32. オークの先遣兵
私が覚悟を決めた翌日から、私は空からの監視をすることに決めた。
オーク軍との戦闘になれば〝ペットテイマー〟の力を隠しているわけにもいかないし、先に衛兵や冒険者の皆さんには私が空を飛べることを話してしまって空からの監視をすることにしたんだ。
こっちの方が、オーク軍が攻めてきたとき早く見つけられるから。
そんな監視も3日目となり湿った雪が舞い散る中、遠くの道からなにかが迫ってきているのが見えた。
ミネルに確認してもらったら、オークがなにか箱状のものに乗っているらしい。
少なくともオーク軍の一番手だろうし、帰ってみんなに知らせないと!
私は一気にアイリーンの街まで滑空し、街壁を守っている門衛さんに注意を促す。
「その様子、遂に来たか」
「はい。オークがなにか箱のようなものに乗っているとか」
「チャリオットが一番手かよ。狙いは門の破壊か? とにかく、冒険者ギルドに向かってあちらも準備を整えさせてくれ」
「わかりました。それでは」
私はそのまま空を飛び、冒険者ギルド前へと降り立つ。
そして、リンネさんはいなかったけど受付係の人を通じていま見てきた情報を拡散してもらった。
ここ数日は、オークとの決戦に備えて冒険者ギルドで待機していた先輩方も一気に士気が増したね。
私は……このあとどうしようかな?
「情報を持ち帰ったようだな、シズク」
「サンドロックギルドマスター!」
そう、サンドロックさんってこの街の冒険者ギルドのギルドマスターだったんだよね。
いままで黙っていたなんてずるいよ。
「サンドロックさんでいいつってるだろうが」
「いや、でも……」
「細かいことだ。数は見えたか?」
「少なくとも5台以上は。それ以上は雪煙で見えませんでした」
「ふむ。攻城鎚も持ってきてやがるだろうな。お前、対抗策はあるか?」
「《砂魔法》で目の前を見えなくして、《土魔法》を使って周囲に罠を設置してやるくらいですかね」
「十分だ。ただ、それをやるときはレンジャーの攻撃に気をつけろ」
「レンジャー?」
「オークの中でも特に隠密行動に長けた種族だ。もう既に森や林に潜んでいるはず。やつらならクロスボウを持っていてもおかしくないからな」
クロスボウのボルトか……。
多分、このレザーアーマーも軽々貫通してくるよね。
気をつけなきゃ。
「ともかく、空中にいようと地上にいようとやつらからすれば的だ。十分に注意しろ」
「はい」
私の役割は決まった。
あのオークチャリオットとかいうのを破壊すればいいらしい。
レンジャーがクロスボウを持って控えているらしいけど……そんな程度で怯えていられない!
私は必ず生きて帰ってくる!
再び仲間たちと一緒に街を飛び出した私は、空を駆けオークチャリオットとかいう箱に乗ったオークたちの居場所を伺う。
ああ、でも、もう既に〝シラタマの丘〟手前まで来ているのか……。
私の移動時間も考えたら、〝ゴブリンの森〟と〝ウルフの林〟の間で迎え撃つしかない。
覚悟を決めないと。
私はとにかく、《ランドマイン》という《土魔法》をばらまいていく。
うっすら光っちゃうのが難点なんだけど、これの上をなにかが通ろうとすると、地面が大爆発を起こして上にいる相手を吹き飛ばすことができるんだよね。
さて、オークチャリオットはもうすぐそこまで迫ってきている。
これ以上おかしな動きをしていたら、クロスボウで蜂の巣だ。
オークの視界を塞ぎつつ、逃げ出さないと。
「《大砂嵐》!」
私の魔法で森と林全域にわたって巨大な砂嵐に飲み込まれる。
《大砂嵐》は《砂嵐》の強化版なんだけど、効果は段違いに大きい。
私も、マジックポーションを飲んだし、すぐにでもこの場を脱出しないと!
「GuGyaa!?」
「BuMooo!」
ランドマインが炸裂した音とともに、なにかのモンスターの声とオーガの声が響き渡った。
様子を見に行きたいけれど、私も砂童の中だからよく見えないんだよね。
そうこうしている間にも、ランドマインの起爆音と鉄の破壊される音、モンスターやオークの悲鳴などが聞こえてくる。
うん、まずは第一段階成功だね!
早く街に戻ってみんなにこのことを知らせないと……。
と思った瞬間、目の前をなにか鋭いものが通り抜けた!
怪我とかはしていないけど、これがボルト!?
まだ《大砂嵐》の効果は残っているのに、私を狙い撃ちできるの!?
ともかく、この場に留まってはいられない!
街とは逆方向になるけど、そちらへ……。
ヒュン!
ひゃあ!?
こっちもだめなの!?
私の位置、完全に捕捉されちゃってる!?
ともかく、移動しないことには、そのうち蜂の巣だ。
《大砂嵐》の効果が消える前に移動しないと……。
こんなことを考えている間にもボルトはたくさん私の周りを飛び交っている。
ええい、仕方がない!
「(モナカ、《高速移動》を借りるよ。《大砂嵐》を抜けたら、また《静音飛行》で飛んでいく)」
抱きかかえていたモナカがうなずく感覚があったのでスキルを入れ替えて《超跳躍》と《高速移動》を装備。
あとはボルトの切れ間を縫って、地上に落ちるだけ!
……よし、地上には降りられた!
あとは、《高速移動》で早く離脱を……。
そう考えた矢先、私の右腕にものすごい痛みが走った。
これ、ボルトが刺さったってことだよね!?
いまは痛くても我慢して逃げないと殺されちゃう!
私は痛みを必死で堪えて、《大砂嵐》の外まで離脱、
そこから、まだ、後ろから飛んでくるボルトに警戒しながらも《静音飛行》で街まで逃げ帰った。
うう……右腕が熱い……。
「シズク戻ったか!? その腕は!?」
「サンドロックさん、ボルトが刺さったみたいです。これ1本だけで済んだので大急ぎで逃げ出してきました」
「わかった。あの砂嵐が終わったら、生き残りのチャリオット兵とレンジャーどもの駆除だな。シズクは施療院に行って治療を受けてこい。とりあえず、明日は上空からの監視だけにして戦闘には参加するな」
「わかりました。足手まといにはなりません」
「わかっているならいい。冒険者ども! シズクが切り開いてくれた道、無駄にするんじゃねぇ!」
それに帰ってくるのは鬨の声!
ああ、私だってこの街の役に立ててる!
そのあと、帰る前に施療院に行ったんだけど、ボルトは骨まで食い込んでいたらしく、痛み止めも使ってもらったんだけど、引き抜くときがすっごく痛かった。
タオルをかまされていた意味がよくわかったよ。
治療費用は冒険者ギルドにこの混乱が収束してから、まとめて請求なんだって。
今回の費用を聞いてみたけど……金貨近い費用がかかったみたい。
冒険者ギルドには悪いけれど支払ってもらおう。
それから、アダムさんのお店に立ち寄ってみて穴の開いたレザーアーマーの修復をお願いできないか聞いてみたんだけれど、すぐにでも別の革で埋めるってことで対応してもらえたよ。
こっちも費用はかからなかった。
私の不注意ではなく頑張りの証拠だからって。
ただ、この修復部分の革はキラーヴァイパーよりも劣る素材らしいから、そこを起点に切り裂かれないよう注意しろとも言われちゃったね。
気をつけないと。
それが終わったらメルカトリオ錬金術師店、メイナさんの家に帰宅。
メイナさんは私の戦果を褒めつつも無理はしないでほしいとお願いしてきた。
でも、いまは少しくらいの無理をしないといけない時期なんだ。
メイナさんに理解してほしいとは言えないけれど、私も冒険者の端くれ、そこは認めてほしいな。
明日からは偵察だけらしいけれど、あまりたくさんのオークには来てほしくないのが実感だね。
私の右腕、力が入らなくて、食事を取ることくらいしかできないし。
ダガーを持って戦うなんて無理だもの。
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