53. シズク、ミーベルンの装備を調える マジックバッグ編
私とメイナお姉ちゃんの髪色と同じ色のスカーフを手に入れられたミーベルンは、大喜びでメルカトリオ錬金術師店まで戻ってきた。
このあと、もうひとつだけ装備を作ってもらう必要があるんだよね。
「あ、シズクちゃん、ミーベルンちゃん。お買い物は終わったみたいね」
「はい。満足のいくものが買えました」
「シズクお姉ちゃんにはいっぱいお金を使ってもらっちゃったけど、嬉しいです」
「気にしないの。一年前は食べることにも困ってたシズクちゃんだけど、いまは立派な冒険者として身を立てて毎日たくさんのお金を稼いでいるんだから。さて、ふたりも帰ってきたことだし、今日の営業はこれで終了かな。シズクちゃん、看板をしまってきてくれる?」
「はい。ミーベルンは奥で待っていてね?」
「う、うん」
ああ、ミーベルンにはこのあとのことを話していなかったっけ。
私たちがやることはあまりないそうだし、もうちょっとだけ我慢してもらおうかな?
お店の片付けが終わったらちょっと早めの夕食をとり、体も綺麗に拭う。
ミーベルンは私に体を洗ってもらうのが大好きで、いっつも私と一緒に洗いっこしているんだよね。
メイナお姉ちゃんがうらやましそうにしているのも知っているけど、私が旅に出たらメイナお姉ちゃんが一緒に洗ってあげることになるからそれまで我慢してほしいな。
さて、そんな風に楽しく身ぎれいにし終わったら、寝るのではなくメイナお姉ちゃんが使っている錬金術工房、のさらに奥にある工房へと案内された。
今日の作業はここでするらしいんだよね。
3人一緒に部屋の中に入ると、部屋の中にはウエストポーチがふたつ置かれていた。
キラーブルより性能がよくなるって聞いたからフォーホーンブルの皮を使ってもらったんだよね。
メイナお姉ちゃんが皮のなめし作業までできただなんてビックリだよ。
「ふう。現品を作ってから聞くのもなんだけれど、本当にフォーホーンブルの皮をもらっちゃってよかったの? これ、街で売るとミスリル貨十数枚にはなるよ?」
「あ、やっぱりそれくらいの価値になるんだ」
「首を切り落とされたあと以外、一切傷跡がないフォーホーンブルの皮だなんて奇跡に近いもん。ちなみに、どこでもこれを売ってないよね?」
「アダムさんとサラスさんにはキラーブルの皮を渡してきた。サラスさんは金貨80枚からミスリル貨1枚って言ってたけど……」
「それだけ価値のある代物なの。もう、私、妹に養ってもらっちゃおうかな?」
「それでもいいよ? でも、冒険者もやめないけれど」
「冗談だよ。私も錬金術師をやめられないもの。ところで、ミーベルンは話についてくることができている?」
「えっと。シズクお姉ちゃんの持っている素材が、とっても高額だってことくらいしかわかりません」
「それだけわかれば十分。そのふたつのウエストポーチだって頑張って作ったんだからね?」
私たちの目の前に置かれているウエストポーチ。
ベルトまでついていて体にがっちりと固定できるタイプのものだ。
ベルトの色もフォーホーンブルの革の色だし、これを切り裂くのは不可能じゃないかな?
「さて、それじゃあ、最後の仕上げ。マジックバッグを作る工程に入らせていただきます」
「ま、マジックバッグ!?」
「うん、マジックバッグ。ミーベルンがこの先、ウルフ狩りをするなら必需品だよ? 解体用のナイフも持ち歩かなくちゃいけないし、武器用とナイフ用の砥石を分けて持ち歩く必要もある。それ以外にも万が一に備えて、各種ポーションや傷薬も備えておかないといけないからね?」
「そのポーションを揃え始めたのはいつ頃だった? シズクちゃん?」
「……反省しています」
私も秋頃から揃えたんだよね。
ミーベルンにいい顔をできないよ。
「ともかく、ミーベルンはそのほかにも解体したお肉や毛皮、魔石も持ち歩かなくちゃいけないでしょう? シズクちゃんはキントキが《ストレージ》を使えるから必要がないだけで、本来なら解体したお肉や皮などを入れておくカバンも必要なんだからね」
「なるほど。勉強になります」
「そういう訳だからふたりともマジックバッグは作ること。シズクちゃんのマジックバッグだってあまり多くは入らないから、作り直しね?」
「はい。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「結構。じゃあ、ふたりとも、この魔石に魔力を注いで」
メイナお姉ちゃんに渡されたのはフォーホーンブルの魔石。
基本的に、魔物革でマジックバッグを作る場合、同じ魔物の魔石を核にするのが都合がいいそうだよ。
魔力を魔石に注ぎ込んでいると魔石が輝き始めた。
ミーベルンも輝き始めたし、まだもうちょっと魔力を込められそうかな?
そう感じたから魔力をもう少し込めたら、部屋の中が明るくなるくらい魔石が光り始めちゃった!
どうしよう!?
「うーん、さすがはフォーホーンブル。それだけ魔力を込めても壊れないのね」
「ええと、失敗?」
「ううん。魔石に傷も入っていないし成功だよ。ただ、これ以上魔力を込めると傷が入りそうだからそろそろストップしてね?」
「う、うん。わかった」
「ミーベルンも同じくらいを目指してみようか? 途中で魔力切れを起こしそうになったらやめるんだよ?」
「うん! 頑張る!」
ミーベルンの魔石もだんだん明るさを増していき、私の魔石よりもちょっと明るくなったところで魔力を注ぎ込むのをやめたみたい。
メイナお姉ちゃんは魔石に傷が入っていないし、こっちも合格だって。
ミーベルンも喜んでいたよ。
「さて、最後の仕上げ、錬金術の行使、つまり、錬成ね。失敗なんてしないから、よーく見ていて?」
「うん!」
「期待している!」
「先にシズクちゃんの方からやりましょうか。……む、これは」
「メイナお姉ちゃん?」
「くぅ……ぷはっ!?」
魔石はウエストポーチとひとつになって輝きだしたんだけど、メイナお姉ちゃんは慌ててマジックポーションを3本も取り出して飲み込んだ。
そんなに魔力を使ったの?
「これは……お姉ちゃん、甘く見ていたかも」
「大丈夫? メイナお姉ちゃん」
「大丈夫よ、ミーベルンちゃん。ミーベルンちゃんの分も作っちゃうね」
お姉ちゃんはミーベルンのマジックバッグにも取り組みだしたんだけど、そっちはもっと大変そう。
ポーチの中にじわりじわりと魔石が吸い込まれていって、10分くらい経ってからようやくマジックバッグが完成したみたい。
メイナお姉ちゃんも膝から崩れ落ちて肩で息をしているほどだったからね。
「メイナお姉ちゃん!?」
「メイナお姉ちゃん!? 大丈夫!?」
「う、うん、大丈夫。ちょっと魔力を使いすぎただけ。シズクちゃんがいま持っているマジックバッグはキラーブルの革にオークの魔石だったから簡単にできたんだけど、フォーホーンブルの革にフォーホーンブルの魔石ってなるとすごく難しいんだね。私も勉強しなくちゃ」
メイナお姉ちゃんはマジックポーションを2本にスタミナポーションを1本飲んでから立ち上がった。
それで、この輝き続けているマジックバッグはどうすればいいんだろう?
「ふたりとも、それぞれのマジックバッグに魔力を込めながら手をつけて。それで個人認証も完了するから。ああ、あと、そのときに変えたい色があったら、その色をイメージしているとその色に変わるわよ」
「そうなんだ! わかった!!」
メイナお姉ちゃんの説明を受けてミーベルンがすぐさま色を変えたのは、また私たちの髪の色と同じ若草色。
そんなにこだわらなくてもいいのに。
「これでお姉ちゃんたちといつも一緒!」
「うん。じゃあ、私はこの色にしよう」
私が決めた色はミーベルンの髪の色と同じアメジスト色。
ちょっと派手目の色になっちゃったけど、まあ、いいか。
「わあ、私の色だ!」
「ミーベルンが私たちの色なら、私はこうしなくちゃね」
「ありがとう、シズクお姉ちゃん!」
「あらあら、これは私もミーベルンちゃんの色のマジックバッグを作らないと。でも、1週間くらいは休まないと、きついなぁ」
このあと、メイナお姉ちゃんもミーベルンの髪の色をしたマジックバッグを作製した。
ただ、このバッグ、どこにあっても魔力を込めると手元にくるし、容量もよくわからないくらい大きい。
試しに私の装備全部詰め込んでもまだまだ余裕があったし……。
一体、何倍くらいの容量なんだろう?
気に入りましたら評価ボタンのポチをお願いいたします。




