236話 モノクロ
城に潜入した私達は何事もなく王の間の前に来ることができた。……順調すぎて罠じゃないかと心配になるよ。
聞き耳を立てて中の様子を伺うも何も聞こえてこない。魔力感知もブラックボックスみたいになっていて中がどうなってるか確認できないね。
「人が集まってくる前に突入しよう」
私は桜華と天魔をカトレアちゃんは杖を構える。気配を隠す役をヴィヴィに代わってもらい、レオナが大鎌を構えるのを確認してからドアをこじ開けた。
頑丈な結界ごとドアを壊して中に入ると玉座の上にアービシアが一人で座っていた。
「よく来たな。さてサクラ。せっかくだし一度だけ問おう。俺の下に付かないか?」
「断る!」
「くっくっく。だろうな。聞いてみただけだ」
アービシアが笑ってる間に魔力を練って魔素の支配を使う。
「崩壊」
「黒渦」
「えっ!?」
先制攻撃を仕掛けるもあっさりと捌かれる。今の最強技なんですけど!? それに魔素の支配で掌握していた空間に穴ができてる。
「弱くなったか? 黒棘」
「ぐぬぬ」
掌握していた空間に棘が侵略してきて魔素が消失していくのが分かる。私だって強くなったはずなのに……。
アービシアの出した棘が触れたものが魔法も物質も関係なく消滅していき王の間の地面が無くなる。
「カトレア捕まって!」
落下しないようにカトレアちゃんを掴んで空を飛ぶ。レオナはコウモリに変身してるし、ヴィヴィは言わずもがなだ。
「カトレア、物量作戦でいこう」
吸収してるのか消滅させてるのかは分からないけどこういった魔法には吸収限界があるはす……!
カトレアちゃんの焔魔法を大量に発生させ、私が補強して辺り一面を火の玉で埋め尽くす。途中からレオナとヴィヴィが手を貸してくれるも作った炎も片っ端から消えていき無意味に終わってしまう。
「くはははは! 弱すぎる! 相手をするのも面倒になってきた。死ね」
愉快そうに笑っていたアービシアだったが、私達の魔法が途切れたところで真顔になる。
「不味いわね。あの魔法反則でしょう」
「魔素は使われてないよ」
棘が引いたと思いきやアービシアの右手近くに集まって大きな剣を形取る。
「切るっ!」
「ふんっ。無駄だ」
アービシアが飛ばしてきた剣を魔力を全力で注いだ天魔で叩き切ろうとする。
剣と剣がぶつかると突如世界から色が消えた。
「はあああぁぁぁっ!」
腕を振り抜くと世界から色が戻る。
あ、意識が……。
「ほう? 少しだけ寿命が伸びたか」
「サクラ? サクラ? レオナ! サクラをお願い!」
少しだけ感心したようなアービシアの声と悲鳴のようなカトレアちゃんの声を聞きつつ意識を失った。
―――
<カトレア視点>
「ここはどこかしら」
薄暗い空間の中で目を覚ます。アービシアの攻撃に手も足も出ずに部屋から落とされちゃったのよね。サクラの手助けをするつもりが足を引っ張っちゃうなんて……。
「やっとお目覚めか」
「誰!?」
突如後ろから聞こえてきた声に慌てて反応して炎魔法で明かりを確保する。
敵地なのに気を抜きすぎたわ。これじゃサクラを怒れないわね。
「待て待て。俺は敵じゃない。な? カトレア」
「ライアス? なんでここに……」
聞き覚えのある声に炎を近づけるとライアスが手錠でつながれていた。
はっ! サクラは?
「サクラはどこ?」
「少しは俺のことも心配してくれよ……。まあいい、サクラはここに来てないぞ」
「どこにいるか知ってる?」
「知らん。お前らだって突然現れたんだ。ビビったぞ」
突然? 上から降ってきたとかじゃないのね。……確かに見てみると天井もぼろぼろだけど崩れてないわ。
「空魔法で飛ばされてきたんだろう。本物を見たことがないけど前世の演出と似たもんだった」
そういえばライアスもサクラと同じで前世の記憶を持ってたわね。……サクラと同じ。ずるいわ。
「で、サクラの居場所に心当たりは?」
「あるわけないだろ。レオンもいねえし俺もずっと捕まってんだ」
まったく、使えないわね。どうしましょうか。幸い私は手錠されてるわけでもないし檻を壊してサクラを探すべき?
「ん? あらライアスじゃない。……そういう趣味だったの?」
「そんなわけないだろうが! そうか、お前も来てたのか」
「んふふ。サクラ様のいるところに私あり! って言いたいんだけどね。残念ながらはぐれちゃったわ」
目を覚ましたレオナとライアスが話し始める。
ライアス一人だけ繋がれてるのは趣味だったのね。……そう、趣味は人それぞれだと思うわ。…………サクラもそういう趣味だったらどうしましょう。あら? サクラ相手なら悪くないかも?
「おいレオナ。カトレアが誤解してんだろうが! どうしてくれるんだ」
「誤解じゃないでしょう。それよりヴィヴィ知らない?」
「あーもう。知るか。お前たち二人しかここに飛ばされてきてないぞ」
嫌な予感がするわね。さっさと探しに行きたいわ。
「ちょっと待ってね。鍵を開けるのは得意なの」
そういうとレオナが自らの指を切る。切り口から血が出て鍵の形になり、ライアスの手錠と檻の鍵を開ける。
「便利な魔法ね」
「吸血鬼ならでわね。器用であればだれでもできるわ」
誰もは無理じゃないかしら?
「ん? お前らどうやって魔法を使ってるんだ?」
「どうやってもなにもいつも通りだけど……」
手をさすりつつ体をほぐしていたライアスが良く分からないことを尋ねてくる。
記憶でも飛んだのかしら。
「ちっ。足手まといか。どうせサクラが関係してるんだろうな。どうせ来てるんだろ? さっさと合流しようぜ」
「あんたが指図するんじゃないわよ!」
意外といいコンビかもしれないわね。
苦笑しつつ我先にと進む二人の後を歩き始めた。
次話は明日の17時投稿予定です
評価とブクマ、いいねをお待ちしております!