91話 力の確認
考え事をしながら森を歩いていると近くの木に気になる気配を感じた。目を向けると足に穴をあけた男が木に寄りかかっている。
「君は?」
「……」
助ける義理はないし、もしかしたら悪人かもしれない。でも気になる気配だし助けた方が良いかな? 教えて怠惰の大罪!
「ふんふん。死にかけてるのかな? 何か気になる匂いもするねー。龍馬……、あ、今はサクラだった。サクラの親族なら助けた方が良いよね? えい」
調べて良かった。契約者の家族だったんだね。豊穣の神を使って傷が癒える木の実を創って男に与える。これで直ぐに目を覚ますと思う……うん? 想定と違う作用が出てる? うーん。よく分からないけどいいか! 気にしない気にしない!
僕が頭をひねっている間に男が何か言っていた気がするけどなんだったんだろう? お礼の言葉かな? 既にどこかに行っちゃったしいいか、そんなことよりも。
「まずは現状の確認が大切だよね?」
人族は石板とかを使わないとステータスを確認できないけど、神の子である僕は自分でステータスを確認することができる!
「ステータス」
*****
名前:セレシア・B・シャオローナ
種族:神霊(始祖エルフ)
生命力:-
魔力:500000000〈適正:木、土、水〉
体力:S+
物理攻撃力:S+
魔法攻撃力:S+
物理防御力:S+
魔法防御力:S+
器用さ:S+
素早さ:S+
運の良さ:S
特殊スキル:ステータス
神霊スキル:豊穣の神、怠惰の大罪
*****
僕のすべてのステータスはS以上だ。これだけステータスが高いのは豊穣の神の効果のおかげだね。何もせずとも生きていくだけでステータスが上昇していく。……戦闘の経験は得られないけど長い間生きてきたことで経験不足も解消されている。魔力が高いのは全ての神霊に共通することだね。生命力に数値が無いのは僕達神霊が精神生命体に近い存在だから。僕達に実態の体は無く、魔力で体を形成している。そのおかげで普段の姿から人と同じ姿や戦闘形態に変化することができる。ダメージを負うと生命力ではなく魔力が減っていき、魔力がゼロになると僕達は死ぬ。……そこまで削り切れる存在はお母さまや兄弟くらいだと思うけどね。
魔法の適正は三つあるけど正直使わない。神霊スキルがあるからね。それでなんと! 僕以外の神霊達は神霊スキルが一つしかないのに、僕だけ二つも持ってるんだ! なんでかは知らないけどね。
「力の確認はこれくらいでいいかな? 後は体が鈍ってないか確認しないとね!」
手ごろな魔物を探して歩く。体が鈍っていても不都合はないけど僕の契約者となるサクラが生まれた以上しっかりとした状態で出会いたい! 僕が凄いところを見せていっぱい褒めてもらうんだ!
しばらく歩くとウルフの集団に出会う。弱すぎても相手にならないから力を増強する木の実を創ってウルフ達に与える。ウルフは特に警戒もせずに木の実を食べてから僕に襲い掛かってきた。僕はスキルを使わずに攻撃を躱していく。
「うんうん。動きの勘は取り戻したかな?」
攻撃が当たらずに苛立つウルフを横目に伸びをする。少し動いたから眠くなってきちゃった。仕方ないから怠惰の大罪を使ってウルフの心臓を直接止める。周りのウルフがいなくなったことを確認してから眠る。一応豊穣の神で食魔植物を生やしておく。これで魔物が襲い掛かってきてもこの植物が自動で食べてくれるはずだ。これで寝る準備もできたことだし! おやすみなさい!
―――
……? なんだか森が騒がしい。周りの騒音が気になって目が覚める。
森にいる魔物達が集まって王都の方角へ向かっていく。ほとんどのから僕の魔力を感じるね。なんでだろう。……ふんふん。気にしなくていいんだね。王都にはジークもいるし大丈夫だよね? うーん。少しだけ間引いた方が良いかな? ……ふんふん。間引かない方が良いの? うーん。ま、怠惰の大罪が言うなら大丈夫でしょう!
魔物のことは気にしないことにした僕はしばらく森の中を散歩する。そういえば今回も悪夢を見なかった気がする! サクラのおかげかな? えへへ。早くサクラに会いたいな。
しばらく散歩をしていると変な虫に出会う。魔法を使ってる? 虫が魔法を使うなんて珍しいね!
「おやおや、私の本当の姿が見えていますか。わたくしの名前はヴァニティア。よろしくお願いしますね」
「礼儀正しい虫さんだね! どうしたの?」
面白い存在に少し興味が出てくる。気になって突っついてみようと思ったら避けられた。やるな? お遊びモードとはいえ僕のパンチを躱すとは! そのまま虫さん……ヴァニティアと少し遊ぶ。
しばらくヴァニティアと遊んでいると周りが静かになったことに気付く。……!? サクラの魔力だ! 近くに来てるのかな? 僕に会いに来てくれたのかな? 早く契約したいね!
「はぁはぁ、とても速いですね……。まさか命がけの遊びに付き合わされるとは……」
僕が遊ぶのを止めるとヴァニティアがぐったりとしている。しまった。ついつい夢中になってしまった!
「ごめんね? お詫びに何かあげるよ。何が良い?」
「なんと! それは命がけのお遊びに付き合ったかいがあるものですね。ありがとうございます。では、魔力を増強する魔道具か何か持っていませんか?」
魔力を増強? もしかして虫さんは魔力が少ないことに悩んでいるのかな? 人助け……虫助けは良いことだよね? サクラは褒めてくれるかな? 魔道具は持ってないから代わりに豊穣の神で魔力を強化する木の実を二種類用意する。本当は一種類でいいと思ったけど弱い者いじめをしてしまったお詫びだ。
「おぉ! 二種類も……ありがとうございます。これで研究が捗りそうです」
「研究?」
「いえ、お気になさらず。この見た目ですから、なめられないように大きく姿を見せたいのですよ。ふふふ」
「ふーん? 頑張ってね!」
「ええ。では」
ご機嫌で虫さんは去っていった。さて、サクラはそろそろ来る頃かな? ……あれ? こっちに向かってきてない……。むぅ。僕に気付いたんじゃなくてさっきの魔物達を倒しただけだったのか。残念。
―――
しばらくの間森を見回る。次は騒音で安眠の邪魔をされたくないからね。先に不穏な芽は摘み取っておくのだ! 僕賢い!
うんうん。どうやら問題ないみたいだね。ちらほら僕の創った魔力増強の木の実が使われたような個体が出てるけど虫さんが何かしたのかな? ……まあ弱っちい魔物だから気にしなくていいよね?
次話は今日の17時投稿予定です
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