44. ブルブルブル!
さて、面倒なゴミ掃除も終わったし今度こそブル退治だ!
空から偵察してみて……ああ、あれかな?
アイリーン冒険者ギルドの魔獣図鑑に載っていた通りの特徴、頭に長い2本角を持った大きな4本足をした魔獣!
群れる習性はないらしいから1匹ずつになっちゃうけど、景気よく倒していこう!
「それじゃあ、1匹目! いっきまーす!」
私はオリハルコンのダガーを構えて一気に急降下。
そのままの勢いでキラーブルの首へと切りつけ離脱する。
さあ、死んでくれたかな?
「あれ!? まだ死んで……ああ、即死しなかっただけか。生命力があるね」
首の骨を切った感触もあったし、そこまでの肉だって深々と切り裂いた。
なのに、キラーブルはこちらの方を振り向いてから倒れたよ。
驚いちゃった。
「さて、解体魔法を使ってと」
解体魔法で解体すると様々に切り分けられたお肉と皮に魔石、それから角も含めた頭骨に全身の骨まで残った。
解体魔法って使えない部位は消えてなくなるから骨もなにかにつかえるのかな?
とりあえず《ストレージ》にしまって帰るけれど。
「さて、次のブルはどこにいるかなー」
《猛禽の目》を使っても見渡せる範囲にブルはいない。
群れる習性はないっていう話だし、かなり広範囲にばらけて生息しているのかも。
これは《静音飛行》と組み合わせて飛びながら探すべきだね。
みんなを連れて飛び上がったのはいいけれど2匹目のブルはなかなか発見できない。
川辺に生息することが多いって聞くんだけど、森の方にはあんまり生息していないのかな?
あれ、でも、森の中に巨大な反応がひとつ、《気配判別》で見つかった。
じっとしていて出てくる気配はないし……どうしよう?
「ねえ、ミネル。森の中に巨大な生物の反応があるんだけど、どうしようか?」
『ふむ? 降りて調べてみるか?』
「そうしてみようか」
私たちが空から川辺に降りて森の中をのぞき込もうとしたところ、森の中から巨大な魔獣が飛び出してきた!
一体なに!?
『皆、無事か!?』
『平気だよ!』
『わちもだわさ!』
『ビックリしたの』
「平気だけど……4本角ってことはこいつがフォーホーンブル!」
フォーホーンブルの大きさって人間サイズなんてものじゃなかった!
私の4倍くらいある!
こんなに大きな魔獣だったの!?
『どうする、シズク!?』
「獲物を見つけたからには倒す!」
『わかった。角や頭骨には傷をつけないようにするのじゃったな』
『結構難しい……』
『わちは《魔爪》で首狙い!』
『あたちは《ミラクルキック》で頭を蹴っ飛ばしてやるの!』
『儂はモナカがつけた傷を《風魔法》で広げるか』
『僕は《草魔法》で動きにくくするね!』
「みんな、お願いね! 私は首を切り落とす!」
私たちが動き始めると同時にフォーホーンブルも動き始めた。
最初の狙いは私か!
都合がいいね!
「よーし、こっちについてきなさい!」
フォーホーンブルの足も速いけれど《俊足迅雷》で強化されている私よりは遅かった。
このまま走り去ってしまうとみんなの攻撃が届かないから途中で折り返して、って!?
「岩を飛ばしてくるなんて卑怯!」
フォーホーンブルが自慢の4本角を地面に突き刺し、地面を、岩を持ち上げて投げつけてきた!
私は横っ飛びで回避したけど、今度はフォーホーンブルが突っ込んできたよ!?
ええい、まだ負けてあげない!
「まだまだ! 追いつかせないんだから!」
私はフォーホーンブルの横をすり抜け、みんなの方へ走り出した。
フォーホーンブルもそれに続いて私を追いかけてきたんだけど、まだまだ甘いよ!
「みんな、よろしく!」
『わかった!』
『任せるわさ!』
『ドカーンといくの!』
『お主も気をつけろよ!』
「わかってるよ!」
私がみんなの横を走り抜けるタイミングで仲間たちが行動を開始。
まずはキントキが《草魔法》の《バインディンググラス》でフォーホーンブルの足を絡め取った。
さすがのフォーホーンブルも魔法による拘束はすぐに解けなかったみたいで、前につんのめったところにシラタマの《ミラクルキック》が炸裂、横倒しに倒れたよ。
そこをすかさずモナカが《魔爪》で首を深々と切り裂き、さらにミネルが《風魔法》の《ブラストセイバー》でさらに深い傷にした。
私も、折り返して戻ってきてその傷を広げるように切り裂いていくけど……なにこれ、すっごく硬い!?
私のダガーは、オリハルコンの鎧も切れるって太鼓判を押されたはずなのにものすごく切るのに苦労する!
ともかく傷を広げることに成功し、そこから血があふれ出したんだけど……フォーホーンブルはまだ立ち上がってこちらを睨み付けてきた。
そして、なぜかしたたり落ちていく血の量も減っていっていて、なにが起きてるの!?
『シズク! フォーホーンブルの傷口が再生した!!』
「再生!?」
『こいつ、ものすごい生命力だよ!』
『何回も攻撃して傷を深めないと倒せないわさ!』
『頑張らないと負けちゃうの!』
ふぇーん!?
フォーホーンブルってこんなに強かったの!?
でも、戦い始めたからには逃げ出したくないし!
ええい、なにがなんでも狩ってやる!
********************
「……フォーホーンブル、倒せたけど4時間もかかっちゃったね」
『首以外は綺麗なまま倒せたので収穫も山じゃが、厳しかったのう』
『2本角が4本角になるだけでこんなに変わるの?』
『ともかく、疲れた、わさ』
『うん、たくさん蹴ったよ』
「みんな、お疲れ様。私のダガーも刃こぼれしちゃっているししばらく休憩にしよう」
このダガー、本当に刃こぼれしても自動で修復されていくけれど、どうなっているんだろう?
ううん、それ以上にこのダガーが刃こぼれするほど強いフォーホーンブルってなんなんだろう?
こんな強い魔獣がそこら中にいるわけ?
センディアって街を作れるような場所じゃないよね?
『のう、ふと思ったのじゃが』
「ミネル、どうしたの?」
『このフォーホーンブル、特殊変異個体ではないかの?』
『ミネル、〝特殊変異個体〟ってなにさ?』
『うむ。魔獣やモンスターの中で稀に生まれてくる凶悪な強さを持った個体じゃ。オーク軍と戦った時のオークエンペラーのような存在だな』
『それって、この辺のキラーブルやフォーホーンブルをまとめていた王様、ってことだわさ?』
『いや、キラーブルやフォーホーンブルは群れを作らないのじゃろう? まとめていたというよりも同族を食い荒らしていたのではないか?』
『そんなすごい個体だったの……』
『おそらくは。普通のフォーホーンブルならばシズクのダガーで切り裂けるじゃろう』
「そうであってほしいね。オリハルコンより硬い皮や筋肉ってもう切りたくない」
『まあ、これからもう1匹探せばわかる。ダガーは直ったか?』
「ええと、うん、直ったみたい。これなら、次のブルを狩れるよ」
『では次を探しにいくぞ。いま倒したフォーホーンブルが通常個体であれば、フォーホーンブルはもう手を出すべきではないな』
「そうしよっか。みんな、いこう」
『僕ももうこんなのと戦いたくない』
『わちもだわさ』
『あたちも』
そのあと、河川をたどりながら飛び回った結果、この日は12匹のキラーブルと7匹のフォーホーンブルを倒せたよ。
やっぱり、最初に戦った個体が〝特殊変異個体〟とかいうやつで間違いなかったみたい。
次のフォーホーンブルからは急降下斬撃1回で死んでくれたものね。
1匹目の収穫は大きかったけれど、強かった……。
さて、日も暮れてきたので居心地の悪いセンディアの街に戻ってきた。
エンディコットさんの宿に戻ろうとしたんだけど、《気配判別》に不思議な反応が引っかかった。
街壁近くの路地裏で敵対反応がある存在ふたつとそれと対立して怒りを露わにしている存在がふたつ、それから生命反応が弱っている存在がひとつ。
一体なにが起こっているんだろう。
私はちょっと気になってそちらの方へ寄り道することに決めた。
するとそこで行われていたのは、子供に対する大人によるいじめだった。
「ふん! 〝ビーストテイマー〟などという惨めな『天職』を授かった小娘め!」
「今日こそは逃がさん! 我ら〝真理同盟〟が滅してくれる!」
「グルル……!! (小煩い人間どもが!!)」
「フシャァァァ!! (これ以上近寄るなら真っ二つにゃ!!)」
あれ?
あの子たちって魔獣じゃなくて小動物?
どういうこと?
ともかく助けてあげないと!
「みんな!」
『わかっておる』
『僕はあいつらを動けなくするね!』
『わちは視界を塞ぐわさ!』
『《ミラクルキック》でお仕置きなの!』
「殺すと厄介だから殺さない程度にね!」
キントキが男たちを《バインディンググラス》で包み込み、モナカが《大砂嵐》で辺り一面を砂嵐で包み込んでなにも見えなくしてくれた。
そのあと、シラタマが《ミラクルキック》で男たちを後ろから蹴り倒し、私は全員を抱え込むと、奥にいた子供を守っていた小動物と子供を拾い上げて別の路地裏へと飛び移る。
突然の出来事に小動物たちは理解が追いついていないようだね。
でも、気が立っているようだし、邪魔されないうちに子供を回復してあげないと!
「シラタマ!」
『わかっているの! 《ハイヒール》!』
シラタマの魔法で子供の傷はみるみるうちに回復していく。
やがて、目に見える外傷がなくなると、子供も目を覚ましてくれた。
これなら一安心かな?
「う、ううん? ここは?」
「あ、気がついた?」
「ひぅ!? お姉さん、誰!?」
「大丈夫、怖いことはしないから。君を守っていた動物たちもそっちにいるよ」
「え。ニベラマ! ベルン!」
「ニャウン! (気がついてよかったにゃ!)」
「ワフ! (心配していたぞ!)」
よかった、この動物たちも落ち着いてくれたみたい。
これなら話を聞いてくれそうかな?
「ねえ、あなたたち。どうして人間なのに人間に追われていたの?」
「ニャフン……(ミーベルンが私たちの主になったせいにゃ)」
「ワフ……(この街ではテイマーも迫害の対象なのだ)」
「なるほど。亜人だけじゃなくてテイマーも傷つけているんだ」
「ニャウ(そうなのにゃ)」
「ワフ、ワウ?(そうなる。ん、なぜ我らと話ができている?)」
「あ、私、〝ペットテイマー〟なの。だから小動物たちと話せるんだ」
「お姉さんも〝ペットテイマー〟なの?」
「うん、そうだよ。……ひょっとしてあなたも?」
「うん。私は〝ペットテイマー〟のミーベルン」
嘘、こんなところに〝ペットテイマー〟がいるなんて。
でも、この猫と犬が従っているし嘘じゃなさそうだよね。
どうしよう……。
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