254話 神
「っと、ふざけてる場合じゃないぞ!」
ふざけてるのは誰だと突っ込みをいれたいけど我慢だ。だってにやにやしてるもん。突っ込み待ちだもん。
「ふざけてるのは貴様だろうが。冗談は存在だけにしていただきたい」
アービシアがこめかみに血管を浮かべながら文句を言う。
あちゃー。本人に自覚がないんだろうけど突っ込みしちゃってるよ。それにしても顔じゃなくて存在ごと冗談扱いされてるんだ……。
「どや」
「何が!? あっ」
やられた。意味が分からない返しに思わず私まで突っ込んでしまった。会話のペースを持ってかれている……っ!
「サクラが疲れてるのは俺のせいだ。攻撃じゃない」
「龍馬が攻撃してきてるってこと?」
「ちがわいっ! サクラはまだ神様になって日が浅いだろ? だから神の魔力を扱う手伝いをしてやったんだ」
「ちっ」
えっ? 私はいつの間に神様になってたの?
「ふむ。無自覚だったか。無意識でも神の力を扱えるとかさすが俺の転生体! 天才か?」
「自画自賛になってるよ?」
「いいんだよ。楽しく健康的に長生きするためにはナルシストになるくらいがちょうどいい!」
「大丈夫? そんな性格でウザがられない?」
「セレスが俺に冷たい! しくしく」
えっと、私混乱してるんですが? 夫婦漫才してないで説明プリーズ?
「そうだな……まず神様になるための条件って知ってるか?」
「知ってると思う?」
思わずジト目で龍馬を見る。そもそも神様の定義って何? 世界を創れるとか?
「教えてやるからそう睨むな。前提条件として性がないことで神になる資格が得られる。その上で色を持つことで神となる。簡単だろ?」
「……私は今自分が女性だと思ってるけど?」
こちらの世界に生まれてから数十年。ずっと女の体で生きてきたはずなんだけど……。
「ほらほら。この世界の神達はなんで性別があるんだっけか?」
「それはシアン様が二人に分かれた時に性の偏りができたから……え?」
本来神様には性別がないけど分裂した場合は稀に性別ができることがあり、その場合は必ず男女に分かれるらしい。これはオリディア様が教えてくれたことだ。
「まさかサクラとして生まれ変わる前に神様になる資格を持っていた?」
「だーいせーいかーい! 花丸あげちゃう!」
そんなふざけた話がある? 元が男でも同一人物が男女に分かれたことになるから元の人物は神様扱いされるってこと? そして大元が神様扱いされてそこから分かれた私と龍馬は神様になる資格を得たってことだね? パラドックスコントラディクションが凄いことになってるよ!? ややこしい!
「細かいことは気にしたら負けだよ。で、もう一つの条件を満たしたのも早かったな。いつからか分かるか?」
「色……私の場合は桜色だよね? いつからだろ……学園にいた時には色付いていたの覚えてるけど……」
あぁ、思い出した。洗礼式の後だ。当時はまだ薄かったけど相手の魔法の制御を奪い取った時に桜色に変わっていたはず。
「ああ、洗礼式でオリディアが余計なちょっかいを出した時からサクラは神様になっていたんだ」
「……欲しかったわけじゃないけど恩恵とか無かったから何も分からなかったな」
「そりゃそうだ。神様になっても意識して力を制御できなければただの子供さ」
なるほど。優れた道具も理解できずに使えないと宝の持ち腐れってことか。
「言いたいことはあるがまあそういうことだな」
口をもにょもにょしながら苦笑する龍馬に頭をかしげる。
「気にすんな。で、長くなったが、神の魔力……色の付いた魔力は無色の魔力を塗りつぶすからな。神の力に対抗できるのは神の力だけなんだ。それでアビスの黒の魔力に対抗するために俺がサクラの桜の魔力を与えてカトレア達をサポートしてたってわけだ。サクラがふらついたのは神の力を無理やり引き出しすぎた結果だな」
なるほど? でも……。
「龍馬の魔力じゃダメだったの? 同じ神なんでしょう?」
わざわざ慣れてない私の魔力を使わずとも龍馬の紅色の魔力で良かったと思う。
「あー、俺は地球の神をやってるからな。セレスを経由して少し干渉できたが管轄外の世界への干渉には限界があったんだ」
そういえば顕現するためにも制限がかかって……。
「この戦いが終わった後、私はカトレアのところに戻れる?」
「…………すまない--」
現実は残酷だ。まさにそう思う。いや、呑気に突然覚醒したカトレアちゃん綺麗! とか私も半透明の羽をマネして作ってみよう! とか考えてるのがいけなかったんだ。
……カトレアちゃんを助けたら引きこもろう。そうしよう。
「龍馬? 意地悪したらダメだよ?」
「――」
もうだめだ。おしまいだぁ。目の前が真っ暗だ。でもしゅうちゅうしないと。カトレアちゃんをたすけるんだ。
ぱちんっ!
「話をきけーい!」
「!?!?!!??」
突然セレスにひっぱたかれて我に返る。なんで追い打ちをかけた? いたわってくれても良くない?
「だから龍馬は無理してカトレアに過剰な魔力の譲渡をしたの」
「過剰な譲渡?」
「そ。もともと素質があったとはいえ尻尾の数を一本から九本に増やすなんてやりすぎだもん。あそこまで魔力で漬けちゃうとサクラの色に染まっちゃうよ」
なんだか響きがエッチぃです! そんな子に育てた覚えはありません!
「まだ混乱してる? サクラは嫌かもしれないけど、カトレアはサクラの眷属になった。つまり神界にいつでも遊びにこれるしいつまでもいられるんだよ!」
なるほど! 主従関係ができちゃうのは嫌だけど一緒にいられるのはいいね。あれ? セレスがここにいれるのはもしかして……。
「気付いちゃった? えへへ。僕はサクラと龍馬の二人の魔力に染まってるんだ」
「そこは龍馬だけじゃないんかい!」
思わず突っ込んだけどいつ私の魔力に染まったのさ? そんな機会なかったでしょ。
「サクラが私の魔王化を防いでくれた時だよ。くふふ。祝福を渡してたのは私だったはずなのに不思議だよね」
「うん、不思議だね」
セレスと見つめ合ってにへらと笑う。癒されるなぁ。……あれ? 今何の時間だっけ?
次話は明日の17時投稿予定です
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