264話 アビスフィア
ゲートを潜ると星空が綺麗な草原に出た。なんだか怖いくらいに綺麗な景色だ。
星空を見ているとアビスが声をかけてくる。
「綺麗な場所だろう?」
「うん。でも……」
「ああ、景色以外何も無い」
四方を見渡しても芝生が見えるだけで生き物はもちろん岩や背の高い植物すら無い。芝生も全て同じ大きさ、同じ間隔で生えていて異常に整っているよ。
「ここには昼も夜も無い。どれだけ移動しても景色は何も変わらない。ここがどこか分かるか?」
「アビスフィアの中核。あなたが封印されていた場所だね?」
「ああ。これからはお前の留まる地だ」
この場所をアビスを封印する核となることでオリディア様は世界樹の世界を創った。アビスという核がなくなった世界は滅びやすい……。
そこで私を身代わりとして、正しく人柱として、私を封印し世界の核にしようと考えているのだろう。
「封印されるような悪神になった覚えは無いんだけどな」
「それは俺が決めることだ。お前の本質はどうでもいい」
なかなか自分勝手な事を言うね……。でも……
「セレスや龍馬だっているしオリディア様だって黙っていないと思うよ」
「安心しろ、お前一人を封印すればその二人は俺の世界に来れなくなる」
「どういうこと?」
私が疑問の声をあげると龍馬が龍馬が教えてくれた。
「今俺がここに居れるのはサクラの補佐としてだ。本来であれば神の他の世界への介入は許されていない」
「こちらの世界の情報を地球に送ってたのは介入じゃないの?」
オリディア様が地球……龍馬の世界に介入しなくてはSDSは完成しなかったはず。情報を送るのも立派な介入だよね?
「それは互いに許容していたからだ。片方が拒否すれば介入できなくなる」
「なるほど、アビスからしてみれば拒否するだけで龍馬を締め出せるんだ」
「セレスはそもそも神じゃない。アビスが下界に試練を設置しなければそれだけで対策できちまう」
じゃあオリディア様なら…………。いや、少なくとも当分は使い物にならなさそうだね。子供達がいなくなったショックで抜け殻になってそう。
うん、ここで私が負けたら詰みそうだ。
「そろそろ良いか?」
「わざわざ確認するなんて優しいんだね」
アビスがこちらを見据える。その目にはアービシアのような人らしい感情は感じ取れず、まるで光が映っていないように感じる。
首を振って吸い込まれそうな闇から目を離す。セレスと龍馬を確認してから頬を叩いて気合いを入れた。
「どこからでもかかってこい!」
「楽に逝け」
私の宣言と共にアビスが黒の魔力に溶け込む。
「後ろ!」
魔力の流れを読んでアビスの出てくる場所を割り出す。出現場所に合わせて天魔を振るうとアビスの顔に切り傷が入る。
「狡いな」
天魔で斬り返しをしようとするもアビスの言葉に攻撃を中断して後ろに下がる。
「ふむ、勘か? よく止めたな」
アビスが私の動きに感心するなか、龍馬が背後から近付く。
「強拳乱舞」
「止まれ」
そのまま初撃でアビスを打ち上げるも、二発目以降はアビスの一言で止まってしまう。
「崩壊」
「ちっ、面倒な」
宙に浮いたアビスに照準を合わせるも突然アビスの動く速度が上がってかわされてしまう。
「ふむ、こうか? 崩壊」
「させない!」
「セレス!?」
アビスが私と同じ魔法を使い、突然の事で動けない私はセレスに突き飛ばされて難を逃れた。
セレスは無事!?
「痛たたた。サクラは大丈夫だった? 突然突き飛ばしてごめんね」
「大丈夫。助けてくれてありがとう。そんなことよりセレスは大丈夫?」
「もちろん! なんたって再生できるからね!」
それって攻撃を受けた時の痛みは感じるってことじゃ……。まるで痛みを感じてないかのように振る舞うセレスに思わず頭を撫でる。
「にゅへへへへ? むふー」
「ありがとね」
「ふへ? さっき聞いたよ?」
再度お礼を言うとだらしない顔をしていたセレスは頭にはてなマークを浮かべつつ首を傾げる。そんな隠さなくてもいいのに……なんて健気な!
「お前ら! さっさと戦闘に戻れ!」
「はーい」
龍馬が速度やリズムを変えながらアビスと戦うも連続して同じ攻撃手段は効かないらしく攻めきれていないようだ。
しかもダメージを与えても再生……いや、まるで夢だったかのように傷が無くなっていく。
つまり一撃で決めきるしかない。
「二人とも時間を稼いでくれる?」
「「任せて(ろ)!」」
二人の頼もしい返事を聞いて魔法の準備に入る。
桜華と天魔を目の前の床に突き刺す。
イメージするのは呪いを祓う強大な聖光。ただし、私の魔力に沿うように。
セレスと龍馬の邪魔にならないように気をつけつつ周囲の魔力をかき集める。操作しやすくなるように一度桜の魔力で干渉し外皮のように身に纏う。
遠くからの魔力を扱えるように根をはり、高いところから打ち下ろせるように幹を伸ばす。
高さを稼いだら先端を散開して多数の花弁を作る。そして私の中で練り上げた魔力を花びらへ一気に流し込む。
満開となった桜の花から出る魔力が頂点に集まる。
「な、なんだそれは……」
「綺麗……」
三人の動きが一瞬止まる。一瞬先に我に返ったアビスが逃げようとした。
「逃がさないよ」
アビスが繭の状態にいた時に仕込んでおいた植物の種子を発芽させる。
「なんだこれは!?」
発芽した種子から蔦が生え、アビスの体を縛り上げる。
「ふんっ!」
アビスが無理やり蔦を引きちぎるももう遅い。こちらの照準はあってるよ。
「龍桜」
集まった光がアビスを直撃する。
光が消えた後、アビスの姿は消えてなくなっていた。
次話は明日の17時投稿予定です
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