257話 助言
どうしましょう。少し気分が悪くなってきたわ……。
使ったそばから、いえ使う前から魔力が一気に入り込んでくる。私の扱える許容量を越えたのか魔力に酔いそう。
「カトレア、大丈夫か?」
「いえ、割と不味いわね。あの子自分の魔力量が桁違いに高いの忘れてないかしら」
「あーね。空に向かって文句でも言えばどうだ? 見てるなら気付くかもしれんぞ」
「ありがとう、そうしてみるわ」
近くにいたライアスの言葉に従って心の中で文句を叫ぶ。
『魔力を寄越しすぎよバカー!!』
『カトレアちゃんにもバカって言われた……』
「へ?」
突然頭の中でサクラの声が聞こえるようになった。なんだか机みたいなものに伏して不貞腐れてる?
「どうした」
「えっと……サクラと念話が繋がったみたい」
突然のことに戸惑いつつもなんとかライアスに返事を返す。なんで突然念話が通じたのかしら……。
『サクラ。サクラ』
『はっ! カトレアちゃんの声! これが愛の力!?』
『念話が繋がったみたいね。聞こえてるかしら』
『聞こえてるよ! 良かった。やっと連絡をとれた』
テンションが上がってるサクラに苦笑しつつも懐かしい雰囲気に頬が緩む。
「何ニヤけてるんだ? カトレアまで頭がいかれ――」
あ、いけない。反射的にライアスを吹き飛ばしちゃったわ。何か言おうとしてた? ……ま、いいわよね。ライアスだし。
外野が静かになったからサクラとの会話に集中する。黒の魔力の浄化? もちろん片手間でもちゃんとやるわよ。ただサクラとの会話の方が大切なだけ。当然でしょう?
『で、いつまで魔力を送ってくるのよ。身体が辛いんだけど』
『ごめん! でもそこは我慢して欲しいな』
何か理由があるってこと? サクラが必要というならしかたないわね。多少の不快感は我慢しましょう。
『で、どこにいるのよ。ここに来れないのかしら?』
『今神界にいるの。残念だけど私達は干渉できないんだ』
『そうなのね。こっちの状況はどこまで把握できてるの?』
神界にいるのね……神界!? そういえばシルビア様もそう言ってたわ。ま、サクラならあり得るわね。流石に直接言われると驚くけど……。
『そうだ! 浄化するの一旦やめて! みんな死んじゃうから』
『どういうこと!? 竜が復活しちゃうんだけど!?』
突然何を言い出すのよ。竜が延々と復活するなら最終的には負けちゃうのよ? はっ! もしや自分の出番をなくされたくないからじゃ……。
『なにか不名誉なこと考えてるみたいだけど違うよ!?』
あら? 勝手に盗み……盗み聞きでいいのかしら? 盗み聞きするなんて悪い子ね。
『はい! 私は悪い子なので後で……じゃなくて! えっと、今カトレアちゃん達がいる世界がその黒の魔力で構成されてるの。だから全ての魔力を浄化しちゃうと世界が消滅してカトレアちゃん達も全員巻き込まれて死んじゃうよ』
なんですって!? まずいじゃない! 浄化しないと竜に襲われ続けて浄化すると世界ごと消滅するの!?
『ど、どうすればいいの?』
『私がカトレアちゃんを経由して世界を構築してる魔力を分解して再構築してるからそれが終わるまで耐えてほしいかな』
なんて? ちょっと内容がぶっ飛びすぎていて理解できなかったわ。
『端的に言うとアービシアから世界を奪うからそれが終わるまで耐えて』
なるほど。世界をサクラのものに変えちゃうと。もともと規格外だったけどもはや神様の領域よね。……遠い存在にならないわよね?
『分かったわ。みんなにも伝えてくる。あとどれくらいで終わるかしら』
『今一割だから……あと十時間は耐えてほしいかな……』
『全く無茶を……。でもやるしかないのね?』
長いけど終わりが分かるならまだましね。頑張りましょう。
『あっ! 封印をするのは良い選択だよ! 戦いが楽になると思うから頑張って!』
『ええ、互いに生きて直接会いましょう。なるべく早く終わらせてね?』
『任せて! カトレアちゃんの応援があれば百人力だよ!』
一人盛り上がってるサクラが目に浮かんで笑みがこぼれる。さて、もう一踏ん張りしますか!
―――
「良かった。話が伝わったよ」
「余計なことを……」
カトレアちゃんとの念話は終わって一息つくとアービシアが睨んできた。カトレアちゃんの様子を見て私が何をしてるのか気付いたのかな?
「なんのことかな?」
「とぼけるな。小娘の浄化に隠れて進めるとは悪知恵が働くな」
「…………なんのことかな?」
あれ? じゃあカトレアちゃんが浄化をやめたから気付かれたってこと? ま、まあいいや。どの道私が世界を掌握するよりも先にカトレアちゃんの浄化が終わると世界が消滅しちゃうから仕方ないね。
「邪魔なの」
「え?」
突然ジークの爪が目の前に迫る。なんで動けるのさ?
「させないよ!」
「ありがとう」
「んーん。大丈夫だよ。サクラはそっちに集中して! 悪い子は私がお仕置きするからね」
ジークの攻撃が私に当たる前にセレスが爪をはじき返した。ちょっと肝が冷えたよ。
「龍馬。なんで二人は動けるの?」
神界でアービシアと直接戦っていないのはアービシアを倒すとオリディア様も死んでしまうことが主な理由だけど、そもそもアービシアを攻撃しようとすると金縛りにあったように行動が制限されてしまうのも理由の一つだ。
それで安全だと思って油断してたよ……。
「二人は神じゃないからな。神と神界のルールには縛られない」
「神を攻撃できるって問題あるルールなんじゃ……」
神が力を使うと危険だから制限するのは分かるけど自衛の手段を奪うならちゃんと守ってほしいよね……。
「文句言っても意味ないだろ。それに強い神なら強い使徒を抱えていても不思議じゃない」
「龍馬には使徒がいないみたいだけど?」
「セレスがいるだろう?」
「えぇ?」
どちらかというとセレスはオリディア様の使徒扱いじゃないのかな? あ、でも魔力に染まったとか言ってたしジークもアービシアの使徒として動いてるみたいだから合ってるのか。ちなみに私の使徒でもあるってことだね?
「神同士の喧嘩は使徒が代行することが多い。ま、今回みたいに使徒同士で勝手に始めるものが多いけどな」
「なんでそんなに詳しいのさ……」
「ま、いい男は謎が多いのさ」
「それは女の方でしょうが……」
セレスが戦い始めたのにマイペースな龍馬に頭が痛くなる。
…………よしっ! 私は私のやることをしながらセレスを応援しよう!
次話は明日の17時投稿予定です
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