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小さな龍のレクイエム(改稿版)  作者: セレシア(旧 助谷 遼)
アフターシナリオ ~幻想都市編~
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261話 たつ

 気持ち悪い顔をしていたマジュリーの顔が元に戻った頃、サクラが表示したタイマーの時間が迫る。


「じゃあ右二つ私がやるから一番左をお願い」

「分かったわ」


 心配になりつつもマジュリーに首を一つ任せる。……大丈夫よね?


 マジュリーが槍に水を纏うのを見届けて私も魔法の準備をする。


「焔雨」


 タイマーに合わせて桜色の炎を雨のように降らして首を二つ燃やし尽くした。


『全員退避!!』


 サクラの声に反応して急いで下がる。地上組は!?


 衝撃をやり過ごしてから下を見ると島の半分が消し飛んでいた。


「みんなは……?」

「なんとか無事だ……」


 慌てて声をかけるとレオンの返事が返ってくる。龍の形態になったレオンがボロボロになりつつも全員守ったみたいね。


「無茶しやがって」

「無茶じゃないから気にすんな」


 ライアスが心配するもレオンは鼻で笑ってヤマタノオロチに向き合う。八首がそれぞれ火や水や岩など気の向くままに吐き出し始め地上組は近付くのも難しそうだ。


「俺に任せろ」


 レオンが大きく翼を広げてシルビア様やライアスを背に乗せる。マティナはかなり後方に下がってるわね。


 ヤマタノオロチの攻撃をもろともせずレオンが近付いていく。


「サクラ! 合図を!」

『はーい。タイマーオン!』


 おそらく次がラストチャンスね。今までの竜と違ってみんなの攻撃を全て理解して対策を練ってきている。つまり既に十、いえ、牽制に使った攻撃を含めると五十近くの種類の攻撃が通用しなくなっているわ。硬くなりすぎて通用する手札もそう残っていない。


『頑張って!』


 サクラの応援を聞きつつ次の攻撃方法を考える。何がいいかしら。……そうね、サクラの魔力でできることにしてみましょう。


 魔力感知に集中して狙う首の魔力の流れを見る。そして、タイマーに合わせて魔力の流れに干渉して壊死させた。


「恐ろしいことするわね……」


 槍から水の竜巻を発生させて首をねじ切ったマジュリーに怖がられてしまった。私の方がましだと思うわ……。


 おしゃべりをしつつもヤマタノオロチに注意を向ける。万が一失敗していたら衝撃波に耐えないといけないのよね。


 ……。


 ……。


 爆発したり天候があれたりは……ないみたいね。うまくいったのかしら。


『みんなお疲れ様ー! いやー、私も鼻が高いよ!』

「あやつは誰目線なのだ……」


 えっへっへ。と何故か照れ笑いをしているサクラに呆れつつもお互い乗りきったことを喜ぶ。


『全員無事……では終われなかったけどよく頑張ったね。元の世界(・・・・)への(・・)ゲートを開くよ』


 サクラの声と共に神樹が七本姿を現す。


『それぞれの樹がみんなの国に繋がってるよ。大変だと思うけど……元の世界の人のためにもうひと頑張りお願い。オリディア様だけだともう限界なんだ……』


 サクラの元に行きたかったけどサクラの悲痛そうな声色に我儘を言うのをぐっと我慢する。


『あとは私達でどうにかするから。私が帰るまで元の世界をお願い』

「ふんっ。サクラは死ぬなよ」


 最初に返事をしたのはレオン。一言だけ発したレオンはそれぞれの神樹に乗せていたメンバーを連れていく。


「王国の立て直しは任せてください。せっかく立て直した国を再度壊さないでくださいね?」


 応援しているのか今までの恨みつらみを発散してるのか微妙な言葉を残してシルビア様が神樹を通り抜ける。


「今回も俺は待つだけの立場になっちまったけど。サクラの助けになれてたらうれしい。後は任せた」


 待つ立場……。少しだけ悲しそうな顔をしたライアスは振り向きもせずに片手をひらひらと振って神樹を通り抜ける。


「ラティナも会いたがってるの。今度は私とラティナの合作を……世界一の武器を作ってあげる。死なないで」


 何を思うのか、涙を流しつつも強い意志が籠った目を空に向けたマティナは名残惜しそうに神樹を通り抜ける。


「アイリちゃんの鱗を返してほしければドメーアに遊びに来るのよ。またね」


 いつの間にか槍を鱗に戻していたマジュリーはそっぽを向きつつも神樹に向かう。あぁ、そっぽ向いたまま正面を見ないから頭を神樹の枝にぶつけて……。ある意味ご利益があるかもしれないわね。


「儂の妹弟子達を悲しませるなよ。サクラ。弟子は師匠より先に死んではならん。いいな」


 おじいちゃんが孫を見るような。いつもの虎徹さんからは想像できない優しい顔でサクラの心配をしつつ神樹を通り抜ける。


「ヴィヴィが迷惑をかけてごめんなさいね。サクラ様。サクラ様が死んだらカトレアは私が奪っちゃうわよ! 嫌だったら……カトレアが大切だったら生きて戻ってきなさい! いいわね!」


 にかっと女の私でも惚れ惚れするような笑顔を空に向けた後、レオナは軽く目を伏せつつ神樹を通り抜けた。


 今この世界に残ってるのは私とレオンだけね。


「レオンは行かないの?」

「すまんな。俺はここに残る」

「ライアスには?」

「すでに話をしてあるから安心しろ」

「そう」


 そういえば、私の通る神樹はどこに繋がっているのかしら。


『ぐすん。ガドレアぢゃんの出るばじょば――』

「もう、聞こえにくいわよ。でも分かった。私に任せてちょうだい」

『いってくるよ。いってらっしゃい』

「いってきます。待ってるわ」


 念話なのに何故か鼻声のサクラに苦笑しつつ神樹を通り抜ける。





 全く……あの規格外はどこまで計算していたのかしら。


 あたり一面、枯れてしわしわになった花の上を飛び、枯れた湖の上に立つ。

 すでに水の流れていない滝を見上げつつぱっくりと口を開けた洞窟の前でサクラを、最後の希望(・・・・・)を願って祈る。どうかサクラが無事に戻ってこられますように……。


 世界から光が消えていく中、桜色の魔力が綺麗に揺らめき広がっていく。

次話は明日の17時投稿予定です


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