217話 アイドル闘士
コハルちゃんに窘められて本題に入ることになったのは私ことサクラ・トレイルである。レオナがふざけすぎて話が進んでなかったよ。
「単刀直入に言うわ。サクラには人族の象徴になって貰います!」
「断る!」
「ヤエとして闘技場の大会に出てもらって派手に暴れて貰うわ!」
「断る!」
「そうねえ、インパクトは大事だろうし優勝したらパフォーマンスをお願いしようかしら」
「断るっ!!!!」
話を聞いてるのかな? 断ってるよね? 私の声聞こえてるよね?
「…………」
「…………」
にらみ合う私とレオナ。私は相変わらずカトレアちゃんに膝枕されてるから威厳は無いと思うけど……。ぬくぬく。
「さて、単刀直入に言うわ。サクラには人族の象徴になって貰います!」
「あれ? 無限ループかな? 怖いな?」
はいって言うまで終わらないやつだ。私知ってるよ?
「どうやら納得してくれたみたいね。人族と魔族の為にも……」
「だが断る!」
ふっ。このサクラ・トレイルが最も好きな事の……。
「ふざけてないでちゃんと話を聞きなさい」
「あ、はい」
カトレアちゃんに怒られちゃった。耳に手を当てないで。さわさわしないで! ちゃんとするから!
「私の目の前でいちゃいちゃしないでくれる? ……襲うわよ?」
「たわけども! さっさと進めんか!」
「「ごめんなさい!」」
コハルちゃんに一喝される。これ以上ぐだぐだするわけにはいかないね。
「あなたしっかりしてていいわね。助かるわ」
はっ! コハルちゃんがヴィヴィに目を付けられた! コハルちゃんに手を出すのは許しませんからね!
「サクラ。そんなつもりはないから安心しなさい」
脱線しつつもなんとか本筋に話を戻す。
「人族に手を出さないように説得することにはできたのだけど、人族に協力しようとは誰も思ってないのよ」
「それは、そうだろうね……」
いくらトップが人族と共存すると言っても今まで敵視していた相手と手を組むのは感情的に難しいだろう。
「このままだと魔族達は人族側よりもアービシアにつく可能性が高い」
そうか。実力主義の魔族だからこそ一度力でねじ伏せれば配下に置くことができる。即戦力としてぴったりだということか。
「というわけで親人族派を増やしたい。サクラ程の実力者がいると分かれば人族を下に見る人が減ると思っているの」
「それで人族の象徴になって欲しい……と」
サクラとして改めて出場するよりもヤエとして前回暴れた実績がある分、一度ヤエとして出場した後に人族だと正体を示したほうがインパクトも大きいし人族側に抱き込めると……。
「分かった。やるよ。やればいいんでしょ?」
実質脅迫みたいなものじゃないか。やらなかったら敵対する可能性が高いってね。
「その返事を待っていたよ! ……そのふくれっ面もそそるものがあるわね」
「ぬ?」
カトレアちゃんに尻尾で顔を隠された。もふもふだ。
「もう、狐ちゃんも意地悪ね。まあいいわ。今日は泊ってちょうだい。……安心なさい。手を出すつもりはないわよ」
「信用するわよ?」
「ええ、サクラにもあなたにも嫌われたくないもの」
尻尾に夢中になってる間に話が整ったみたいだ。今日はゆっくりできるかな?
―――
次の日、巻角と悪魔の尻尾を付けて闘技場の舞台の上を漂う。今は闇魔法で姿を隠してるけどね。そういえば昨日サプライズがあるってレオナが言っていたな。なんだろう。
どんなサプライズがあるのか考えている間に観客席が埋まり、出場者がそろうと司会の人が進行を始める。
「皆様。今日はなんとー! あの伝説が復活する」
しんとする観客達。息を飲む音まで聞こえてきそうだ。
「皆様は覚えていますか? 約十年前、突然とあらわれた一輪の花。可憐な見た目と裏腹に圧倒的な実力で毎日バトルロワイアルを優勝すること三百回。突如姿を消したその雄姿を再び見ることができるのか! ヤエ様の参戦です!」
「「「うおおおおおぉぉぉぉ!!」」」
一気にボルテージが急上昇する。こうなったらもう自棄だ!
姿を現して派手な魔法を使う。氷と炎、光に闇の魔法を使ってから部隊の中心へと舞い降りる。
「…………」
再度静まる観客。や、やらかした!?
冷や汗が出て帰ろうかと思い始めた頃、司会の人が声を出す
「うっひょーー! ヤエたーん! 最高だーー!」
「ぴぅっ」
とち狂ったか? “たん”ってなんだ“たん”って!
「うおおおおおおお!!!!」
「キャー! ヤエ様ーー!」
司会の声を皮切りに観客から先ほどより大きい歓声が沸く。何事!?
「ヤーエ! ヤーエ! ヤーエ! ヤーエ!」
ヤエコールが続く中、バトルロワイアルが始まる。
バトルロワイアルの参加者たちが全員で手を組んで襲ってくる。今なら身体強化が無くとも圧倒できるけどレオナに派手にやれって言われてるんだよね。
「身体強化」
体の動きを魔法抜きで操れるようになった今、身体強化の方が身体操作よりも出力が出る。でも殺さないように注意して……。
「はっ!」
腰を深く落として正拳突きを正面に向かって打つ。突きの勢いで空気を押し出して真空波が巻き起こることで前面にいる出場者達が外に吹き飛んでいった。やりすぎたかも……。振り向いて残りの半数に向き合うと出場者達が一歩後退りをした。
「さすが我らがヤエたんだー! ただの突きで参加者の半数が脱落したぞー!」
「ヤエ様が私を見たわ!」
「違うのら。うちの事を見たのら」
「そんなわけないでしょう! 私よ!」
「なにおぅ! やるのら?」
なにか癖の強い観客がいるな。放っておいて今度は回し蹴りでもしよう。軽く飛んでから足を振りぬくと一人を除いて全員の出場者が吹き飛ばされた。少しはやる人がいるみたいだね? ……ん? もしやサプライズって?
「サークーラちゃんっ! あっそびーましょー!」
「今はヤエでしょうが。観客に聞こえたらどうするのよ」
「気にしなくて大丈夫よ。それより楽しみましょうね?」
「まったく、女王様が気軽に外に出ちゃだめでしょう」
「なーに? お姉さんのこと心配してくれてるの? 嬉しいわぁ」
なんで出場したの? かなり面倒なことになったんだけど!
次話は明日の17時投稿予定です
評価とブクマ、いいねをお待ちしております!




