13. 冒険者登録1カ月 遂にばれたアダムさんのお節介
「ホッホ! (こいつ、本当にできる!)」
「ウヮゥ! (僕の《土魔法》当たらない!)」
「ニャウ! (わちの《魔爪》もかわされる!)」
「くぅ! ミネルにキントキ、モナカまで加わっても一撃も当てられないなんて!」
「だから、俺はB+なんだって。ほれ、また隙ができた」
「あうっ!」
「ぷぅ! (《ヒール》!)」
「ありがとう! シラタマ!」
「蹴り倒してもすぐに起き上がるから鍛え甲斐があっていいわ、お前」
「今度こそ!」
はい、今日もサンドロックさん相手の訓練中。
ペットのみんなもかなり強くなってきて訓練に混ざるようになった。
ミネルも最初は使えないって自己申告してきた《魔の鉤爪》を使えるようになったし、キントキやモナカもかなりすばしっこく動き回れている。
シラタマはペットにしたのが遅かったからまだちょっと弱いため、離れた場所で《回復魔法》だけ使ってもらっているよ。
《ソフトガード》っていうスキルも使えるみたいだけど、万が一怪我をしたら危ないもんね。
私としても回復だけしてもらった方がありがたいし。
それから、サンドロックさんのアドバイスで基本的なスキルの組み立ては《砂魔法》に《高速移動》、《周囲警戒》にしておくように言われた。
《周囲警戒》で先に発見し、《砂魔法》で目くらましをして、《高速移動》で一気に倒してしまう。
私はステップワンダーで力も弱いから、普段借りておくスキルはこれにしておけって言われたよ。
実際、このスキルを借りっぱなしにしてからウルフ狩りの効率も上がったし、危ない目にあうことも少なくなった。
やっぱり、サンドロックさんって最上位冒険者なんだなぁ。
「……ふむ、今日はこれくらいで終了だな」
「今日もありがとうございます、サンドロックさん」
「気にすんな、好きでやってることだからよ。それに最近だと、他の冒険者にもいろいろ教わってるそうじゃねぇか」
「えへへ」
うん、最近は先輩冒険者の皆さんがいろいろと教えてくれているんだ。
私と同じナイフや短剣を使う人は、適切な間合いの取り方や切るときと突くときの判断のコツを。
私が魔術書を読み込んでいたことを知っている魔法使い系の方々は、魔法をより効率的に使うためのトレーニング方法を教えてくれる。
特に魔法を効率的に扱うためのトレーニングって魔法を使わない戦士系の方々でも大切なトレーニングだそうで、私と一緒に習っている人もたくさんいたんだよね。
なんでも、魔力が体を巡るときの効率をよくすると身体能力も少し上がるとか。
冒険者にとっては、その〝少し〟が大切なんだそう。
こちらも勉強になるよ。
私も見倣わなきゃ。
「さて防具もトレーニング用から狩り用に着替え終わりました。ウルフ狩りに行ってきますね」
「おう。……ところでその防具、いくらした?」
「え? 在庫処分品だったようですけれど大銀貨2枚と銀貨5枚ですよ?」
「全身でか?」
「全身分です」
「……なあ、素材はなんだって聞いてる?」
「ブラックヴァイパーの革だって聞きましたけど……」
「……どこで買った?」
「シルヴァ武具店のアダムさんにお勧めされて……」
「アダムか。よし、一緒に来い」
あれ、これ、なにかまずいことになってるの?
ひょっとして、私、アダムさんにだまされて安物を売られた!?
なんとも気まずい空気の中、サンドロックさんに連れられてシルヴァ武具店に到着。
店主をしていたのはアダムさんの奥さんだったので、アダムさんを呼んできてもらうことになった。
どうなっちゃうんだろう、これ……。
「来たぞ、サンドロック。なんのようだ?」
「お前、このレザーアーマーをブラックヴァイパーの革だって言って大銀貨2枚と銀貨5枚で売りつけたそうだな」
「おう。ステップワンダーの女向けだったから丁度よかったんでな。埃をかぶせておくのも悪いし、いつもひいきにしてくれているシズクの嬢ちゃんに売ったんだ。文句あるか?」
「ある。なんで、ブラックヴァイパーの革だなんて嘘をついた? こいつは〝キラーヴァイパーの革〟だろう? 適正価格は金貨3枚以上のはずだ」
ヒェッ!?
このレザーアーマーってキラーヴァイパーの革だったの!?
確かに受け取ったとき、手入れの仕方がちょっと違うなと思ったけどそれは蛇皮特有のものだと思っていた!
「……サンドロック、黙ってろよ。いまは、そのままブラックヴァイパーの革で通しておけばいいんだからよ」
「そういうわけにもいかんだろう。冒険者が装備の目利きもできないなんて失格だ」
「そいつはそうだが、冒険者になりたての初心者にそれは難しいだろう? 使い道のなかった防具の有効活用なんだ、大目に見ろよ」
「だがな、あまり甘やかすのはよくないぞ」
「お前だって週に1回訓練をつけてやってるって聞いてるぞ?」
「……それはそれだ」
「次からは適正価格で売るさ。今回だけ、冒険者登録記念のお祝いだ」
「その様子だと、他にもなにか贈っているな?」
「おう。嬢ちゃん、ナイフを見せてやりな」
「あ、はい」
私は腰のケースに入っていたナイフを取り出してサンドロックさんに手渡した。
サンドロックさんは、受け取る前からこれがなんなのか見当がついていたみたいだけど。
「……初心者に魔鋼のダガーを渡すな」
「魔鋼!?」
「ダガーでオーククラスを相手にしようと思ったら必要になるだろう?」
「必要にはなる。首をはねるかひたすら切りつけるかのどちらかになるからな。魔鋼ならオークの脂程度で切れ味は鈍らねぇ。だが、初心者に渡すもんじゃないぞ? これはいくらで売ったんだ?」
「ん? 大銀貨1枚だ」
「普通は金貨1枚だからな」
うわぁ、私の装備すごく豪華な装備品だった!?
どうしてこんな豪華な装備を!?
「まったく、なにを考えてこんな初心者には上物すぎる装備を渡した?」
「一年間頑張ったお祝いだよ。他意はない。見た限りレザーアーマーもダガーも丁寧に扱ってくれているようだからな。見る目は間違ってなかったってことよ」
「あの、アダムさん。このレザーアーマー、売ってもらうとき他のステップワンダーが発注していったって聞きましたけど、あれは本当ですか?」
「ああ、あれは本当だ。手付金として金貨1枚をもらっている。だから2年は売らずにとっておいたが、さすがにもう来ないだろうし来たとしても遅すぎる。だから、安心してシズクの嬢ちゃんは使い続けな」
「はい、ありがとうございます」
「それにしても、魔鋼のダガーとキラーヴァイパーのレザーアーマーか。これ以上の装備はこの街じゃ手に入らねぇぞ?」
「それもわかった上で渡しているよ。目利きの仕方も次に来たときには教えるつもりだったんだ」
「そうか。というわけだ、シズク。お前の装備はこの街で手に入る範囲じゃ最上級の逸品。大事に扱えよ?」
「は、はい!」
「シズクの嬢ちゃんも忙しいだろうが、どこかでまたうちに顔をだしな。装備の目利きについてイロハを教えてやっからよ」
「お願いします、アダムさん!」
そんな高級品をつけてウルフ狩りをしていたんだ……。
慢心なんてしないけれど、絶対に傷物にしないようにしないと!
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