55. 領主の娘リオ
最初にミーベルンをウルフ狩りに連れ出したあと、私は雨の日以外毎日、ミーベルンは適度に休ませてウルフ狩りをしている。
ミーベルンもウルフ狩りに慣れてきたのか、ニベラマとベルンが一緒なら1匹は楽に勝てるようになってきているし、そろそろ2匹同時の戦闘もありじゃないかな?
ニベラマもベルンも毎日ご飯をちゃんと食べているから、相当強くなってきているはずだしね。
そんな日々が2週間ばかり過ぎた頃、私は突然ミーベルンと一緒に領主邸に呼び出された。
ペットたちも同伴ということで。
ケウナコウ様はまだ戻りになっていられないはずだし、どうしたのだろう?
「冒険者シズク、ミーベルン。到着しました」
「わかった。通っていいぞ」
一体なんなんだろう?
今日の用事って。
ケウナコウ様と会うときだって、いつも冒険者ギルドのギルドマスタールームだったのに。
ともかく、私たちは案内されるまま応接間へと通された。
一体なにが始まるのだろうか?
「シズクお姉ちゃん、一体なんなんだろう?」
「私にもわからないかな。領主様がお戻りになったのなら冒険者ギルド経由で呼び出されるはずだし」
しばらく待っているとドアがノックされて開き、廊下側から女の子が走り込んできた。
それでそのまま、ベルンに抱きつこうとして……って、ベルン、いいの!?
「すごーい。ふわふわだー」
『そうだろう、そうだろう。自慢の毛並みだ』
「あれ、喋った?」
『そこにいるシズクの能力を借りているだけだ。少女よ、名は?』
「あ、失礼しました。わたしは……」
「リオ、駆け込んではいけないと言っておいたでしょう?」
「すみません、お母様」
「まったく、この子は興奮して。シズクさんとミーベルンさんね。娘が騒がしくしてしまいごめんなさい」
「あ、いえ。ベルンも怪我がないようですし、構わないのですが。あなた様は?」
「ああ、失礼。私は領主ケウナコウの妻ギスヒーナ。こちらは娘のリオよ」
「リオです。よろしくお願いします」
領主様の奥様に娘様!?
急いであいさつしないと!
「失礼いたしました! 私は……」
「ああ、あなた方のことはケウナコウから聞いています。シズクさんは街を救ってくれた勇敢なステップワンダーであり、普段は街の食糧供給に一役買ってくれているのだとか」
「い、いえ。私が安定してできることは、ウルフを倒してその肉や毛皮を街に売ることくらいですから」
「それを冒険者になる前からずっとしてくれているのだから心強いわ。ミーベルンさんはセンディアで辛い目にあっていたようだけど、もう大丈夫?」
「はい。ニベラマとベルンだけじゃなく、優しいお姉ちゃんたちがいまは一緒に暮らしてくれていますから平気です」
「よかったわ。夫もセンディアをなんとかするために行動を始めましたし、あなたのような子供が減ってくれるといいのですが」
「……そうですよね。私だけが助かっちゃいましたけど、ずるいですよね」
「あ、いえ、そういう意味じゃないのよ。すぐにでも国王陛下がセンディアをお調べになってくださるはずだから、あなたのように辛い思いをしている人は減るはずよ」
「本当ですか?」
「もちろん。そのための準備もしていったみたいですからね」
「それならよかった……」
そっか、センディアを徹底的に打ちのめす準備もしていったんだ。
私、ドラマリーンへ行くのいつになるんだろう?
「それで、今日呼んだ理由なのですが……」
「わたし、お姉さんたちの〝ペット〟に触りたいです!」
「私たちのペットに?」
「申し訳ありません。街を馬車で移動中にあなた方の姿を何度も見かけたリオが、どうしてもあなた方の〝ペット〟に触ってみたくなったそうで」
ふむふむ。
似たようなことを前にケウナコウ様から聞いていたけど、娘様の方が我慢できなくなったという訳か。
でもどうしよう?
乱暴に扱われたら困るんだよね。
一応、注意をしておこうか。
「乱暴に触らないのでしたら構わないですよ。ね、みんな?」
『まあ、よかろう』
『乱暴にされたら逃げるよ』
『わちも乱暴に扱われるのは苦手わさ』
『あたちもやなの』
「ニベラマとベルンは?」
『優しくしてくれるならいいにゃ』
『あの程度なら許容範囲だ』
「……という訳です。リオ様、突進したり、力強く握ったり、抱きしめたりしちゃだめですよ?」
「はい、わかりました! 最初は……そっちの小さい犬がいいです!」
『僕からかぁ。構わないけど優しくしてね』
「はい!」
そのあとリオ様は、私とミーベルンのペットたちを抱きしめたりなで回したりと大はしゃぎ。
リオ様が乱暴にしないことがわかってからは、ペットたちも一緒になって遊び始めたしもう大変。
部屋の中でワイワイ楽しく過ごしていたリオ様も、だんだん疲れて眠くなってきたのか目がとろんとしてきて最後はベルンに寄りかかって眠ってしまった。
よっぽど楽しかったんだろうね、私たちの家族と遊ぶのが。
「ふう、リオは眠ってしまいましたか」
「そのようです。よほど楽しかったんでしょうね」
「ベルン、起こさないようにしてあげてね?」
『わかっている』
「……しかし、困りました。これでまた、リオのわがままが強くなりそうです」
「わがまま、ですか?」
「はい。リオも〝ペット〟を飼ってみたいと言いだしていて」
なるほど。
自分も小動物がほしくなったのか。
でも、どうなんだろう?
「あの、こういうのも失礼ですが小動物との共存も大変ですよ? ご飯とかもきちんと与えなければいけませんし、私たちは〝ペットテイマー〟なのでこの子たちと会話ができ、意思疎通が図れますが、そうじゃないと言うことを聞いてくれるかどうか」
『普通は聞かぬぞ? 人の言葉を理解できぬ以上、どうすればいいのかは何度も成功したり失敗したりしながら学習するよりほかない』
「……だそうです」
「それに小動物だって街中では見かけません。どうしたものか」
『昔はそれなりの小動物が街中でも暮らしていたらしいよ? でも、それらは全部人に追い払われて街を出て行ったらしいんだ。僕が生まれるよりもずっと昔の話らしいけど』
『わちは元々砂漠暮らしだわさ。他の小動物がどこに棲んでいるかなんて知らないわさ』
「ミーベルン、ニベラマとベルンはどうしたの?」
「センディアの街で追いかけられていたところを助けてあげたの。そして、そのまま契約した」
「じゃあ、ニベラマとベルンはどこかに仲間がいる?」
『私はセンディアの街付近に同族の群れが棲み着いていたにゃ。でも人間族が突然攻めてきて仲間を殺し始めたので街中へと逃げこんだにゃ』
『私は元々旅暮らしだった。そこでいまのニベラマを見つけ保護しようとしたのだが、私も一緒に追い回されることになってな。そこをミーベルンに救われたというわけだ』
「そうですの。そうなると小動物を探すだけでも一苦労ですのね」
『それに〝ペットテイマー〟の眷属になっていない限り、小動物は短命じゃぞ? 犬や猫で10数年、ウサギなどは10年持つかどうかの命じゃ』
「ミネル、眷属になっている場合は?」
『眷属でいる限りは老化が止まる。成長もしないが老いもしない。主人が死なない限りは寿命で死ぬことはないな』
そうなんだ。
じゃあ、この子たちとも長く付き合えそう。
死なせるようなミスは絶対にしないんだから!
でもそうなると、小動物探しかぁ。
なにかいい場所は……ああ、あそこなら。
「ねえ、シラタマ。前に話したことがあるけど、〝シラタマの丘〟ってシラタマの種族以外のウサギが棲んでるんでしょ? その子たちと話ができないかな?」
『あたちもわからないの。オークたちがあの辺に居座っていた時期もあるし、ウサギたちがどうしているかは不明なの』
ああ、そっか。
〝シラタマの丘〟を見回りに行ったときもウサギたちを見かけなかったものね。
残っているかどうか、わからないか。
「〝シラタマの丘〟というのは〝ゴブリンの森〟の先にある丘ですわよね? そこにウサギたちが?」
「少なくともシラタマはそこで見つけて助けました。他にもウサギたちが残っているかまでは……」
「シズクさん、ミーベルンさん。明日も時間をいただけますかしら」
「はい。なんでしょう?」
「〝シラタマの丘〟でウサギがいないか確かめに行きましょう。それで、リオと一緒に来てくれるウサギがいれば、その子たちを飼いたいと思います」
明日は〝シラタマの丘〟でウサギ探しかぁ。
ウサギ、見つかるといいなぁ。
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