63. ヴァイパーハントへ
拾った子猫だけど、無事ホテルまで連れ帰ることができた。
おトイレもしっかりできたし、ご飯もちゃんと食べることができたから大丈夫そう。
私も夕食の時間だから、子猫のことはみんなに任せて食事を取ってきた。
そのあと、寝るとき子猫は私の枕元で甘えるようにひっついて眠ったよ。
……よっぽど悲しかったんだね、いい子いい子。
翌朝はモナカと子猫用のお魚ご飯を仕入れて冒険者ギルドへ。
今日はヴァイパー狩りだもんね。
子猫がちょっと心配だけど、どうしようか?
とりあえず、ギルドの受付嬢さんに事情を話してどうすればいいか聞いてみよう。
「いらっしゃいませ、シズク様。本日はヴァイパー狩り……あら?」
「ええと、ヴァイパー狩りなんですが、昨日、この子を保護しまして」
「子猫なんて珍しいですね。どこで?」
「昨日教えていただいた林の奥にあった森です。そこで母猫がウルフに殺されていたんですが、母猫の下に隠れていたこの子だけが生き残ることができたみたいで」
「それは大変でしたね。ヴァイパー狩り、どうしますか?」
「私としては行きたいのですが、この子猫をどうするか……」
「それでしたら冒険者ギルドでお預かりいたしましょうか?」
「いいんですか?」
「はい。この子、かわいいですし」
あ、そっちに釣られたのね。
うーん、この子次第だけど、どうしよう。
「ねえ、子猫ちゃん。今日一日、ここで待っていてくれる? 私は仕事で狩りをしてこなくちゃいけないの。ご飯はお姉さんたちに渡しておくから、お願い」
『わかった。でも、早く迎えにきてね?』
「できるだけ早く帰ってくるよ。そういうわけですので、お願いできますか?」
「ええ、受付一同、責任を持って面倒をみます!」
受付のマスコットになっちゃうのね、今日は。
これ、明日と明後日もじゃないかな?
人が怖くならなきゃいいんだけど。
「それでは、お願いします。それから、これがお昼ご飯です」
「わかりました。お腹が空いたようでしたら与えますね」
「よろしくお願いします。それで、ヴァイパー狩りに行きたいのですが、ギルド職員の方を同行させると聞いています。どなたが同行してくださるのでしょう?」
「はい。少々お待ちくださいませ」
受付さんは一度奥に行くと、別のドアからひとりの男性エルフを伴ってやってきた。
この人が今日の同行者かな?
「こちらが本日、シズク様に同行させていただく討伐数観測員のコーツと申します」
「初めまして、シズク様。討伐数観測員コーツです。本日はよろしくお願いします」
「初めまして、コーツさん。冒険者シズクです。こちらこそよろしくお願いします」
「コーツも元Cランク冒険者です。キラーヴァイパーから逃げる程度はできますので、シズクさんは自分なりの倒し方で倒してください」
「はい、わかりました。コーツさんも危ないと思ったら私を見捨てて逃げてくださいね。冒険者の命は自己責任です」
「冒険者とはいえ他の街からの特使様相手にそういう訳にも……」
「だめですよ。私の判断ミスで他の街の冒険者ギルド員に死人が出たなんてことになれば、それこそ問題です。無理をしない範囲でついてきてください」
「では、そうさせていただきます。ですが、シズク様も無理はなさいませぬように」
「ええ。それで、ヴァイパーが棲み着いている場所はどこになりますか?」
「街の南門から出て少し進んだ先の岩山になります。大きな街道ではないので人は滅多に通らないのですが、放置しておくとそれ以外の街道にも出てくるので定期的に討伐しております」
「承知しました。では、行きましょう」
『気をつけてね、お姉さん』
「あなたもいい子にしていてね、子猫ちゃん」
さて、表に出るとコーツさんは1頭の馬を用意してくれた。
岩山とかを走るのにも最適な力強い馬なんだって。
私はキントキがいるから街の外に出れば不要なんだけど、街を出るところまでは同乗させてもらうことにしたよ。
ドラマリーンの街も広いからね。
アイリーンの街よりも広いかも。
街の外まで出たら私はキントキに乗り換え。
コーツさんは驚いていたけれど、私のスキルの一部って説明したら納得もしてくれた。
テイマー系の『天職』持ちの中には、テイムしている相手のサイズを変える技術を持っている人もいるらしいね。
私の場合はキントキのスキルなんだけれど。
そのまま、コーツさんと併走すること30分、岩山の登山口にたどり着いた。
ここから先がキラーヴァイパーやヴェノムヴァイパーの生息地域みたい。
「気をつけてください、シズク様。我々は慣れているので大丈夫ですが、不慣れなものだと登山道を油断しながら歩いて岩の裏などに隠れていたヴァイパーに一飲み、などということも少なくありませんので」
「わかりました。注意します」
ということは、《気配判別》は重要かな。
ひょっとすると上から降ってくるかもしれないし。
「ところで、コーツさん。キラーヴァイパーとヴェノムヴァイパー、どれだけの数を狩っても大丈夫ですか?」
「へ? ああ、いや、失礼いたしました。無理のない範囲で狩れるだけ狩っていただいても構いません。やつらは繁殖能力も高いので3カ月に1回の間引きでも100匹近くは狩り取ります」
「わかりました。では、できる範囲で暴れさせていただきますね。ちなみに、どのような倒し方がもっとも好ましいのでしょう?」
「そうですね。やつらの頭を一突きにして仕留めてもらうのが一番うれしいです。やつらは、頭部も含めて肉厚で、牙、骨、血。そのすべてが素材になりますから」
「なるほど。キントキ、血って解体したときどうなるの?」
『解体結果で使い物になるなら分けられて入れ物に入って出てくるよ。入れ物がどこから出てくるのかは知らない』
「そっか。でも、頭を一突きかぁ。私のダガーで足りますか?」
私は武器のダガーをコーツさんに見せるけど帰ってきた反応は微妙だった。
「うーん、難しいかもしれませんね。根元まで差し込んでもとどめをさせない可能性があります。無理をなさらず、頭部を切断などでも構いませんよ?」
「そうですか……でも、それももったいないような」
『だったら、《魔爪》を切るイメージじゃなく突くイメージで放つわさ。そうすれば刃から伸びる形の《魔爪》ができるわさ』
「そうなんだ。でも、なんでいままで教えてくれなかったの、モナカ?」
『いままで、切る機会はあっても突く機会がなかったわさ』
「そういえばそうかも。とりあえず、いろいろと試してみますね」
「よろしくお願いします。準備はよろしいですか?」
「大丈夫だよね、みんな?」
『もちろんじゃ』
『平気だよ』
『わちの出番は目くらまし程度だわさ』
『あたち、出番あるかな?』
「うふふ、じゃあ、行こうか」
これで、準備は整ったので登山開始。
さて、ヴァイパーは何匹狩れるかな?
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