64. キラーだろうとヴェノムだろうとしょせん蛇
登山を開始して数分、目の前に私のレザーアーマーと同じ色をした表皮の蛇が現れた。
こいつがキラーヴァイパーか。
「コーツさん。あれがキラーヴァイパーで間違いないですよね?」
「はい。あれがキラーヴァイパーです」
『どうする、シズク? いきなり頭を一突きにしてみるか?』
「ううん、一戦目だし少し普通に戦って様子を見る。頭を一突きにするのはそのあとで」
『心得た。危険になったら手出しをするぞ』
『あたちのキックで吹き飛ばすの!』
「よろしくね、みんな」
「あ、シズク様。そんな無防備に」
私は武器も抜かずにキラーヴァイパーの前へと近づいてみた。
とぐろを巻いて起き上がっているけれど、3メートルくらいあるんじゃないかな?
少なくとも、特殊変異個体のフォーホーンブルよりは小さい。
キラーヴァイパーは私に狙いを定めて一気に飛びかかってきたけど、いまの私にとっては遅い遅い!
《俊足迅雷》を覚えてから、私の移動速度だけじゃなく、相手の動きを見極める速度も上がったからね!
私は素早く身をかわして離れた場所に移動し、キラーヴァイパーの様子を伺うけれど、噛みついた先の岩を砕いていたよ。
これじゃあ、戦い慣れていても毎回死人が出るわけだ。
そのあとも、何回か噛みつかせてみたり、跳んで乗り越えてみたりしたけど、巨大な図体に似合わず動きの速いこと速いこと。
私ごときじゃ仲間の力を借りていないと最初の一撃で丸かじりだよ。
さて、攻撃力は見たし、今度は防御力かな?
取り出したのは、昨日念のため買っておいた鋼のダガー。
これを使ってキラーヴァイパーに切りつけたけど……うん、まったく通用しないね。
攻撃をかわしながら何度も切りつけたけど、かすり傷ひとつつかない。
レザーアーマーにする前よりも防御力が高いよ。
「よし、検証は終わったし、そろそろ倒そう」
私は《静音飛行》を使って空へと舞い上がり、オリハルコンのダガーでキラーヴァイパーの頭を串刺しにする。
それだけだとやっぱり死ななかったから《魔爪》を何発か打ち込み、静かになって倒れ込んだところを解体魔法で解体してみた。
結果はきちんと解体できたから、ざっとこんな感じなんだね。
確かにオークなんかよりはるかに強敵だけど、ジェネラルを体験しちゃった私にとってはそこまで強い相手でもないかな?
「お、お疲れです、シズク様」
「お待たせいたしました、コーツさん。少し、検証に時間をかけてしまって」
「い、いえ。お怪我は?」
「一度もかすっていませんから大丈夫です。これなら、見かければ見かけた分だけ倒せますね」
「わかりました。よろしくお願いします」
「はい。次からは遊ばずにサクッと倒して歩きますので」
そのあとは言葉通りサクサク倒して進んで行ったよ。
本当に繁殖力が高いみたいで倒した数も百匹以上になっちゃったし、ドラマリーンって結構危険な街なのかも。
来たついでだし、たくさん数を減らしてあげたいかな?
そう思っていたところ、登山道に分かれ道が。
片方は明らかに人が立ち入っている気配がないんだけど……。
「コーツさん、こっちの道って?」
「ああ、そちらですか。そちらにはキラーヴァイパーの特殊変異個体がいるのです。数年に一度山から下りてきて大暴れするのですが、何分倒しようがなく。街が襲われても追い払うのが精一杯でして」
ふむ、特殊変異個体。
これ、倒せるかも?
「コーツさん、少し戦ってみていいですか?」
「え? 特殊変異個体ですよ? 大丈夫ですか?」
「私、センディアではフォーホーンブルの特殊変異個体も倒していますから! だめでしょうか?」
「い、いえ、構いませんが。本当に無理はしないでください」
「はい!」
特殊変異個体かー!
倒せばまた一段階強くなれそうだし、楽しみ!
そして、私たちがこっそり特殊変異個体のキラーヴァイパーがいる方に進んで行くと、特殊変異個体のキラーヴァイパーは普通のキラーヴァイパーを食べている最中だった。
弱肉強食って厳しい。
でも、これはチャンスかも!
私はそっと近づき、いろいろなスキルを組み合わせて頭部めがけて一直線に突撃。
そして、《魔爪》を重ねがけしたオリハルコンのダガーで頭を突き刺すと……うん、綺麗に突き刺さった!
特殊変異個体のキラーヴァイパーは苦しそうにもがくけれど、そのまま《魔爪》を何回も撃ち込んでやればピタリと動かなくなって死んじゃった。
ケウナコウ様、オリハルコンのダガーありがとうございます。
さて、これも解体してっと。
「すごい、本当に特殊変異個体のキラーヴァイパーまで倒してしまった」
「これくらいならなんとか。皮も固くなかったのでダガーも痛みませんでしたし」
「フォーホーンブルは違ったと?」
「オリハルコンのダガーでも刃こぼれを起こしましたし、首を切り落とせませんでした。傷口も再生するため、出血死するまでひたすら切りつけ続けましたね」
「特殊変異個体とはそこまで強かったのですか……」
「強いみたいです。さて、獲物も解体してしまいましたし、先に進みましょう」
「はい。もう少し先に進むとヴェノムヴァイパーのいる地域になります」
「ヴェノムヴァイパーですか」
「はい。口から猛毒の液体弾を浴びせかけてきて、噛みつかれれば体内に直接猛毒を流し込まれます。かなり危険な相手ですね」
「わかりました。注意して戦います」
実際、あと数匹キラーヴァイパーを倒したあと、表皮がさらに茶褐色に変色した蛇がいた。
あれがヴェノムヴァイパーらしい。
キラーヴァイパーと同じように1匹目は様子見をしてみたけれど、猛毒の液体を弾にして飛ばしてくるだけじゃなく、水を浴びせかけてくるように飛ばしてくることもあるから面倒だったね。
毒液も着弾したら消えるわけじゃなく、その場にたまったままになるし、そこからだって毒が立ちこめてくる。
普通に戦ったら厄介なことこの上ない。
でも、動きはキラーヴァイパーより緩慢で鋼のダガーでも少し傷がついたから表皮も柔らかいのかな?
さて、様子見も終わったし、あとは頭を突き刺して終了。
毒にさえ気をつければあとは脆いかな?
その先もヴェノムヴァイパーの領域が続くけど、私にとっては毒を使われる前に倒せばいいだけなのでキラーヴァイパーよりも楽。
キラーヴァイパー以上のペースで倒していくとコーツさんにすっごく感謝されたよ。
なんでも、ヴェノムヴァイパーは間引きの時でも30匹倒せればいい方で、私みたいに数十匹も軽々と倒せる相手ではないらしいからね。
ちなみに、ヴェノムヴァイパーの皮と骨は防具の素材らしいけど、肉は錬金術で毒耐性をつけるための魔法の仕上げ材に、血は毒治療のための薬にするんだって。
いろいろ使い道があるんだね。
そんな感じで頂上付近まで登ってきちゃったんだけど、ここでもひとつ大きな生命反応が《気配判別》に引っかかった。
これって特殊変異個体じゃないかな?
「コーツさん、ヴェノムヴァイパーに特殊変異個体って確認されていますか?」
「いいえ。そもそも、こんな山奥まできたことが初めてです」
「なるほど。ミネル」
『偵察じゃな。少し待っておれ』
ミネルを先に偵察に出向かせ、帰ってくるのを待つ。
そして、帰ってきたときに話を聞くとやっぱり特殊変異個体がいたらしい。
頂上付近で眠っているらしいけど。
「コーツさん。その特殊変異個体も倒してしまっていいですか?」
「こちらとしてはとても助かりますが……よろしいのですか?」
「大丈夫です。コーツさんは危ないのでここで待っていてください」
「はい。よろしくお願いします」
コーツさんを残し、私と仲間たちはそーっとヴェノムヴァイパーの特殊変異個体がいるという頂上付近へ。
そして、物陰から様子を伺うと……本当に眠ってた。
『シズク、空から一気に加速して頭を貫きひと思いに倒してしまえ』
「そうだね。どんな特殊能力を持っているかわからないし、遊ぶのは危険だよね」
『その通りだわさ。サクッと倒すだわさ』
「うん。それじゃあ、行ってくる」
私は空高く舞い上がり、眠りこけているヴェノムヴァイパーの頭めがけて一気に飛び降り、《魔爪》をかけたダガーを脳天に突き刺した!
「Gyurururu!」
「いまさら目が覚めても遅いよ! 《魔爪》! 《魔爪》! 《魔爪》! 《魔爪》! 《魔爪》!」
キラーヴァイパーの特殊変異個体よりも大きいだけあって《魔爪》を撃ち込む回数も多くなったけど、無事に頭を切り裂けたようで倒れ込み大人しくなった。
解体も無事にできたし、念のためコーツさんを呼んでもらって確認してもらおう。
なんだか、目玉も解体結果として残ったし……。
「……いや、恐れ入りました。この大きさの肉や骨、間違いなく特殊変異個体でしょう。なにより、その大きな眼球。通常個体とは桁が違います」
「コーツさん、眼球ってなんの素材になるんですか?」
「……申し訳ありません、私にも。何分、〝ヴェノムヴァイパーの特殊変異個体〟というのが初めて観測されたものですから」
「わかりました。とりあえず持ち帰って相談してみます」
こうして山登りを終えた私たちは下山してドラマリーンの冒険者ギルドへ戻ることに。
冒険者ギルドでは、コーツさんの報告を聞いたデレック様までやってきて歓迎してくれたよ。
今日持ち帰った獲物はこちらの冒険者ギルドにも売るという話だったので、売ろうとしたんだけど、どれをどれだけ買い取ればいいか悩むから私が帰る日まで返事を保留してほしいと言うことになった。
デレック様も、私の話は聞いていてけど、〝ヴェノムヴァイパーの特殊変異個体〟まで倒せるほどの腕前だったとは思ってもいなかったみたい。
ギルド内外いろいろなところと話し合って買い取るものや量を決めるって。
特殊変異個体のキラーヴァイパーの肉も売ることを交渉しようかとも思ったんだけど、〝買い取り金額がミスリル貨単位になるから勘弁してほしい〟っていわれちゃった。
私もそこまでお金ほしくないんだけどなぁ。
あと、子猫ちゃんも無事受付で面倒を見てもらえていたみたいでご機嫌だったね。
依頼報告にきた冒険者からもかわいがられて、干し肉とかを渡されそうになったんだけど、それは受付全員で阻止してくれたみたい。
干し肉って塩っ気が強すぎるから子猫にはちょっと。
問題は、いつの間にか子猫に〝ミィ〟ちゃんって名前がついていたことかな。
受付の人たちがそう呼んでいる間に返事をするようになって、子猫もそれを受け入れてしまったらしい。
明日のウルフ狩り講習の間も面倒を見てくれるっていうし、仕方がないか。




