247話 防衛戦
ドランが自爆に近い形でボルボロスを倒すのを呆然と見送る。なんで逃げれば勝てたのに……。
「くはははは。引き分けだったようだな。使えない駒もいい働きをしてくれるじゃないか!」
高笑いするアビスを睨みつける。こいつが何か仕掛けたの?
「よそ見していていいのか? もう一人も死ぬぞ?」
「……」
アビスの言葉に従うのは癪だけどルディまで死んでほしくない。いや、ドランだってきっと生きてるさ。だよね?
不安な心を押し込みつつルディとニュディルの戦いを見る。先ほどの衝撃でルディが体勢を崩し、少しニュディルに押されているけど一進一退といった様子だね。
「うん? 動きが鈍い?」
少ししてルディがだんだんと押され始める。ニュディルの手から突然小刀が生えてルディの機関銃の一本が切断された。
「よくわかんないけどやばたん。どうしよ」
ルディの独り言がうっすらと聞こえてくる。本人の知らず知らずのうちに動きが阻害されてるの?
「ドラちんが自爆したのもイミフだけど今の状況はもっとイミフだわ。考えるの苦手なのに……」
ドランが姿を消したことに少なからず動揺しているのか、弾の命中率が落ちている。私もサポートしないと……。
朝露状の世界に魔力を込めてルディに魔力を渡す。ついでに機関銃と弾の補給もしてあげよう。
「んおっ!? セレちんかな? ありー!」
私の援護に気付いたルディが律儀にお礼を空に向かって叫ぶ。うれしいけど戦闘に集中してほしいかな。
魔力と機関銃の補給のおかげで弾幕の密度が上がってニュディルの被弾率はもとに戻ったけど外れる弾がどんどんと増えている。なんで? ルディがばててるの?
「どうしたセレス。そんな苦虫を噛み潰したような顔をして。手にした駒が不良品だと大変だな」
「うるさいよ! ルディもドランも不良品なんかじゃない! お前なんかに負けないからな」
アビスの笑い顔に腹が立つ。ルディの不調の原因も見つけないといけないのに……。直接干渉ができればいいのに。
目を皿のようにして朝露の世界を見渡す。アビスの仕掛けは? どこにある?
「あ……!」
「くっくっく。もう遅い。ドランの働きも無駄だったな」
「まだ間に合うもんね! 見てろよ!」
ドランが勝利を捨てて相打ちにした理由が分かった。ボルボロスの腐った肉片から黒の魔力が毒のように噴出している。ドランはこれに気付いてすべてを燃やし尽くそうとしたんだ……。でも、わずかに肉片が残っている。たった数欠片の肉片で不調になるなんてどれほど強力な毒なんだろう……。
もしすべての肉片が残っていたら? ボルボロスを討てても毒が回って動けなくなったドランとルディの二人はそのままニュディルに……。だからドランは……。
「ルディー! 魔力で体を守って!」
聞こえていないと分かっていても思わず叫んでしまう。ルディが攻撃に使ってる魔力を超過する量の魔力を渡す。どうか意図に気付いて……!
少ししてルディがパっとこちらを向く。私がどこにいるのか見えないはずなのに?
「ボルボロスの肉片は毒だよ! その魔力で体を覆って! 防御に割いて!」
私の言葉が伝わったのかルディが魔力を体に覆っていく。すると髪の毛が紅く染まっていき、紅いオーラを纏い始める。
「しつこい。さっさと死ね!」
「いまのうちは最の強だよ! まけんっ!」
先ほどまでの劣勢が嘘のように一変し、ルディがニュディルを押し始める。私が渡した魔力の多さも相まってニュディルの再生能力が落ちていった。
「無事に勝てそうだね」
ニュディルを倒すまで秒読みとなり一瞬気を抜くもボルボロスの最後を思い出して気を引き締めなおす。油断せずに倒してね……!
「潮時か」
「なーにー? 聞こえないっしょ!」
ニュディルは小声で呟くとにやりと嗤う。何をするつもり?
「アビス様! 万歳!」
ニュディルは突然大声でアビスのことを讃えるとはじけ飛んだ。自爆!?
「マ!? 一斉に逃げんなしっ!」
ニュディルが爆散してすぐ、ルディが焦り始めて周囲に銃を撃ち始める。何が起きてるの!? そうか、どうやらニュディルは自爆したわけじゃなくて体を分体にして逃げ出したのか……。
少しの間銃を撃ち続けたルディだったけど途中で打つのをやめて目をつぶる。
「セレちん。いままでありがとう。ごめんね?」
目を開けて私の方を見たルディが不吉なことを言い始めた。なんで謝るのさ……。
「セレちんは悪くないよ。だから自分を責めないで。サクちゃんにもよろしく伝えておいて。マティは……悲しむだろうけどラティと仲良く過ごしなさいって伝えてね」
ルディの頬を涙が伝う。いつもの口調はどうしたの? なんで、お別れみたいなことを言い始めたの? なんでそんな覚悟を決めた顔をしてるの?
ルディは空高く、高く昇り始める。大気圏を超えて宇宙の外へ。私達がいる世界の外側にも届きそうな勢いで飛び上がると今まで使っていた銃を放棄し、新たに七つの特殊な銃を取り出す。その特殊な銃のうち六つは真下に、一つは外側に照準をつけた。
「みんなじゃあね! もっと美味しいものを食べたかったな! たーまやー!」
使用者の魂代償に照準を定めた相手を確実に撃ち落とす特別製のその銃はルディにとって最高傑作であるとともに最低な代物だ。
ルディは最後ににっと笑って七つの弾丸を発射する。下に向けた弾は海底王国へ、獣人国へ、神樹へ、空島へ、ドワーフ火山へ、魔国へ、爆散したときに飛び出していたニュディルの分体へと着弾する。
ニュディルが消失したことで各国を攻め込んでいた魔物たちの勢いや統率がなくなり、防衛軍が有利になっていった。ルディの、ドランのおかげで全ての国の人々は無事に危機を脱したようだ。
でも……素直に喜べないよ……。
次話は明日の17時投稿予定です
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