276話 終幕
本編最終話です!
思っていた以上にあっけない幕切れで驚いたけど……まだやるべきことがある。
「サクラ……元に戻ったんだね」
「セレス。戻るも何も私は私だよ」
「うん」
龍馬が行った応急処置の効果が切れ始め、世界の崩壊が始まる。
「私以外いなくなっちゃったから……」
「大丈夫。保険は掛けてあるから」
植物以外の要素がほころんでいく景色を見てしゅんとした様子のセレスの頭を撫でつつ話をする。
「保険?」
「まさか神霊達が消滅するとは思ってなかったけど……。コハルちゃんにお願いをしていたの。もともとはセレス達を重責から解放してあげるために準備していたんだけどね」
「そっか」
妖精族にある洞窟の試練。コハルちゃんは全ての大罪の欠片の魔力を持った状態で挑んでいる。かなり過酷な試練になる分、報酬の自由度も上がっているのだ。
本当にできるかは分からなかったけどオリディア様であれば絶対に叶えると思っていたし、オリディア様ならコハルちゃんに損はさせないと信じていた。
「まさか私が叶える立場になるとは思ってなかったね……」
「どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ」
遠い地から呼び出される感覚が体中を走る。……コハルちゃんが試練を突破したみたい。タイミングばっちりだね。
「行ってくる」
「いってらっしゃい」
セレスの頭を軽くたたいてどいてもらう。最後の大仕事が待ってるね。
―――
感覚に身を任せると私は試練の洞窟の中にいた。コハルちゃんは……。
「見つけた! 大丈夫?」
瀕死の状態で洞窟の中央に横たわるコハルちゃんを見つける。
こっぴどくやられたみたい……。でも無事でよかった。
マゼンタの魔力を使ってコハルちゃんを治していく。うん。上手くいったね。
「サクラ? もしや妾は失敗したのか?」
「大丈夫だよ。いろいろと事情が変わってね……」
コハルちゃんが試練の洞窟にいた間の外の出来事について説明する。
「そうか、外でそんなことが……」
コハルちゃんが悲しそうに言うもすぐに表情を切り替える。
やっぱりコハルちゃんは強いね。
「では妾は何を願えばよいかの?」
「世界の管理者達の再生を願って欲しいかな。でもその場合コハルちゃんは……」
「分かっておる。妾の役目が終わるだけじゃろう。気にするでない」
コハルちゃんの許可を得て報酬が決定する。報酬は管理者の再生。
報酬を叶えるために魔力を解放する。いくら試練の報酬といえ、世界の存続がかかわる報酬をただで叶えることができない。
代償はコハルちゃんが持つ魔力。嫉妬の、傲慢の、憤怒の、暴食の、色欲の、強欲の、そして怠惰の魔力を抜き取る。
外界の影響でこの魔力達が消滅する前にそれぞれの特性を打ち消すようなイメージを固めていく。
目を瞑って今まで出会った神霊達を思い出す。リーヴィア、レオンハルト、ドラゴハルト、ルルディア、ヴィヴィリア。そして……ジークハルトとセレシア。
私の魔力がごっそりと抜ける。思わず膝をつくと様子を見ていたコハルちゃんが駆け寄ってくる。
「サクラ。大丈夫かの?」
「うん。でも神霊を作るのは消耗が半端ないね……卵だけど」
目の前に色とりどりの卵が浮いている。上手くいった……のかな?
それぞれの卵に一つずつ触れていく。アビスが死んだ影響で大罪の欠片としての魔力は消え、管理者としての純粋な魔力だけが残っている。
私が全ての卵の確認を終えると卵は消えていった。
「消えたが平気なのか?」
「うん。それぞれ主の元に旅立っただけだよ」
私の魔力の特性は再構築と再生だ。きっと生前の……。
「なんでセレスの分まで作ったのじゃ?」
コハルちゃんがこの場に一つだけ残った卵を見て聞いてくる。
「それはもちろん。セレスに自由になってもらうためだよ」
「ふむ? そうか。サクラがいうのならそうなのじゃろう」
しばらく二人の間に沈黙が流れる。
試練が終わり、報酬の履行も終わった。洞窟の出口が開き、あとは外に出るだけ。
「のう、サクラ……。欲を言っても良いかのう?」
「もちろん。その権利がコハルちゃんにはあるし、今の私ならきっと叶えてあげられる」
コハルちゃんの輪郭がぼやけていく。ぼやけた箇所が仄かに光る。
「妾は今まで我慢してきた。サクラ達の役にも立った。主君の命令も、本能に刷り込まれていた思い込みも全て従わずに生きた。もちろん妾だけの力じゃない。サクラやオリディア様の助力があったことも分かっておる。そなた達と一緒にいれて楽しかった! 楽しかったのじゃ……」
「そうだね。うん。願っていいんだよ。最後くらい強欲になろう」
泣きじゃくるコハルの頭を優しく撫でる。体が透き通る中、コハルちゃんが願いを言う。
「もっと生きたい。サクラやカトレアと一緒に生きていきたい。世界が滅びるその日まで!」
コハルちゃんが叫ぶと共に一際大きな光を放った。
「もちろん。その願いも叶えるよ」
マゼンタの魔力でコハルちゃんを覆う。離れていく光を無理やりかき集めて私は……。
―――
洞窟が突然輝きだす。サクラから貰った桜の魔力を纏っているおかげで世界の様子が分かる私には今度こそ完全に崩壊が止まったと分かった。
「終わったのね」
「そうなのサ? サクラ達の勝利なのサ!?」
「ええ、世界は助かったわ」
「いやっふーなのサ! みんなにも教えてくるのサ! カトレアも一緒にくるのサ?」
ポーラは小さな体で大きく万歳をして喜びを表す。
「いえ、私には待たないといけない子達がいるから」
「分かったのサ! 行ってくるのサ!」
言葉もほどほどに勢いよく飛び出していく。
妖精族に任せれば世界中の人々に伝わるのもあっという間ね。
一際洞窟が明るく光ると濃い桜色の優しい光が出てくる。
「先に出迎えているなんて狡いんじゃないかしら?」
私に待たせておいて先にコハルに会いに行くなんて羨ましいわ。ま、思えば私はいつもこの立ち位置だったわね。
私はゆっくりと立ち上がり、洞窟の入り口まで移動する。両手を広げると愛しい二人が飛び込んでくる。
「「ただいま!」」
「おかえりなさい」
小さな龍のレクイエム。いかがでしたでしょうか。本編はこれで完結になります!
残してる伏線もありますがそちらは自由に受け取ってください!
本編は終わりましたが後日譚が後数話残っています!
良ければ最後まで読んでください!
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次話は明日の17時投稿予定です
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