258話 不死鳥
カトレアちゃんに魔力を送り込みつつセレスとジークの戦いを見守る。
セレスは怠惰の大罪も豊穣の神も使えないけど大丈夫かな。
私の心配をよそに余裕そうな表情をしたセレスは紅色の炎を身に纏う。近くにいるのに熱くない?
「あれは攻撃用の炎じゃないからな。俺の力は不死鳥。不死で怠惰な鳥の力だよ」
なるほどー。だから鳥の姿をしてたんだ。じゃああの炎は再生の炎かな?
「……なんでその力をセレスが持ってるの!?」
「なんども死んだり巻き戻ったりしてきたセレスだから適合したんだろうよ」
「そっか……」
セレスに力が付くのはいいことだけどそういわれるとなんだか悲しくなるね。
そういえば私の力は何になるんだろう。オリディア様の力は創造の力。アービシア……アビスの力は呪い。龍馬の力は再生ってことだよね? 私固有のものって何かあったかな……。
むむむと悩んでいる間にもジークとセレスの戦いが始まる。セレスは再生の力を頼りに無茶な攻めを行い、ジークはカウンターを主体に立ちまわってるね。
「どっちも攻撃に向かない力を持ってるからセレスが有利かな?」
「いや、ジークは厄介でしょう。まだレオンとリヴィの力を使えると思うし……」
ジークの能力は簒奪。格下からステータスやスキルを奪い取る力だ。同格相手だと奪い取ることはできず低確率で劣化コピーするだけなんだけどそれでも十分に強いよね。使用制限がかかっていて一定時間すぎると使えなくなる仕組みがなければ最強になれる能力でもある。
レオンやリヴィが驚いていたのは同格から能力をコピーできると知らなかったからだね。黒の魔力の作用でコピー成功率が上がっていたのかも。
「それならすでに使ってるんじゃないか?」
「私達を巻き込むタイミングをみてるんじゃない?」
奪ったスキルは使用する魔力も多かったはずだし多用はできないのだろう。であれば私が邪魔なジークは一緒に攻撃するタイミングを狙う……はずだ。
ジークからしてみればセレスの再生の力をコピーしても泥仕合になるだけだ。それも時間稼ぎが目的のセレスに対して効果はない。となるとやはりレオンからコピーした唯一の攻撃手段に頼ってきそうだよね。
セレスとジークの戦闘は続き、ジークの後ろに光球が発生する。思った通り照準はこっちを向いてる。
甘いよ! 読み通り!
光球と私の射線上に氷で作った鏡を張る。ふっふっふ。私の策略にはまるがよ……。のわぁ!?
突然龍馬に首根っこを掴まれて放り投げられる。なにするのさ!?
「私は猫じゃないんだけど!?」
「油断しすぎだ馬鹿。ジークの攻撃手段は一つじゃないだろう」
「え?」
もともと私が座っていた椅子を見ると椅子の背もたれからセレスに向かって黒い槍が突き刺さっている。……私がその場にいたら串刺しだったね。
「あ、ありがとう」
危なかった。こんな初歩的な罠にかかるなんて……。カトレアちゃん達との戦闘でこれ見よがしに簒奪の力を見せびらかしたのは私の選択肢から黒の魔法の攻撃手段を外すためだったとは……。さすがシルビアのパートナーといったところかな。頭が良いね。
「アホ面さらしてないで仕事をしろ。セレスの好意を無駄にする気か?」
「ちゃんとやってるよ!」
これでも初めの予測よりも早く終わりそうな速度で再構築できてるんだからね!
―――
サクラとの念話が途切れてから早八時間。辺りには巨大な影の棺や粘着質の網に捕らわれた竜が散らばっている。かなりの数を無力化できたわね。
でも全員疲労で動きが悪くなっている。ジークの呪歌の影響もあって余計に体が鈍いみたいね。私は私で疲れてないけどサクラの魔力に酔っていてうまく動けないし……。
「全員踏ん張ってください! 後二時間の辛抱です!」
シルビア様が激を飛ばすも全員力の入った返事はない。これ耐えきれるのかしら……。
「あと少しね? ヴィヴィもジークも逝ったし……。私も……」
「リヴィ?」
みんなの様子を見ていたリヴィが決意を秘めた目でなにか呟く。その様子にマジュリーが心配そうな声をかけている。
「ごめんなさいね。ずっとおっちょこちょいなあなたの傍にいたかったのだけど……」
「おっちょこちょいって何よ! ずっと傍にいなさいよ!」
「アイリによろしく言っておいて頂戴。立派なお姉ちゃんになるのよ。自分の幸せを忘れずにね」
リヴィは空高く飛び上がると綺麗な声で歌い始める。歌を聞いた竜の動きが鈍くなり地に落ちる。一方で私達の怪我や疲労が快復していき、私の魔力酔いもなくなった。体の調子もさらに良くなった?
敵に超バッドステータスを与え、味方の怪我や状態異常を完全回復させる。さらに味方のステータスを跳ね上げる。これ以上ない補助魔法。その代償はすべてのダメージを身代わりに受けること。私達の疲労や怪我、そのすべてを一身に受けることになったリヴィは……。
犬歯が唇を切るも血が出る間もなく治っていく。効力の高さが伺えるわ。
「リヴィ! リヴィ!」
マジュリーとレオン、ライアスの三人がリヴィの傍に寄って回復魔法をかけるとリヴィの表情が穏やかなものになる。
虎徹さん、シルビア、レオナは黙りつつも竜の殲滅を続けている。心なしか全員動きが荒っぽいわ……。
私も攻撃をしつつサクラからの合図を待つ。絶好調以上の動きで竜達を翻弄しつつ一時間ほど経過すると待ちに待った合図がやってきた。
『カトレアちゃん……。世界の再構築が終わったよ。……最後に黒の魔力が抵抗してくると思う。気を付けてね』
『ええ。ありがとう。大丈夫よ』
この世界最後の戦いになるのかしらね。私が全部浄化してみせるわ。
次話は明日の17時投稿予定です
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