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100. 〝アイリーンの街のステップワンダー〟

 アイリーンの街への凱旋から1週間が過ぎた。

 この1週間は、戦死者への追悼や戦利品の検分など、めまぐるしく過ぎて大変だったよ。

 私も帰ってきて体を綺麗に洗い終わったあとは、メイナお姉ちゃんやミーベルンに甘えたかったのに、それ以上の疲れでベッドに直行してしまい、起きたのは翌日のお昼過ぎだったし。

 メイナお姉ちゃんもミーベルンも起こしてくれないんだからヒドイ。


「シズクちゃん、朝食だよー」


「はーい」


 でも、そんな生活もようやく日常的なものに戻り、落ち着きを取り戻しつつある。

 明後日までは。


「シズクちゃん、明後日の論功報償式に着ていく服は決まっているの?」


「私? 普段の鎧だよ?」


「礼服とかは着ないの? ケウナコウ様からいただいている」


「うーん、ケウナコウ様から戦功を授かるのにケウナコウ様の特使服は違うと思うんだよね」


「それもそうだけど……シズクちゃん、いざというときのためにドレスを作っておいてもらわない?」


「いざっていうときなんてないよ。今回はたまたま運がよかったっていうだけ。普通なら私みたいなステップワンダーが論功報償式に呼ばれること自体、あり得ないんだから」


「そうは言っても。シズクちゃん、またなにかありそうだし」


「そんなことないよ。それよりもアダムさんとリヴァさんから、街の外に飾ってあるポイゾネスワイバーンの特殊変異個体を早く解体しろって圧力がすごいんだよね。どうにかならないかな?」


「明後日の論功報償式が終わればシズクちゃんのものになるんでしょう? そのときまで待ってもらいなさい」


「はーい」


 そうなんだよ。

 ポイゾネスワイバーンっていうアイリーンどころかこの国じゃ滅多に見かけないモンスター素材、それも特殊変異個体の素材っていうことでアダムさんとリヴァさんが早く解体した結果の素材を鑑定したがっているんだよね。

 ケウナコウ様からも「論功報償式までは待ってほしい」って言われているはずなのに、それでも私に詰め寄ってくるんだからふたりも相当待ちきれないみたい。


「あと、オリハルコンのダガーは直ったの?」


「そっちは修復中。ポイゾネスワイバーン戦でかなり無茶をしちゃったからね。芯の方に(ひび)が入っていて一度打ち直す必要があるって。私に授与される予定の鉱石を先払いしてもらって、もっと頑丈で切れ味のいいダガーにするそうだよ」


 うん、自己再生能力があった私のオリハルコンのダガーだけど、さすがにポイゾネスワイバーンの特殊変異個体が相手では無理があったみたい。

 表面はきちんと再生されているんだけど、芯の方、奥の方がかなり痛んでいるようで再生していないんだって。

 アダムさんからは「よく生きて帰ったな」って呆れかえられたけれど、勝てたものは勝っただから仕方がないじゃない。


「そっちはそっちでシズクちゃんがさらに無理をしそうで心配」


「これ以上の大物狩りなんてまずないって。メイナお姉ちゃんも心配性だなぁ」


「そう言われてもねぇ。冬の終わりだってオークジェネラル相手に死にかけるし、今回は戦功1位になるような大物を倒してくるし。今後も同じことがないかは心配になっちゃう」


「あはは……アダムさんは、今回鎧がボロボロにされたこともあってさらに強化する方法を考えているみたいだけど」


「それって今回以上の無理をするっていうことだよ?」


「だよねぇ」


「シズクちゃんが安全になるのはいいことだけど、シズクちゃんがもっと危険なことに首を突っ込みそうなのは許せません」


「はあい」


 メイナお姉ちゃんも心配性だなぁ。

 でも、またアイリーンの街が危ない目に遭いそうだったらまた首を突っ込んじゃうかも。

 そのときに備えてもっともっと鍛えておかなくちゃね。


「それで、今日の予定は?」


「ミーベルンと一緒にウルフ狩りかな? 私はダガーがないから見ているだけだけど、いざとなったらスキルだけでもミーベルンを助けられるし、ミーベルンの仲間(ペット)も強くなったでしょう? 街で売る分のウルフはみんなが狩ってくれるから安心だし」


「わかった。無茶はしないでね」


「もちろん。着替えたら行こうか、ミーベルン」


「うん!」


 こうして今日も私はいつもの〝ウルフ狩り〟へ。

 やっぱり私には〝ウルフ狩りのステップワンダー〟が一番だよ。



********************



「シズク。お主の活躍を表し、此度の〝オークの砦〟攻略戦における第1位の功績を称える」


「はい。領主ケウナコウ様」


 予定通り行われた論功報償式。

 場所はアイリーンの街側に出したポイゾネスワイバーンの特殊変異個体前。

 ここが、今回の戦いの結果が一番わかりやすいからって。

 確かにわかりやすいけど、この巨体の前で称えられるのも激戦を繰り広げた側としては気になるなぁ。


「さて、お主への報酬だが……先に決めた通り、白光貨1枚とこの特殊変異個体素材のすべて、さらに今回の攻略戦で手に入れた鉱石類の一部でいいのか?」


「はい。それで十分でございます」


「しかし、それでは第2位のサンドロックよりも少ないことになるぞ?」


「いえ、私はそれ以上多くの報酬を望みません。私は私ができることをしただけです」


「そうは言ってもだな。元よりこの特殊変異個体素材はすべてお主のもの。そう考えると、私からの報酬が極端に少なくなるのだが……」


「それでしたら、今回の攻略戦に参加した冒険者たちへの報奨金を増額してあげてください。私の報酬はこの素材だけでも十分に足りますから」


「あくまでもお主はこれ以上の報償を望まないと?」


「はい」


 先輩たちには侮辱になるのかもしれないけれど、少しでも攻略戦参加の報酬を上げてもらおう。

 私みたいなステップワンダーがお金を貯め込んでいるより、先輩冒険者のみんながお金を分け合って使った方が絶対にいいはずだからね。

 ……私、装備にも困ることはなさそうだし。


「わかった。今回の攻略戦参加者への報酬金を増額しよう。それとは別にお主へ個人的な褒美も与えたいな」


「個人的な褒美……でございますか?」


「うむ。お主、アイリーンの街を離れるつもりはあるか?」


「いえ、いまのところはありませんが」


「それならばアイリーンに家を与えよう。いまはメルカトリオ錬金術師店に居候しているようだが、いつまでもというわけにはいくまい。お主専用の家を建ててやろう。冒険者としての市民権だけではなく、アイリーンの正式な市民権も与えてな。ああ、市民税は永年免除でいいぞ」


「本当ですか!?」


「ああ。その程度で街の守護者が住み着いてくれるのならば安い出費だ。家政婦もお前の家に住まわせよう。冒険者というのは家を空けがちだろうからな」


「ありがとうございます!」


「ふむ、これならば受け取ってもらえるか。金銭よりも市民権と家を喜ぶなど変わった冒険者だな」


「私、〝ウルフ狩りのステップワンダー〟ですから!」


「そうだったな。これからも〝ウルフ狩り〟は続けるのか?」


「もちろんです。他に命令がなければ〝ウルフ狩り〟が私の仕事ですから」


「そうか。それはそれで頼もしい。皆の者、新たな街の住人と守護者の誕生に盛大な歓迎の拍手を!」


 ケウナコウ様のかけ声と同時に私に降り注いだのは割れんばかりの拍手と歓声。

 本当に私はこの街の一員になれたんだ!

 よーし、これからも頑張って〝ウルフ狩りのステップワンダー〟を続けるぞ!!

約1カ月ちょっとの間お付き合いいただきありがとうございました。

本作品はこれにて完結となります。


また次回作でお目にかかりましょう。


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