260話 ヤマタノオロチ
サクラに辱めを受けて顔の熱が引かない中、なにが悪かったのか考えてみる。
『まだ言い足りないんだけど~』
『絶対にやめてちょうだい!』
口をとがらせて文句を言うサクラを慌てて止める。このまま続くと原型を留めていられないくらいデレデレに溶けるところだったわ。
『じゃあなんでシルビアが怒っているか分かった?』
『……考えてみる』
『うんうん。私はもちろんシルビアもみんなも味方であることを忘れないようにね』
『ええ』
そうね。まったく、サクラのくせに説教してくれちゃって! サクラのくせに! ふふっ。
答えを見つけた私はシルビア様のところへ近付いていく。
「お待たせしました。一緒にあいつを倒しましょう!」
「いい表情になりましたね。今のあなたになら背中を任せられます。負担をかけますが首三つ分。お願いできますか?」
「任せて頂戴。残りの首と胴体は任せたわよ?」
「ええ」
借り物の力とはいえ今の私が強くなったのは事実。でもそれは周りの皆が弱くなったわけじゃないの。もともと雲の上のような存在の彼らを信頼しないのは失礼だったわ。
そうよね……自分を信頼してくれない人に背中は預けられないわよね。無意識とはいえ皆のことを見下すなんて……穴があったら入りたいわ。
「やっとか。待ちくたびれたぞ」
「あのままならサクラ様の気持ちを奪えると思ったのに残念ね」
「不吉なこと言わないで!」
やっぱりレオナのことは信頼できないかもしれないわね。警戒しておかないと。
「情熱的な視線。……ちょっと濡れちゃうわ」
もじもじし始めたレオナからそっと視線を外す。変態と戦うのは分が悪いわ。これから大物取りなのに無駄な精神力を削る必要はないわよね?
『さてさてさーて! 天の声ができる私が合図を出すよ! みんな! 準備はいいかい?』
「「待て待て! まだ早いわ!!」」
『ちぇー。仕方ない。三分で支度しな! 急いだ急いだ!』
「無茶ぶりをしおって……」
突然空から天の声が聞こえて驚くも皆がそれぞれの配置につく。……さっきの褒め殺しを周りに聞こえるようにされなくて良かったわ。本当に。
私は正面の三つの首を担当し、サクラから貰った魔力を練り上げる。最初の一撃は対策されている可能性があるし、だれか一人でもタイミングがずれたら一度使った攻撃方法は効かなくなっていく。一撃で三つとも落とせる技を使いましょう。
全員の魔力が高まり、ビリビリとした空気が辺り一帯を支配する。ヤマタノオロチの目が私達を見据えるとき、サクラから合図が出る。
『うてーーー!!』
「焔魔法。楼閣」
私の杖から桜色の爆炎が打ち下ろされて首の下に回り込み顎下から脳天を貫く。
うん。うまくいったわね。皆は大丈夫かしら。
『全員一度離れて!』
周りを見るよりも早くサクラの声がきて急いで離脱する。すると爆雷と共にヤマタノオロチの体が全て再生した。
『うわー。厳しいね。どうやらコンマ一秒のずれもダメみたい。それと同時に破壊できた首の数が多いほど再生時の反撃は強力なものになるみたいだね』
分析助かるわ。でも他人事みたいに言われるとむかつくわね。
『じゃあ次っ! みんなの頭の中にタイマーを仕掛けるよ。タイマーがゼロになるタイミングで魔法を使ってね』
ゲームか何かと勘違いしてない? 後できっちり問い詰めましょうか。
サクラに何をするか考えていると視界の端にタイマーが表示される。私以外の人にも表示されてるってことよね? どうやっているのかしら。
牽制するための魔法を使っていて気付く。少しずつ体が頑丈になっているわ。しかも学習してるせいで攻撃も当たりにくくなっている……。このままだと後二、三回攻撃したらダメージを与えられなくなるかもしれないわ。それ以降は……運に賭けるしかないわね。
タイマーに合わせて焔を刀のようにして首を三つ切断する。念の為少し離れて……っ!
先程の反撃よりも巨大な衝撃波が襲ってくる。間一髪空高く浮上することで躱すも地上にいるメンバーは厳しかったんじゃ……。
「リヴィ!! 目を開けて! リヴィ!!!!」
マジュリーが泣き叫ぶ声でリヴィの最後を悟る。今の攻撃を肩代わりして耐えきれなかったのね……。
『……もう一度タイマーをつけるよ。こっちでタイミングが合うように調整して表示するからさっきと同じタイミングで攻撃してね。ちなみに今ので同時に倒せた首は六本だよ』
サクラの声と共に再度タイマーが表示される。つまり、もう一段階上の威力の反撃が残っている。という事ね。既に地面に巨大なクレーターが出来上がって、昔サクラが作った魔境みたいになってるのに……。
「カトレア。お一つ私にくださいな」
「え? ええ、いいわよ」
マジュリーに話かけられて一度断ろうと思ったけど目が怖くて断れなかったわ。攻撃手段持っているのかしら。
「これがタイマーね? ……どうやって攻撃しましょう」
ボソリと聞こえた言葉に思わずマジュリー凝視する。本当に任せて大丈夫?
そういえば初めて会った時は槍を持ってたと思うのだけど……。
「槍はアイリちゃんに持たせてるわ」
「なんでなのよ」
思わずため息をついてしまう。ここでポンコツ発揮しないで欲しいわ。
「あっ! サクラー! アイリちゃんがサクラにあげたお守りくれる?」
『難しいこと言うね。でも必要ならやってあげる。アイテムボックスに入れておくね』
「ありがとう」
お守り? あぁ! そういえばアイリちゃんから生え変わりの鱗を貰っていたわね。……何に使うの?
「ふふふ、これがアイリちゃんの初物……ふふふふふ」
気になって見ていたら気持ち悪い顔をして笑い始めた。…………妹が好きすぎで回収したかっただけじゃないわよね? 大丈夫よね!?
「いでよ! ポセイドン!」
マジュリーの手の中で一枚の鱗が大きくなっていき巨大な三叉の矛へと変わる。
「なにそれ!?」
「ふふふ。私とアイリちゃんの愛の結晶よ!」
「くだらないこと言ってる場合じゃないわ」
「くだらなくないもん!」
いろいろ突っ込みどころがあるけど止めておくわ。マジュリーの相手は私には荷が重いもの。あほの子の相手はあほの子に任せましょう。
次話は明日の17時投稿予定です
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