と《疾風迅雷》は元のスキルの強化版だよね? 《壁登り》は?」
『使ってみるといいわさ』
「わかった。って、あれ?」
『どうかしたわさ?』
「スキル、9個借りられてる」
『シズクも強くなっているわさ。他にもなにか借りてみて、どれだけスキルを同時に使えるか試すわさ』
「う、うん」
試しにどれだけ借りることができるかやってみたけれど、同時に10個までいけるみたい。
これで戦術の幅が増えたけれど、悩ましい……。
そして、《壁登り》は壁を普通に歩いていけるスキルだった。
上ることも下りることも横に動くことも自由自在。
足だけで移動できるから、手も使えてジャンプもできるし壁から飛びかかってそのまま切りかかるなんて離れ業もできるようになっちゃった。
私、どこに向かっているんだろう。
『最後はあたちなの。あたちは《回復魔法》が《命魔法》に強化、《気配判別》が《存在判別》に強化、《ガードバリア》が《シールドバリア》に強化なの。《命魔法》なら骨折も治せるけれど無茶しちゃメッなの』
《存在判別》かぁ。
さっきからミーベルンやペットたちのことがよくわかるし、薬草や魔力草の気配だってわかる。
ずっと下にいるウルフの気配だってわかっちゃうんだから優れものだよね。
これ頼りだけっていうのは危険だけれど便利に使わせてもらおう。
あと、私自身のスキルも強化されていて、《ペット用ご飯作り》が《ペット用デリシャスご飯作り》に、《ペット強化》が《ペット常時強化》に変わっていた。
《ペット常時強化》はその名前の通り、魔力を渡さなくてもペットが強化される能力らしい。
《ペット用デリシャスご飯作り》はご飯がおいしくなり、ペットの力が上がりやすくなるんだとか。
ミーベルンに嫉妬されちゃったけど、ミーベルンも頑張ればいつか到達できるよって教えたら、すっごくはりきりだした。
これは帰る前にもう10匹くらいウルフを倒させなくちゃだめかなあ。
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