272話 オリディア対アービシア
サクラちゃんの応援を背に作ったばかりの小さな世界に入る。辺り一面真っ白で地面と空しかない単純な世界。サクラちゃんに管理権限を渡した元の世界を思い出すわ。この真っ白の状態からよくぞあそこまで成長してくれた。感慨深いわ。
それにしても……ふふっ。頑張ってじゃなくて無茶しないで……か。心配してくれるって嬉しいわね。それにしても少し体がだるい。アビスが消滅した影響ね。
「老害がっ! ここから出せ! そしたら楽に殺してやるよ」
「この世界の中で簡単に勝てると思わないことね」
アービシアが憎悪に燃え上がる目で睨みつけてくる。
「そんな熱い視線を向けてきても期待には応えられないわよ?」
「ふんっ」
つまらなさそうに鼻を鳴らしたアービシアは黒の魔力を槍状に変えて襲ってくる。バカの一つ覚えね。
「支配者」
この世界を好きにできる魔法。アースフィアの管理権限をサクラちゃんに渡したからこそ新しい世界の管理をできるようになった。だからこんなことだってできる。
私が指を鳴らすと黒い槍が消滅する。そのまま指を下におろしてアービシアの周囲の重力を十倍にした。
「なんのっ」
アービシアは憤怒の力で身体能力を向上させ重力に対抗する。
再度指を鳴らして無数の大剣を作り出す。そのまま剣の雨を降らせるとアービシアは嫉妬の力で斬撃のダメージを無効にした。
でも十倍の重さになった剣の数に押しつぶされていく。
「くそがっ!」
「口が悪いわよ」
アービシアは色欲の力で剣の操作を奪い取り私の頭上に飛び上がる。
「俺と同じ目にあえ!」
傲慢にも宣言すると私の周りの重力が十倍に上がり大剣の雨が降り注ぐ。
「私の真似をするなんてそんなに私のことが好きなのかしら」
「違うわ!」
神になりたてのアービシアと違って神になって長い私は自分の世界で理から外れることだって可能なの。
すべての大剣や重力が私をすり抜けて地面へと刺さる。真っ白な世界に無骨な剣が刺さっているのは剣の墓場みたいで見た目が良くないわ。
腕を払って大剣を全て消し去る。うんうん。見栄えが良くなったわ。
少し頭痛がして頭を押さえる。そろそろ時間が少ないかしら。
「チートやろうが。なんでもありかよ!」
「そりゃあ私が創造神だもの」
「ちっ」
アービシアが私を指さす。ちょっとステータスが下がった感覚がするわね。万全の状態なら抵抗できるのにちょっと悔しいわ。
「お前のステータスの半分を強奪した。小細工は通用しないぞ!」
強欲にも私の力を一部奪ったアービシアは接近戦を仕掛けてくる。
確かに簡単な妨害だと突破されそうね。でも……。
パーンっ!
発砲音と共にアービシアの片腕が吹き飛ぶ。今の体調で接近戦に付き合う余裕はないからね。
「なんだそれは」
「これは拳銃……いえ、正しくは魔銃かしら」
ルディが作った銃の上位互換だと思ってもらえればいいわ。もちろん私が関与している分、特別な仕様よ。なんでも貫通するの。
「なんで再生しないんだ?」
「それは私の創った世界の中だからよ!」
ビシッとアービシアに指をさす。ふっふっふ。決まったわね!
私に有利なルールを土俵に上がった全員に押し付けることができる。それが天地創造の神髄よ。さすがにアービシアの力が大きすぎて私以外魔法を使えない世界にはできなかったけどこの世界で受けた怪我を治せないくらいの制約は押し付けることができたわ。
うふふ。サクラちゃんの役に立てそうね。
「さっさとくたばりやがれ」
「断るわ。まだまだやれることはあるもの」
サクラちゃんの作った魔毒をマネしてアービシアに吹きかける。触れたところから浸食するわよ?
「魔力でできた攻撃が効くか!」
アービシアは暴食のごとく魔毒を食べつくす。あら? 体が溶けると思ったのだけど?
「アビスの体で一度食らってるからな。もう耐性ができてるのさ」
「あら、それは失敗したわね」
再度魔銃を発砲する。あら、嫉妬の対象を斬撃から銃撃に変えたのね。残念。もう一本腕を貰っておこうと思ったのに。そろそろ時間がなさそう。体も限界に近付いてるわ。
「二度も同じ手が通用すると思うなよ」
「そうね。悪かったわ。でももう時間切れよ」
「あ゛?」
もう、女性を睨むなんてモテないわよ。なんて言葉にする力も無くなってきた。
訝し気に見てるけど時間切れは私の方よ。
だから……最後で最大の攻撃にしましょう。
「小さな世界」
今のアービシアに効かないのは銃撃。ならこれからの攻撃は防げない。
魔銃を持たせた小さな兵隊を大量に創り出し、弾幕を張らせる。もちろん全てなんでも貫通させる能力を付与してるわ。
「うるさいけど効かないな」
余裕ぶったアービシアを横目に最後の仕掛けを施す。この世界の寿命をなくし、小さい代わりに密度が高い恒星を作る。太陽ほどの質量をビー玉サイズにしてみたわ。
寿命を迎えた世界にひびが入り崩壊し始める。作り出された恒星もすぐに壊れ、超新星爆発を起こす。
「さようなら。愛しき――」
―――
ふと世界が崩壊する音を聞き取る。
「逝ったか」
それにしてもサクラは大丈夫か? しかし万全な状態ならシアンがアービシアを処分できただろうに……魔力量も中途半端、しかも死に体だったからな。アービシアは逃げ切れるだろう。
俺もサクラにほとんど魔力を渡した上で世界の修復に力を使い切ったからな。そろそろ元の世界に帰らないといけないな。
「頑張れよ。この世界を……セレスを頼んだ」
俺はサクラに想いを託してアースフィアから退場した。
次話は明日の17時投稿予定です
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