233話 治験
ミーヤとチコの異変に気付いた私達は手分けしてルアードさんやリリーさん、ウィードさんの様子を確認した。結論としては全員に異変が起きていて、アービシアを嫌っていたはずのリリーさんとウィードさんまでアービシア様のおかげで今の国が良くなったと言っていた。
今は宿に引きこもって作戦を練り直し中だ。
「後ろから刺される可能性が高すぎるわ。一度全員を捕縛してからアービシアを攻めましょう」
「私達もここにずっといたら記憶を改竄されたりしない?」
「それは……なんとも言えないわね」
今一番怖いことは私達までアービシアを崇拝し始めること。次にウィードさん達と戦いになることだ。
敵を倒すために味方に邪魔されるなんて精神的に辛すぎるよ。
「時間をかけすぎるわけには行かないのね。ならこれはどうかしら。まず一人捕まえて洗脳だか記憶の改竄だかを治せるか試してみる。無理そうなら全員捕縛、私達の中で一人でもおかしくなった人がいたらその人を捕縛して直ぐに攻め込む」
他に方法はないか……。消極的な方法だね。むむむむむ。
「あ、今ある情報からどうやって記憶を改竄したか分からないかな? 広範囲に影響を出してるし、定期的に何かしらの魔法か呪いをかけてると思うんだ」
原因が分かれば対策が取れるようになる。基本だね。
「一つ、心当たりがあるわ。……いえ、違うかもしれないわね」
「違くてもいいよ。教えて」
ヴィヴィが自信なさげに手を上げる。
歯切れが悪いけど重要な内容だとみた!
「ジークの仕業なんじゃないかなって……」
「ジーク? 第一オージサマのパートナーよね?」
事情を飲み込めていないレオナが疑問符を浮かべる。
かくいう私も理解出来てないけどね!
「えっと、まずはママがジークに気を付けてって言ってたの。最初は単に裏切り者だと教えてくれただけだと思ったんだけど……」
「記憶の改竄の事を注意していたかもしれない?」
私が言葉を引き継ぐとヴィヴィはこくりと頷いた。
「でもジークに記憶の改竄なんてできるの? そんなスキルも魔法も無いでしょう?」
「ええ、だから違うかもって言ったのよ」
うーん。ジーク、ジーク、今まで会ってない大罪の欠片は強欲……。手柄の強奪?
「改竄じゃなくて強奪だとしたら?」
「え?」
「ジークのスキルじゃなくて強欲の欠片としての強奪スキルの権能だとしたら? 可能性はあるんじゃない?」
どうだ! とみんなを見てみると苦笑いされた。なんで!?
「サクラ。なんでジークが大罪スキルを使えるのよ。もしも使えたとしたらセレスみたいに魔王化するでしょう」
「そもそも、オリディア様が調整をミスしたのはセレスだけだって言ってたと教えてくれたのはサクラじゃない」
「ぐぬぬ」
正論をぶつけられた。というかヴィヴィ! あなたはこっち側でしょうが!
「じゃあ一つ、みんなが話を聞いた相手はジークを最近見たって言ってた?」
ちなみにミーヤとチコは二週前くらにい見たらしい。私が話を聞いたウィードさんも三週前に見ていた。やっぱりこれは黒じゃない?
「学園長は見てたわよ」
「ルアードさんも見ていたわ」
「手段はどうであれジークで決まりでは?」
「仕方ないわね。サクラの仮説が合ってるものとして動きましょうか」
「なんでしぶしぶなの!?」
あまりの言い方に思わずツッコミを入れると二人が吹き出した。なんか息ピッタリじゃない?
ジト目を送るとカトレアちゃんが苦笑しつつも尻尾をモフらせてくれた。仕方ないから許そうじゃないか。
その後、異変の原因がジークだと仮定して話し合いを進めていく。
「まずはお守りを外さないこと。次にジークを見かけたら直ぐに距離をとること」
「ジークに会ったら自己申告した方がいいかしら」
「できるならしたいよね」
今のところは自己申告できそうだけどもし記憶の改竄でジークに不利な情報を話したくなくなったら?
「なら毎晩ジークに会ったか確認する機会を作りましょう」
「さすがカトレア! 天才!」
私なら二人が嘘をついても見破ることができるし、カトレアちゃんも私の嘘を見破ることができる。つまり隠そうと思ってもこのメンバーには隠せないのだ。
「洗脳されてる人達を元に戻せるか試しましょうか。回復させる手段が見つかる前にジークに一人でと遭遇したらその人を縛って潜入よ」
「ま、お守りの効果で効かないかもしれないし気楽にいこう」
オリディア様の魔力が込められてるお守りなら色んなものに効くよね?
―――
その後、暴れても直ぐに無力化できるミーヤとチコを最初に捕獲した。ウィードさんは抵抗されると面倒だし、ルアードさんや学園長は治療が長引くと周りが異常に思うから後回しだ。
「な、何するんや!」
「カトレアちゃん? サクラちゃん? どうして?」
最初は自由にした状態で治験をしてたけど、途中から暴れたり逃げようとし始めたから逃げられないように拘束した。するとミーヤは怒ったふりを、チコは泣いたふりを始める。
二人とも目からハイライトが消えてて怖いな。それに微妙に力も増えてるし……。
最初にお守りを渡してみる。うーん、残念ながら元に戻らないね。次に天の魔法で強化した光魔法で浄化してみる。……反応変わらず。
「治らないね……」
もしかしてアプローチ方法が間違ってる? 呪いだとすると今ので解けないのは強力すぎる。
「リマインド」
時の魔法と天の魔法でミーヤの記憶に直接干渉を試みる。
一度色欲の欠片と戦った時にいた夢の世界みたいだ。
モヤモヤしている場所や逆にハッキリしすぎている場所を巡り……み、見ちゃいけない記憶が見えた気がする。
気を取り直して明らかにおかしな記憶を探る。……あったあった。何故か陛下がやってたパレードをアービシアがやったことになってるし、スタンピードや魔族の襲撃から国民を守ったのもアービシアの手柄になってるよ。マッチポンプ感が凄い。
ハッキリとしているアービシアの姿とモヤモヤしてる詳細な設定を掌握して同じ解像度に均す。すると記憶のあちらこちらから干渉している魔力の残滓が浮き彫りになったから取り除いていった。
全ての残滓を取り除くとアービシアの姿が空白となる。……どうしよう。部分的な記憶喪失にしちゃったかも……。
次話は明日の17時投稿予定です
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