244話 それぞれの戦い3<レオナ視点>
今度は一人なのね。
ヴィヴィが開いたゲートを潜った私は一人、闘技場の中心に立っていた。対戦相手は……今はもういない。先ほどまで数千、数万と連戦していたけど全員手の内を知った相手だから楽に勝つことができたわ。
でも、魔国の民全員と戦わせるなんて酷いことさせるわね。ま、全員サクラ様を讃えなかった時点で偽物だと分かったけどね。むしろ本物だったとしてもサクラ様に敵対する時点で国民にいらないわ。
暴論? だからなによ。私は女王なのよ! 魔族は力を持つものが正義なの。誰にも文句は言わせないわ!
帰る方法がないか舞台の周りを歩いてみるも結界のようなもので覆われており外に出ることができないわね。どうしましょう。
悩んでいると空から海が降ってきた。……何を言ってるか分からないって? 安心しなさい。私にもわからないわ。
舞台の端に避けると舞台の中心に落ちた海が押し寄せてくる。
「わぷっ」
水の流れに流されつつもなんとか体の向きを整える。……水の中は苦手なんだけど。
訳が分からないまま魔力感知であたりを探ると二人分の魔力を見つける。敵かしら?
影魔法を使って攻撃の準備をする。ついでに呼吸用の管も影で作っておきましょう。
「待って待って! 敵じゃないわ! いたっ」
聞いたことのある声に警戒を解くと人魚がお腹に頭突きしてきた。痛いのはこっちよおバカ!
「ご、ごめんなさい。わざとじゃないのよ?」
「わわっひぇるわを」
「何を言ってるの?」
私はあんたと違って人魚じゃないから水中で話せないのよ! それくらい察しなさい!
「マジュリー。この人にお守りを渡さないと話せないわ」
「サクラは話せてたわよ?」
「規格外と一緒にするんじゃないわよ。それより早くお守りを渡しなさいな」
ぽわぽわした顔をしている人魚を殴りたくなる衝動を我慢しながらお守り……人魚の鱗を受け取る。良く分からないジェスチャーをもとにネックレスとして身に着けると水中でも呼吸ができるようになり普通に話せるようになった。すごく便利ね。
「ありがとう。初めまして、歌姫さん。ポンコツは本当みたいね」
「ポンじゃないわよ!」
この人魚はマジュリーで海底王国の姫だったはず。噂では歌声にすべての才能を持っていかれたせいでポンコツだとか妹を溺愛しているとか姫らしからぬ噂を聞くわ。そして私と同じ神霊との契約者よ。
「マジュリーがごめんなさい。ちょっとドジなところがあるけど良い子なの」
「あなたがリーヴィアね。私はレオナ。ヴィヴィのパートナーよ」
「あなたが噂の女王だったのね。よろしくお願いするわ」
噂ってなにかしら。悪い噂ではないと信じたいわね。
「それでここはどこかしら」
「私にもさっぱりよ。敵の本拠地の一つ……なわけないわね。その質問が来るってことはそっちも知らないのね」
「ええ。マジュリーのドジに巻き込まれただけなのよ」
頭を押さえつつため息をつくリーヴィアの心労が思い浮かぶわ。大変そうね。……ヴィヴィのあなたも似たようなものよ! って声が聞こえてきそうだけどそんなことないわよね?
なになに? サクラの救援に来たのにマジュリーが迷子になって良く分からないダンジョンにたどり着き、中で転移系のトラップに引っかかってここに飛ばされたって? そんなことある? 驚きしかないんだけど……。
「どうやって出るつもり?」
「大丈夫よ。お姉ちゃんに任せなさい!」
「……私はあなたの妹じゃないわ」
「あ! そうだったわ。アイリちゃんに会いたくなってきちゃって……。あっ! そうだわ! サクラのところに行きましょう!」
「行けるなら行ってるわよ……」
ザ、マイペースね。でもやたら自信があるみたい。
「一緒に行きましょう?」
私の手を掴んで泳ぎ始める。ちょっと! 速すぎよ! 手を放しなさーい!
―――
カトレア達がバラバラになる少し前、とある空の上にハエの群体と羽のついた蛇が浮かんでいた。
「ボルボロス様。バルバロッサのバカがしくじりました」
「そうか。他の国の様子は?」
「抵抗が思いのほか激しいです。ですが時間の問題でしょう」
ニュディルはボルボロスに跪きつつ。誇らしげに各国の戦況を報告する。ニュディルは自慢の分体達が負けるなんて微塵も考えていないのだ。要注意人物であったサクラでさえ苦戦したのだから……。
―――
海底王国。海の中で素早く動ける魚人たちはサポートが得意な人魚と共に抵抗する。アイリが指揮をとりドゥーグが中心となってニュディル率いる海の魔物の軍勢と戦っている。
「水は我々の地形だ! 臆するな!」
『ジュウリンセヨ!! アービシアサマニハムカウモノヘシヲ!』
深海というのはそれだけで一種の要塞だ。呼吸が必要なもの、泳ぐことができないものはそれだけで入ることができない。それゆえ攻め込む魔物の数はやや少ないがその代わりに精鋭となっている。
一方、アイリは地の利を生かして奇襲、陽動、遊撃となんでもありの作戦を立て、全ての戦力で迎え撃つ。
ニュディルは思っていた以上に善戦する海底王国を一気に攻め落とすためにアービシアから借り受けた魔力を魔物たちに渡して強化する。これで均衡が崩れると確信したニュディルは次の国に目を向ける。
獣人国。獣達の特性を持ち、多種多様な強みを持つ彼らは縦横無尽に駆け回る。グリフォンの獣人であるローレンを中心に力押しで対抗する。
「牙を使え! 爪を砥げ! 魔物なんかに後れを取るな!」
『ジュウリンセヨ!! アービシアサマニハムカウモノヘシヲ!』
障害物一つない草原で狼や馬の形をした魔物が自慢の四本足で駆け回る。二本足と四本足。どちらが素早く動けるかは自明の理だ。
ローレンは自由奔放に最前線を駆け巡る。最前線に立ちつつも危機に陥った仲間たちを助けつつ一騎当千の働きをする。
防衛の要がローレンだと目に着けたニュディルは自分の分体を送り込む。ローレンさえ崩せばあとは取るに足らないと判断したニュディルは満足して微笑んだ。
次話は明日の17時投稿予定です
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