277話 新たなる生命
アービシアとの闘いを終えて五年、私ことサクラ・トレイルは部屋でのんびりとしていた。
「いつまで寝てるのよ」
「ん~? あと十年―「起きろい」ぐぇ」
駄々を捏ねたらコハルちゃんがお腹の上に飛び乗ってきた。お腹破裂しちゃう……。
しぶしぶ起きてリビングに出るとすでにご飯ができていた。流石カトレアちゃん! できた嫁だ!
「それにしても暇だねぇ。また旅行でもする?」
美味しい手料理。カトレアちゃんの手料理を食べながら二人に問う。最初の三年間は後始末で忙しかったけどここ二年間は何もすることが無かった。いたってのんびりと私とカトレアちゃんとコハルちゃんの三人で過ごしていたのだ。
「いやいや、例の日がもうすぐでしょう? 旅行行く暇なんてないわよ。せめて去年提案してくれないと」
「サクラはぐーたらしていたからのう。エルフはのんびり屋なのじゃ」
「うっ」
例の日。コハルちゃんの試練の報酬で作った神霊達の卵が孵化する日。そろそろだと言われている。もちろん私達が預かっている桜色の卵も孵化直前だ。
私だってこんな大事な時期にただ旅行に行こうと提案したわけじゃない。
「セレスのところに行って孵化を見守ろうかなって思ったんだけど……」
「それはいいわね。でも私達が行くよりも呼んだ方がいいんじゃないかしら?」
「来れるかな? 忙しいと思うけど……」
「確かに言えてるわね……」
アースフィアの管理権が私に移り、新しい管理者を作ったことでセレスがいなくともアースフィアの植物が枯れて朽ちることはなくなった。セレスは今龍馬と共に地球の管理者をしている。たまに連絡を取り合うと忙しくも楽しくやっていると教えてくれる。
「それにしてもとうとう妾にも妹が! 楽しみじゃのう」
「弟かもしれないよ?」
「どちらでも構わん! 妾が立派な狐に育てて見せるのじゃ!」
「あはは」
強欲の欠片ではなくなったコハルちゃんは口調こそ変わらないけど昔よりも子供っぽくなった。私にも甘えてくれるようになり、もふもふもさせてくれるからとても可愛い。
ま、生まれてくる子が狐だとは思えないんだけどね……。
―――
一週間後、私達三人は卵をもってブルーム王国の王宮へ来ていた。
「サクラ様。ようこそいらっしゃいました」
「あはは、国王様に畏まられるの慣れないね」
代替わりをして国王となったシルビアが私を迎え入れてくれる。先王のロータスさんは五年前の責任を取って隠居しているそうだ。実際は異世界……アービシアが作った簡易的な世界だったけど……から解放されてすぐにあちこちに駆り出され、国を立て直す間に気力が尽きたらしい。シルビアもしっかりしてるしゆっくり休んで欲しいところだ。
「まあまあ、神様ですから」
「あはは、未だに実感わかないけどね」
シルビアとお話をしつつ祝福の庭についていく。もちろんカトレアちゃんとコハルちゃんも一緒だ。
久々の道を進んで祝福の庭に出る。そこでは新しくできた台座を中心にして成長したみんながすでに待っていた。
「身内も連れてきていいなんて! アイリちゃんを連れてくれば良かったわ」
子供っぽい中身とは裏腹に大人っぽい見た目になったマジュリーが青色の卵を乗せた台座の前に座っている。
「遅いぞ。社長出勤しやがって」
似合わない髭を生やしたライアスは金色の卵を乗せた第の前で胡坐を組んでいる。
「サクラ殿。久しぶりだな」
「久しぶりなの」
虎徹さんとマティナはいつもと変わらず短い挨拶だけだ。姿も五年前とほとんど変わっていない。それぞれ赤色の卵と水色の卵の前に座っている。
「サクラ様! 一日千秋の思いでお待ちしておりました! 私も神界に住まわせてください!」
より色っぽくなった体をくねくねさせているレオナは黒い卵の前で立ち上がる。
みんな相変わらずだね……。レオナは先週も遊びに来たばかりでしょうが!
レオナを座らせていると銀色の卵の前にシルビアが座った。マイペースか!
顔が引きつらないように注意しつつ皆に挨拶を返す。
「みんな久しぶり。やっと今日が来たね」
挨拶もそこそこに持ってきた桜色の卵を近くの台座に乗せる。これで準備は整った。
全員の準備ができるのを確認して一度咳払いする。どの卵も孵化する直前になってるね。
「では今から神霊生誕の儀式を始める」
私の言葉を合図として全員が卵に魔力を流していく。卵が徐々に光始める。もうすぐで生まれそうだね。
全員が見守る中、卵に罅が入る。
卵から小さな龍たちが顔を出した。
―――
セレスそっくりの龍が家の庭を飛び回る。
「ぐぬぬ。狐としての生き方を教えようと思っておったのに」
「責務はそこそこに自由に生きてほしいよ」
「狐に詳しい神霊でもいいんじゃない?」
新しく生まれた神霊達はそれぞれの契約者の元で生きている。
皆が親として育ててくれるのであれば真っすぐに育ってくれるだろう。
次話は明日の17時投稿予定です
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