267話 コンプレックス
私の魔力の特性を聞いてアビスに対抗するための策が二つできた。
一つ目はオリディア様にアビスを倒してもらう方法。二つ目はアビスを作り変えてしまう方法。アビスをオリディア様と関係ない存在へと再構築できれば……可能性はあると思う。
「セレスちゃんを助けてくれてありがとう」
「お礼は世界を救った時まで取っておいてください」
ウインクしてカッコつけるとオリディア様が手を頬に添えた。
「え? なに? どきどきする?」
「どうかしましたか?」
オリディア様の言葉が聞き取れなくて覗き込むとしゅばっと今まで見たことのない速さで距離を取った。オリディア様どうしたの? もしや私臭う!?
袖を摘まんで匂いを嗅ぐ。自分じゃ分からないや。
「すーはー。すーはー。大丈夫。ただの気のせいよ」
「そう? なら良かった」
匂いを嗅ぐには位置が遠い気がしないでもないけど気のせいだったのならきっと大丈夫。でも私の言葉を聞いたオリディア様は複雑そうな顔をしてる。もしかしてオリディア様って……匂いフェチ!?
セレスのことを私に任せて再度アビスの足止めをしていた龍馬が近くにやってくる。
「ふざけてないでこいつをどうにかするぞ」
「ごめんごめん」
「私も怒っちゃったわよ。いくらアビスちゃんでもおいたしたらお仕置きしないとね」
三人並んでアビスと対峙する。
「……邪魔をするな。もうあの世界には戻らない」
あの世界? 封印されていたアビスフィアのことかな? つまり逃げたかっただけ?
「だからって巻き込まないで欲しいな」
「うるさい。俺だって黙って何年と封印されたんだ。次はお前の番でいいだろう」
「ダメよ」
私が答える前にオリディア様が私の前に立ってアビスに断りを入れる。
それにしてもアビスにも一応世界を存続させようとする意志はあったんだね。
「なぜオリジンが答える。俺としてはお前が封印されてもかまわないがな」
「ええ。サクラちゃんが封印されるくらいなら私が封印されるわよ!」
「ダメですよ! この世界はオリディア様が管理するんですから! そもそも私達に封印される理由はありません」
庇ってくれるのは嬉しいけどその判断はしちゃダメでしょう。創造神の自覚持って?
「安心しろ。俺がしっかりと管理してやる。オリジンよりも俺の方が上だと証明してみせる」
そうだったのか……。何を考えてるか分からなかったけどただのシスコンだったのか。そういえばアビスがひねくれ始めたのもオリディア様に劣等感を持ってからだっけ?
それなら世界にとって良い管理をするのかな?
「感情移入するなよ? こいつのせいで何が起きたか忘れるなよ。周りを見ろ」
龍馬の言葉に周囲を見渡す。オリディア様がいるおかげで動ける環境があるけどよく見るとうっすらと空間に亀裂が入っていたり遠くから雷の音が聞こえていたり土地が干からびていたりと散々な光景が広がっている。
「そうだね。この現状を引き起こすような神が世界を管理できるとは思えないよ」
「何を言っている? 今の惨状を引き起こしたのは俺じゃないだろう?」
「本気で言ってる?」
アビスは心底理解できないといった顔で首をかしげる。
「管理者を殺したのはアービシアだ。管理者を守り切れなかったのはオリジンだ。間違ってるか?」
「アービシアが神霊を狙ったのはあなたの復活のため、つまりあなたが原因でしょう?」
「アービシアが勝手にやったことだ。その意図がなんであれな」
そう言われたらそうかもしれないけど……。この惨状を見てなにも思わなかったり人を犠牲にしようとしたりしている時点でダメでしょう。
「別にお前たちに認められる必要はない。今の世界を修復したらそれだけで信仰されるから問題ないからな」
「知ってる? それはマッチポンプって言うんだよ」
「知らん」
ですよねー。正直姉弟喧嘩に世界を巻き込まないで欲しいのだけど……。オリディア様の味方かな。
「二度とあの世界にはいかん。そして俺がオリジンより優れてることを証明するのだ!」
「世界をあんたのちんけなプライドを守るための場所にするつもりはないよ!」
再びアビスが黒の……黒? 紺色っぽい? 色の魔力を纏う。
「魔力の色が変じゃない?」
「紺色? もしかして……」
オリディア様は何か心当たりがある様子だね。眉を潜めてないで教えて!
「おそらく私の魔力を吸収したことで青色に近付いてるんだと思うわ。……紺の魔力は分からないけどシアンの魔力には支配の権能があるから気を付けて」
支配。神の能力みたい。……神だけど。でも青から支配は想像つかないな。
「お天道様みたいな色だろ? まだ雨が降ってるがな」
「詩的だね。まったくセンスはないけどねっ」
「安心しろ。すぐに俺に共感できるようになる」
紺色の魔力が襲い掛かってくる。こういうのの魔法は同格や格上には効かないと思うけど念のため対策をしておかないと。
「サクラちゃん! 全部躱さないとダメよ! ジークちゃん達の劣化版とは物が違うわ!」
桜色の魔力で紺の魔力を再構築しようとしたら慌てた様子のオリディア様の声を聞いて魔力を引っ込める。
「どうすればいいの?」
「まだ完全に元の魔力に戻ったわけじゃないわ。……ごめんサクラちゃん。サクラちゃんも私達と同格になってるの忘れてたわ。てへ」
オリディア様に対処法を聞くと私が普通の人だと勘違いしていたみたい。いや、私も神の自覚ないけどね。
「私の魔力なら問題ないってこと?」
「魔力はそうね。でも武器やこの世界が敵になると思った方がいいわよ」
なるほど。となるとセレスが離脱したのはある意味良かったかも。私も龍馬もオリディア様も直接操られることはないけどセレスは危なかったからね。
次話は明日の17時投稿予定です
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