24. 〝ペットテイマー〟弟子を鍛える
弟子たちの装備を買い換えた翌日早朝、私は街門のところで彼らと待ち合わせをしていた。
集合時間より早く来たつもりだったんだけど、彼らの方が早かったみたいだね。
「ごめん、待たせた?」
「いえ、俺たちが早く来ただけですから」
「はい。昨日武器を買い換えたあと訓練場に行ったんですが、いままでの武器よりも扱いやすくって」
「本当にいい武具屋を紹介してもらえました」
「その……感謝して……います」
「私は護身用のナイフだけだったけど、その切れ味も鋭かったからね」
「はい。私のメイスも重すぎず軽すぎず扱いやすいです。……まだちょっと、ウルフに押し倒されたことが怖いけれど」
「ウルフへの恐怖心は自分で乗り越えるしかないの。頑張ってね、ベティ」
「はい!」
「じゃあ、出発しましょうか。教えるのは午前中だけって約束だからね。午後は私が街に納めるウルフの調達をしなくちゃいけないから。そのときは手札を見せたくないから別行動。わかっているよね?」
「もちろんです。教えてもらう以上、ルールは守ります」
「よし。じゃあ、行こうか」
私は6人を連れて〝ウルフの林〟まで移動、ここから《超聴覚》などを使ってウルフを探し始める。
この季節はスノーウルフになってるから足音もわずかなんだけれど、《超聴覚》の前では意味を持たないからね。
近くにいるのは……こっちだね。
「あっちにウルフ、正確にはスノーウルフなんだけれど、そいつらがいる。なるべく足音を立てないようについてきて」
「はい」
私たちはゆっくりとウルフの方へ移動する。
運良く風下側だしウルフも2匹、ネイサンとマーゴットの腕を測るにはちょうどいいかな?
「ネイサン、マーゴット。この距離からならあのスノーウルフを狙い撃ちにできる?」
「……なんとかいけます」
「私はいくらでも」
「よし、まずはふたりの実力を見せて。他の4人は倒しきれなかったときに備えて待機ね」
6人に指示を出し、ペットたちにも万が一に備えて動けるよう準備をしてもらう。
そして、ネイサンが弓を引き絞って矢を放ち、マーゴットが《風魔法》でウルフを切り裂いた。
どっちも致命傷には届かなかったけど、動けなくはしたみたい。
「うん。死んでないけどもう動けないね。ルイス、ウェイン、とどめをさしてきて。毛皮や肉を傷つけないように頭を潰す形でね」
「はい」
「わかりました」
ふたりがとどめをさしてきたら、解体の授業を開始。
どこからどういう風にナイフを刺してどのように毛皮や肉を剥ぎ取ればいいのか、できる限りわかりやすく指導してあげる。
このとき、今回は指導のために全員で解体作業を見てもらっていたけれど、解体するときは何人か見張り役をつけることを忘れないようにも注意しておいた。
6人は話し合って近接戦闘と弓での遠隔攻撃ができる男性4人が見張り役に、魔法使いで連続使用すると魔力切れを起こしかねない女性ふたりが解体役になるらしい。
女性に血まみれな解体役を任せるのはどうなんだって思ったけれど、冒険者ってその程度のことができないと生き残れないものね。
よく考えれば、私もひとりで解体してきたわけだし。
私の指導の間は交代交代で解体してもらい、解体の基礎を覚えてもらうけれど、私がいないときはそういう役割分担になるそうだ。
女性陣、頑張れ。
そのあともウルフを見つけては戦闘訓練を繰り返してもらう。
ルイスとウェインは武器が変わった関係でまだ慣れていない節があるけれど、それさえ乗り越えれば大丈夫かな?
ロイドはナイフの切れ味が増したことでウルフを倒す速度が上がったらしい。
次の課題は毛皮を傷つけないようにするための倒し方だって。
ネイサンはやっぱり弓の威力不足。
使い慣れていないからどの程度引き絞ればいいかまだよくわからないらしいけれど、どちらにしてもウルフを一撃で倒せないようじゃ不安が残る。
ネイサンは接近戦用のナイフも持っているらしいから、最初の一撃だけは必ず狙い撃ちできるようにしてもらい、二発目以降は余裕があるときだけ、いつでもナイフに持ち替える心がけを、弓にこだわらない姿勢を身につけるように指導しておいた。
マーゴットは、魔法によって威力がばらけすぎかな。
《風魔法》や《水魔法》では致命傷を与えられないけれど、《土魔法》なら致命傷を与えられる。
ただ、《土魔法》の《石槍》でお腹に大きな穴を開けると可食部が減るからそこは注意しなくちゃいけない。
なので、マーゴットには援護用になる《砂魔法》も覚えてもらうように指示をしておいた。
途中ではぐれたりしなければ、《砂嵐》って逃げるときにも使える便利な魔法だからね。
彼女も自分の手札の少なさには悩んでいたようなので丁度よかったみたい。
問題は……ベティかな。
「ベティ、そのウルフは腹を矢で貫かれているからろくに動けないって説明しているでしょう? 早く頭を叩き潰してとどめをさしなさい」
「は、はい……」
ベティはウルフに飛びかかられた恐怖で、目の前に致命傷を負ったウルフがいるだけでも足がすくんじゃってる。
本来ならウルフが飛びかかってきても、メイスで弾き飛ばせるくらいまで成長してほしいんだけど、先は長そう。
ともかく初日の指導はこのような感じで終了。
6人はもうしばらくウルフ狩りをしてから街に戻るって。
そのあとはそれぞれが自主訓練らしいけど、ベティは大丈夫かな?
なんだか心配になってきたよ。
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