68. ヴァイパーの倒し方
昨日は新人冒険者たち相手にウルフの倒し方や恐怖を味わってもらった。
あれで新人たちの死亡率が少しでも減ってくれるといいんだけどね。
そして今日、私たちはコーツさんとともに再びヴァイパー狩りにきていた。
2日間でどの程度復活するのかも確認しておきたかったし、この際だから少しでも大目に狩り取っちゃえと言うわけで。
ただ今日は先輩冒険者の皆さんもきているんだよね。
私の狩り方から少しでも安全に狩る為のヒントを得たいからって。
私の狩り方って素早く動いて空から突撃、が基本なんだけど大丈夫かな?
そんな一抹の不安を抱えながらも岩山登りへ。
そうすると、すぐにキラーヴァイパーがいたよ……。
一昨日、あれだけ倒したのにこんな入り口付近にいるだなんて。
コーツさんも頭を抱えているみたい。
「コーツ、この少女は一昨日何匹くらいのキラーヴァイパーを狩り取ったんだ? お前が頭を抱えるだなんて珍しい」
「百匹以上倒してもらいました。それなのに、こんな入り口付近にまでまたいるなんて……」
「ひゃ……本当なのか? コーツ?」
「本当です。特殊変異個体も始末してもらいました」
「〝ウルフ狩りのステップワンダー〟の異名は伊達じゃないと言うことか」
うう、なにか後ろで恥ずかしいことをいわれている。
本来の私はウルフ狩り専門のステップワンダーなのに。
「とりあえず、あの1匹、倒してきちゃっていいですか?」
「ええ、頼みます。あれがたまたま入り口付近に降りてきた個体なのか、この先も多数いるのか調べなければ」
「わかりました。それでは始めます!」
最初は冒険者さんたちのお手本になるように飛ばないで倒してみようかな?
そうなると頭は低い位置に下ろしてもらわないといけないし。
これが一番かな。
「《魔爪》!」
私は威力を弱めた《魔爪》をキラーヴァイパーの頭にぶつける。
キラーヴァイパーは怒って、私のことを丸呑みにしようと真上から襲いかかってきたけど、これはチャンスかな?
キラーヴァイパーの攻撃をかわし、そのまま頭にダガーを突き刺して《魔爪》を連打。
これで1匹目のキラーヴァイパーは動かなくなったね。
解体魔法で解体して、《ストレージ》にもしまってと。
そこまで終了したとき、声をかけてきたのは先輩冒険者のひとりだった。
「シズクって言ったか、嬢ちゃん。シズクが使っていた《魔爪》ってスキルはなんだ?」
「魔力の刃を飛ばしたり、武器に魔力の刃をまとわせて切ったり突いたりするスキルです。今回は1発目の《魔爪》で注意を引きつけて攻撃を引き出し、頭をダガーで突き刺したあとは《魔爪》で頭の奥深くまで切り裂いていきました」
「……なるほど。そういえば、キラーヴァイパーの頭部は皮が薄かったな」
「それだけじゃないぞ。骨も柔らかい。ロングソードなら脳まで一突きにできるだろう」
「囮役になる人間の危険は伴うが、いままでみたいにがむしゃらに切り続けるよりは効率的か」
「ああ。試してみようぜ。シズク、次は俺たちがもらってもいいか? 素材はお前に譲るから」
先輩方の話し合いもまとまったみたい。
でも、キラーヴァイパーの素材ははっきり断らないと。
「素材も皆さんのものにしていいですよ。私は荷運びだけを行いますから」
「そうか? 倒し方まで教えてもらっているんだが……」
「皆さんだって命がけなんです。命をかけるんですから、それくらいの報酬はないと」
「考え方が甘っちょろいな。だが、嫌いじゃない。今度、ドラマリーンにきたときは俺たちで歓迎会でも開いてやるよ」
「それは、是非お願いします」
「ああ。じゃあ、次を探しに行くか」
次のキラーヴァイパーだけど、探すのにちょっと時間がかかった。
やっぱり一昨日の大量討伐の結果、個体数がかなり減ったらしい。
それでも、まだ生き残りがいるんだから、ブルにも見倣ってほしいよね。
「じゃあ、俺たちで倒すぞ。初撃は俺が行く」
「では、とどめは俺だな。ミスリルのロングソードがある。これで一突きにできるだろう」
「それでだめだったら作戦の練り直しだ。今日はある程度安心して狩りができるんだからな」
「ああ、頼もしいことこの上ない」
私、期待されちゃってるなぁ。
死者が出ないように援護するけどさ。
「じゃあ行くぞ。こい、デカブツ!」
最初の人は投げナイフでキラーヴァイパーの注意を引きつけたみたい。
当然、投げナイフ程度じゃ刺さりはしないんだけど、攻撃されたこと自体にいらだったキラーヴァイパーはその人めがけて滑り込むように噛みついてきたね。
投げナイフを投げた人も、余裕でかわしているけど。
そして、頭が下がっている間にミスリルのロングソードを持った人が飛びかかり、眉間から頭の中心部めがけてミスリルのロングソードを突き刺した。
最初、少しだけ、キラーヴァイパーは弱々しく暴れたんだけど、すぐに力を失い地面に倒れ伏しちゃった。
討伐完了だね。
「……おいおい、キラーヴァイパーがたったふたりで倒せちまったぞ?」
「ああ。やつの脳まで届くミスリル製の武器を買う必要はあるようだが、これでキラーヴァイパー狩りもかなり死人が減るな」
「なあ、次は俺たちにやらせてくれ。俺もミスリルのロングソードを持っている」
「俺はミスリルのナイフだが……さすがにきついか。目玉を切り裂いたりしたら暴れ回りそうだから、できても囮役だな」
「私のような魔術士は囮役ね。逃げ足には自信があるから任せて」
「ロングランスは引き抜くときに折れそうだな。ハルバードみたいなポールウェポンも難しそうだし、キラーヴァイパー退治用にミスリルのロングソードを準備しておくのも悪くはないか」
「キラーヴァイパーが売れれば元手なんてすぐに回収できるからな」
やっぱり、キラーヴァイパーって高級品なんだ。
買い取りは先輩方の戦利品を優先してもらおう。
私の戦利品は……ときどき、アイリーンの街経由で流すっていうことで。
そのあとも同じような戦法で戦っていったけど大体は成功した。
ときどき尻尾が先に飛んでくることがあるけれど、さすがは先輩方、そっちも余裕で回避している。
一昨日、私が乱獲したというのにキラーヴァイパーは16匹も討伐できて、繁殖力がすごいのかどこかに隠れていたのか悩む結果になっちゃった。
図体が大きくても蛇だからどこにでもいそうだしね……。
さて、お次は問題のヴェノムヴァイパー戦。
こいつはどうやって頭を下げさせよう?
「ミネル、《風魔法》でひたすらあいつの毒液を跳ね返してもらえない?」
『心得た。それで怒り狂って突撃してくれれば儲けもの、じゃな』
「そういうこと。じゃあ、始めようか」
こっちに気がついたヴェノムヴァイパーが毒液を吹き付けてこようとするけど、それはすべてミネルの《風魔法》でヴェノムヴァイパーの方へ押し返されている。
毒弾だろうと毒の液体だろうと構わず押し返されているんだから、そろそろ怒りがたまって……たまって?
よくわからないけれど、倒れて動かなくなっちゃった。
生命反応はまだあるから頭にダガーを刺し、《魔爪》で貫いておしまいなんだけど……なにこれ?
「シズク、一体なにが起こった?」
「さあ……私にもさっぱり?」
『おそらく、ヴェノムヴァイパーは自身の毒を完全に無力化できないのじゃろう。自身の毒が蒸発した程度なら問題なくとも、毒液を自ら浴び続ければああなるようじゃな』
「となると、強力な《風魔法》使いがいれば、それだけで終わってしまう?」
「強力じゃなくても、数人がかりならなんとかなるんじゃない?」
「皮が少しだめになっているようだが、死人が出ないことを考えれば安いもんだろう」
「よし、次も我々だけでできるか実験だ」
というわけで、先輩方よって行われた二戦目以降。
先輩方の中に《風魔法》使いが数人いたため、その方々が力を合わせて毒液を反射し続けたんだけど、毎回結果は同じでヴェノムヴァイパーが自分の毒で倒れる有様。
先輩方も拍子抜けしていたね。
「……倒し方がわかってしまえばあっけないものだな、ヴェノムヴァイパーも」
「だが、実際助かっただろ? 次の大討伐の犠牲は最小限で済みそうだ」
「確かに。礼を言うぞ、シズク」
「いえ、私はできることをしただけですから。ヴェノムヴァイパーは意外でしたけど」
「あれは全員にとって意外だ。だが、一番の死傷者を出していたヴェノムヴァイパーを無傷で倒す方法が見つかったんだ。これはでかい収穫だぞ」
「そうですね。シズク様には帰ったあとギルドから発見報酬を差し上げなくては」
「ちょ!? コーツさん!?」
「この退治方法は非常に有効です。ここまで10匹倒してきましたが、そのどれに対しても有効だったことを考えれば、ほぼ確実な戦法になるでしょう。ヴェノムヴァイパー側が知恵をつけて対抗してくる恐れはありますが、しばらくの間はこれで被害を防げます。ギルドとしても貴重な人材を失わずに済む大発見、報酬を出さないわけには参りません」
私、そんなつもりで今回の討伐にきたんじゃなかったんだけどなぁ。
実際、先輩冒険者の皆さんと一緒にギルドに戻ると、私がお酒を飲めないために果実水をおごってもらい、コーツさん……というか、ギルドマスターのデレック様からは今日の報酬として金貨50枚もいただいた。
先輩冒険者の皆さんが狩り取った獲物も全部買い取ってもらえたし、私的にはそれだけでもよかったんだけどな。
とりあえず、お金は大事にしておこう。
防具の更新もあるし。
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