36. 〝ペットテイマー〟の目覚め
「ん、んぅ……」
ここは……。
メルカトリオ錬金術師店で私が使っている部屋?
私がどうしてこんなところに?
『目が覚めたんだね、シズク!』
『心配したわさ!』
『あたち、メイナに知らせてくるの!』
ええっと……私どうしていたんだっけ?
確か、私はオーク軍と戦っていて……。
「シズクちゃん! 目が覚めたのね!」
「メイナさん? 私、どうしていたんですか?」
「どうしていたも、なにもないよ!? オークジェネラルをに2匹倒したって聞いたけど、そのあと、剣でお腹を貫かれて致命傷を負ったって聞いたんだもの! オークの群れをなぎ払いながら帰ってきたサンドロックさんが、施療院の最上位術士とかけ合って《リザレクション》をかけてもらわなかったら間違いなく死んでたって!」
「《リザレクション》……そうだ、私、背後からオークナイトの剣で貫かれて」
「大丈夫、もう全部治ったから。もう怖いことなんてないよ」
「お腹の傷……あれ? 綺麗さっぱり消えてる? 他のところにあった傷跡も?」
「《リザレクション》ってそういう魔法みたい。古傷も含めて全部の傷を治す魔法なんだって。本来だったらミスリル貨数十枚はかかるらしいけれど」
ミスリル貨!?
確か、金貨百枚がミスリル貨1枚だから私の治療って金貨数千枚だったの!?
私、そんなお金なんてないよ!?
私、借金奴隷落ち!?
「落ち着いて、シズクちゃん。あなたの治療は施療院から街を救った英雄へ自分たちができる範囲での手助けってことになっているから」
「街を救った英雄? 私が、ですか?」
「うん、そうだよ。オークエンペラーとの戦いで精一杯のサンドロックさんを襲おうとしていたオークジェネラルを倒し、さらにもう1匹オークジェネラルを倒しちゃうんだもの。今回はそれまでの一週間だってたくさんのハイオークを倒してきているし、この戦争で1番活躍したのはサンドロックさんだけど、2番目はシズクちゃんよ」
「そっか、私、街の役に立てたんだ」
「街の役には立てたけど、それとは別にみんなを心配させたことは許せません」
「え?」
「今日、もうあの最終決戦の日から3週間も経ってるんだよ。その間、ペットたちは私が作った食事で我慢してくれていたけど、ミネル以外はおトイレ以外でこの部屋から出て行かなかったし、ミネルも外の木でじっとこっちを見ているんだから。先に元気な顔を見せてあげなさい」
「うん」
私は窓を開けてミネルがいつも止まっている枝を見た。
そこではミネルが止まっていて、こちらをのぞき込んでいる。
ミネルも相変わらずでよかった。
『目が覚めたか、シズク』
「ごめんね、ミネルにも心配かけたみたいで」
『いや、あれは儂も含めて全員のミスじゃ。大将首を討ち取り、全員の気が緩んでしまっていた。サンドロックやデイビッドであれば対応できたのだろうが、一番狙いやすそうなシズクが狙われてしまった。許しておくれ』
「許すもなにもないよ。私はちゃんとこうして生きているんだし」
『いや、それとてぎりぎりだったのだぞ? キントキに騎乗したサンドロックとデイビッドが、オークどもを我らとともに無理矢理蹴散らしながら街へと駆け込み、施療院という場所に飛び込んだ。そこで診療してもらったが、あと数分遅れていれば手の施しようがなかったとまでいわれておったからな』
うわ、そこまで死ぬ間際だったんだ、私。
今度からは本当に気を抜かないようにしなくちゃ。
『とりあえず、儂からは以上じゃ。お前が目覚めたことをサンドロックに知らせてこよう。お前はしっかりメイナに怒られろ。ではな』
ああ、ミネルは行っちゃった。
でもメイナさんに怒られろって?
「シズクちゃん、話は終わった?」
「はい、ミネルとの話は……ひっ!?」
メイナさん、怒ってる!
本気で怒ってるよ!?
「じゃあ、私とのお話だね。ねえ、シズクちゃん。シズクちゃんは〝必ず生きて帰ってくる!〟そう言って出ていったよね? なのに、私のところに担ぎ込まれたときは顔色も真っ青でまさに死にかけの状態だったんだよ?」
「ええと、それは……」
「体の過負荷になって毒だからってポーションも飲ませないように指示が出されたし、私にして上げられる事なんて毎日体を綺麗に拭いてあげることと、早く目覚めてくれることを祈るくらい。わかる? なにもできない無力さが? 大切な、約50年ぶりにできたステップワンダーの家族が、生死の境をさまよっているのになにもできない無力さが」
「メイナさん……」
「あなたの装備だってボロボロ。ダガーは折れて捨ててきたって話だし、あんなに大切に使っていたレザーアーマーもいろいろなところに傷がついていて、生死の境をさまようきっかけとなったお腹の傷なんてお腹と背中を貫通した大きな傷跡になっているじゃない」
「それは……その……」
「あのね、シズクちゃん。わたし、シズクちゃんのことを本当の妹だと思って暮らしているの。そんな妹が冒険者なんて危ない職業に就いているだけでも嫌なのに、生死をかけるような戦いに身をさらすのはもっと嫌なんだよ? シズクちゃんはウルフ狩りだけでも十分に街へ貢献できているんだし、それでもいいじゃない」
ああ、メイナさんも私のことを妹だって思ってくれていたんだ。
嬉しいなあ。
でも、私は〝冒険者〟だからね。
一線は引かないと。
「ごめんなさい。普段はウルフ狩りしかしなくても済むようにするけれど、いざというときはオークとか上位の魔物と戦うことになると思う。私は〝冒険者〟なの。いざというとき、街を守れなかったら意味がない。お願い、そこだけは理解して」
それだけ告げると、私とメイナさんはじっと見つめ合った。
そして、メイナさんが急に私のほっぺをむにゅって押してきたよ。
一体なに!?
「うん。私のお店に迷い込んできたときは、捨て猫みたいに落ち込んでいたシズクちゃんも、いまでは一人前の〝冒険者〟だね。あなたがそういう道を行きたいなら私は止めない。でも、必ず私のところに帰ってきてね。必ず待っているから」
「うん! ……あ、あと、もうひとつだけ」
「なに? かなえられることなら聞いてあげるよ?」
「〝メイナお姉ちゃん〟って呼んでもいい?」
私がそう呼んだときメイナお姉ちゃんが私にいきなり飛びかかってきた!?
「うんうん! いくらでもそう呼んで! さて、今晩はどんな料理にしようかな? 目覚めたお祝いもしたいけれど、いきなりたくさんの食べ物を出しても体に悪そうだから……病人食で様子見かな?」
メイナお姉ちゃん、楽しそう。
あと、このあとは残りの仲間たちからもたっぷり叱られました。
ごめんね、みんな、心配かけちゃって。
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