259話 叱咤
リヴィの歌をバックにサクラから貰った魔力を練り上げる。世界を構築する魔力と私が纏う魔力が干渉しあって黒の魔力がどこにあるのか手に取るようにわかるわ。
これらを纏めて浄化してしまいましょう。桜色の魔力で黒の魔力に干渉していく。
桜吹雪が舞うように黒の魔力を吹き飛ばすとこの世界にいる全ての竜が消し飛ぶ。
「カトレア、ありがとうございます」
「まだ気を抜いちゃだめよ。最後の抵抗があるらしいわ」
リヴィの歌が弱まる中、気を抜きかけたシルビアを軽く叱責する。
「「「ぎょああああぁぁああああ!!!!」」」
私の浄化から逃れた黒の魔力が一点に集まり八首の竜を形どる。
「迫力がありますね」
「また厄介な……」
「ヤマタノオロチか? まんまな見た目をしてるな」
全部で十六の目に睨まれて一瞬ひるむ。ダメよダメよ。私はサクラから魔力を貰っているのよ? こんな怪物なんぞに気圧されてたまるもんですか!!
「小さくて可愛いの」
「悪趣味ね。それにいうほど小柄じゃないわよ」
先ほどまで大きな竜を相手していたからか少し距離を取るだけで視界に収まる大きさの敵でも小柄に見えてしまうのは不思議ね。
「ヤマタノオロチって?」
「八首の蛇。もしくは竜だ。向こうでは有名な敵キャラだな」
サクラ達の前世の世界の怪物や敵が多数いる世界って……。アービシアはどこでその知識を得たのかしら。
「先手必勝といきましょう。カトレアさん!」
「ええ。任せなさい!」
杖を構えてサクラから貰った魔力を練り上げる。リヴィの歌の効果なのかサクラが調整してくれているのかはわからないけどかなり扱いやすいわ!
「千歳桜」
桜色の炎が多数の花びらを模り、一つの刃となってヤマタノオロチの首の一つを切り落とす。
あら? 案外楽勝かしら?
「「「ぐるぁぁああ!!」」」
「くっ!?」
残った首が叫び声をあげると突風が吹き荒れる。同時にやってきた熱気や冷気を外側に逃がした。
「みんな大丈夫?」
何人かは皮膚が爛れたり腕に岩が突き刺さっていたりして痛そうだったけどリヴィの歌で回復していた。
私達が体勢を直している間に切り落とした首が元に戻っている。
……そう、さっきまでの竜がさらに厄介になったのね。
『カトレアちゃん! ヤマタノオロチを倒すためには全ての首と心臓を同時に壊さないと倒せないよ!』
『先に言いなさいよ! でもありがとう』
今更ながらアドバイスをしてくるサクラにちょっとだけ文句を言う。だって先に教えてくれていれば無駄うちしなくて済んだんだからね!
でもそうね。同時に八か所……。今のメンバーで攻撃に参加できるのは私とレオナ、シルビア様と虎徹さんにライアスとレオンね。……二人足りないわ。マティナとマジュリーは戦闘向きじゃないから頼れないしどうしましょう。
あら? よくよく考えると先ほどの手ごたえを加味しても私が一人で首を全て狩る方が速いわね。
「ダメです。みんなで叩きます」
私一人で叩きに行こうとシルビア様に提案したらにべもなく断られた。
「なんでよ。そっちの方が効率良いでしょう?」
私間違ってないわよね? 危険な相手だしサクラの魔力を大量に持ってる私の方が強いのよ?
「効率の問題じゃありませんよ。他に大切なものがあるでしょう」
「倒せなきゃ意味ないのよ? っ!」
掴みかかったら頬を平手打ちされた。乙女の顔を叩くなんて……! サクラにも叩かれたことないのに……!
思わず睨みつけると私以上の迫力で睨まれていた。
「私達を舐めすぎだ」
地を這うような声に一歩後退る。なんでよ。シルビアだってさっきの衝撃で腕が持ってかれていたくせに! リヴィの歌が無ければ今立つことすらできてないくせに……!
「サクラの魔力を受け取っただけの君が驕るな!」
「調子になんか……乗ってない!!」
今の私の方がシルビアよりも強いはずなのに……なんで恐怖を感じるの?
「少し頭を冷やしてください。カトレアが戻るまでは時間稼ぎをしておきます」
リヴィの歌の効果だって消えかかっている。さっきのダメージの肩代わりでリヴィはもう……。なのになんでそんなに悠長なことを言っていられるの?
「カトレア。シルビアの言う通りだ。倒さずにいてやるからサクラと話でもしてこい」
「わか……ったわ」
シルビアだけでなくライアスにも言われるなんて。レオナを見るとライアスに賛同するように頷いている。……わたしの! なにが! 悪いって! 言うのよ!!
少し不貞腐れつつサクラに念話を送ろうとする。……あら? どうやって私から連絡を取ればいいのかしら?
『あははは。いろいろ言われちゃったね!』
『笑いごとじゃないわよ! みんな私に嫉妬してるのかしら?』
私の心配は杞憂で私達を見ていたらしいサクラから念話が届く。思いっきり笑うなんてデリカシーがないわね。
『みんなも神霊達の仇を取りたいんだよ。それと……渡してる私が言うのもなんだけどさ。貰い物の力に頼っちゃダメだよ』
『サクラも私を否定するの?』
確かにサクラから貰ってる力だけど。そうじゃないでしょう? 今一番安全かつ迅速にヤマタノオロチと戦えるのが私なのよ? サクラが否定しないでよ……。
『私はカトレアちゃんの味方だよ』
『ならなんで!』
頬杖をつきながら困った顔をするサクラが頭に浮かぶ。癇癪を起した子供を見てるような視線が気に食わないわ!
『自分を見失わないで。そうだね。カトレアちゃんの魅力を思い浮かべてみると良いかもよ? 大丈夫。落ち着けばみんなの言いたいことが分かるから……ね?』
『……分かったわ。少し考えてみる』
私自身の魅力? 私はここにいる選ばれし者とは違う。規格外の力を持つサクラの幼馴染であり友人であり……恋人なだけなのよ。いくら頑張っても戦闘に向いてないサポート役のマジュリーやマティナと同じくらいにしか強くなれない凡人なの……。
あれ? 私の魅力ってサクラのおこぼれでしかないんじゃ?
『どうする? 自信ないならカトレアちゃんの魅力を私が一から教えてあげようか?』
『……お願いしようかしら』
『じゃあ行くよ? まずはカトレアちゃんの尻尾だよね。顔は感情を隠そうとしてるのに思いっきり振れて感情を示しちゃうのが可愛い上にもふもふで気持ちいい。もふもふといえば耳もキュートで魅力的! ぴくぴく動くのだって最高に可愛いんだよ! ぱっちりお目目だって見上げられたらなんでも叶えてあげたくなっちゃう破壊力を持ってるし――』
『待って待って』
『それにそれに、規格外で怖がられてもおかしくない私とも仲良くしてくれてるし、前世の話をした時だって馬鹿にせず最後に聞いてくれた。なんだかんだ言いつつも私のわがままに付き合ってくれるし、学園の時だってカトレアちゃんが待っててくれるから頑張れたんだよ!』
『もう、もういいから』
やめて! とっくに私のライフはもうゼロよ!
『まだまだ言いたりないよ! 私は努力しているカトレアちゃんが好き。思考覚悟しつつ私についてこようとするカトレアちゃんが好き。文句を言いつつも私の世話をしてくれるカトレアちゃんが大好き。ツンデレのツンが多くてもたまにしかデレてくれなくてもその一回のデレの破壊力が大きすぎて心が奪われてる。たまにちょっとだらしない姿をしちゃうカトレアちゃんのギャップ萌えで死にそうになるの。それからそれから――』
サクラの念話を聞いていて顔が真っ赤になってくる。
周りに拒絶されたように感じていた私は思わずお願いをしてしまったけど……まさかこんな辱めにあうなんて思ってなかったわよ!!
次話は明日の17時投稿予定です
評価とブクマ、いいねをお待ちしております!