37. 〝ペットテイマー〟ここにあり!
「よう、呼び出して悪かったな」
「いえ、サンドロックさん、高額な治療を施していただきありがとうございました」
目が覚めた次の日、私は冒険者ギルドのギルドマスタールーム、つまりサンドロックさんの部屋に呼ばれた。
なにかあったのかな?
「治療費は気にするな。あれは、施療院から英雄への感謝ということになっていて誰も金を払っていねぇし、請求されてもいねぇんだよ。それで、冒険者復帰までどれくらいかかりそうだ?」
「うーん、一週間は軽い運動をして体をほぐさないときついですね。来週はペットの力を借りてウルフ狩り、本格的な復帰はさらにそのあとになります」
「無理をしないんなら構わん。オークどもの追撃戦もとっくに終わっているからな」
「追撃戦。どうだったんですか、戦果は?」
「上々だ。足の遅いマジシャンやシャーマンを多数討ち取れた。ナイトどもを討ち取れなかったのが少々厳しいが仕方ない。次は、戦力を整えてからの砦攻めだ」
「砦攻め。そのときまでは私も」
「ああ、お前は無茶しなくてもいい。ステップワンダーが最前線で大活躍っていう、今回が異常事態だったんだ」
「ですよねえ」
ステップワンダーってスタミナとすばしっこさはあっても力が弱いから。
オークの上位個体なんて相手にしないのが普通だよね。
「じゃあ、私は出番なしですか?」
「それでもいいんだが、参加する意思があるなら隠密行動部隊と一緒にブラックスミスやアルケミストを始末して回ってほしい」
「ブラックスミスにアルケミスト。ブラックスミスは鍛冶職人だからわかります。アルケミストって錬金術師ですよね? 積極的に狩る理由は?」
「まあ、お前には教えておくか。お前が元使っていたダガーもそうだったが、やつら上位個体の装備品には魔法金属が使われていた。オークエンペラーなんてオリハルコンの装備一式だったからな。倒すのに苦労したぜ」
「オリハルコン!?」
「それらもまとめて人目に付かないところでキントキに出してもらったが、豪華絢爛な装備品ばかりだ。オークジェネラルの武器はミスリルとアダアマンタイトの合金だし、鎧はガルヴォルンとアダアマンタイトの合金。それ以外に倒したナイトの装備品からもミスリルが検出されたし、とにかく魔法金属が豪勢に使われている。つまり、アルケミストがなんらかの方法で魔法金属やアダアマンタイトを作り出しているってことだ。あの辺には魔法金属やアダアマンタイトの鉱床なんてないからよ」
「こっちはこっちで責任重大ですね」
「ああ、だからこそ、《隠密行動》や《高速移動》、一撃必殺のスキルを大量に使えるお前を割り当てたいんだ。決行は夏の中旬頃だろうが考えておいてくれ」
「わかりました。それまでに新しいナイフを……」
「ああ。ナイフの新調はいらん。レザーアーマーだけなんとか新しい装備を調えられるようにしてくれ」
ナイフはいらない?
どういう意味だろう?
********************
サンドロックさんとの面会の一週間後。
今度は領主様に呼ばれました。
それも街の広場に演壇まで用意されて。
「シズク。お主の活躍を表し、此度のオーク防衛戦における第二位の功績を称える」
「は、はい。ありがとうございます。領主ケウナコウ様!」
「そう肩肘を張るな。他の者への論功報償の授与は終わっているのだ。あとは、倒れていたお主だけだったのだよ」
「それは、まことに申し訳なく……」
「気にするな。第一位のサンドロックからも第三位のデイビッドからも〝シズクがいなければ勝てなかった可能性が高い〟とまで称えられているのだ。それに、普段は街へとウルフ肉や毛皮を供給してくれているのだろう? お主が寝ている間、それらの価格が値上がりしていて各店舗が困っているのだ。体の調子が戻り次第、そちらの供給改善にも努めてもらいたい」
「わかりました。もう少しで体もほぐれますので、その際は鈍った勘を取り戻すためにもウルフの肉と毛皮を納めます」
「うむ。それでは、第二位の功績を称えての下賜品だ。受け取るといい」
奥からやってきた人が差し出してくれたのは、一本のダガーと小ぶりなナイフ。
ナイフにはアイリーンの街の徽章、つまり、領主様の家の家紋が掘られているんだけれど?
「まず、大きい方のナイフの説明からだな。そちらは戦闘用のナイフだ。オリハルコンをベースにミスリルとガルヴォルンを混ぜてある。そのナイフでなら、オリハルコンの鎧とて難なく切り裂けるだろう」
「あ、あの、私ごときにオリハルコンのナイフでございますが?」
「それだけお主の功績が大きかったということだ。それから、刃こぼれなどを起こしても時間が経てば自動で修復される魔法もつけてある。このあと、お前の手元から離れた場合、少しの魔力で手元へと戻ってくる魔法をかけてもらえ。盗難防止にもなる」
「は、はい。ありがたくちょうだいいたします」
サンドロックさんがダガーはいらないって言っていたのはこういうこと!?
私、〝ウルフ狩りのステップワンダー〟だからオリハルコンのダガーなんて分不相応にも程があるんですけれど!?
「それから、もう一本の小ぶりなナイフの方だな。それは身分証としてのナイフだ。武器としても使えるようにミスリルで作らせたが、基本は身分証にしておくれ」
「身分証、でございますか?」
「左様。今後、お主を他の街との連絡係に起用することがあるだろう。その際、街に出入りするときそれを見せよ。そうすれば揉めることなく入街できるはずだ。その紋章を持つ者を拒めば、アイリーン領主家を拒んだということになるからな」
うわーん!?
こっちも大事になってる!?
なるべく使う機会がありませんように!!
「そちらのナイフもなくさないように魔法をかけてもらえ。本来ならばボロボロになってしまった、お主のレザーアーマーの代わりも下賜したかったのだが、素材が手に入らずできなかった。申し訳ない」
「い、いえ! 私などオリハルコンのダガーだけでも十分ですから!」
「そうか。それでは申し訳ないがそうさせてもらおう。皆の者、街を救ってくれたステップワンダーの少女に大きな拍手を!」
そのあと、広場に集まってくれていた人からはたくさんの拍手を受けた。
私、本当にこの街の一員になれたんだ!
よーし、これからも街のためにウルフ狩り、がんばるぞー!
明日はいつも通り3話投稿です
気に入りましたら評価ボタンのポチをお願いいたします。