215話 行進<マティナ視点>
アフターシナリオ ~地底公国編~ 最終話です!
また、捕捉情報も同時投稿しています!
サクラ達が魔国に向かってから早数ヶ月。アービシア配下の軍勢がドワーフ公国があるブーワ火山を攻め込んでいた。
「ぎゃはははは。この山は既にボロボロのはずだぁ! 奪え! 捕らえろ! なるべく殺すなよ!」
アービシア軍幹部の一人であるバルバロッサが棍棒を片手に号令をかける。蛇の下半身を持ち、筋肉隆々のバルバロッサはその巨体と風貌から脳筋に見られがちだが作戦を理解する頭は持っている。
「わざわざ武器を盗むたァめんどくせぇーな。武器なんか無くても適当にぶん殴ればいいだろうに」
脳筋であることに間違いは無い。ただ、文句を言いながらも作戦を遂行している以上ちゃんと理解は出来ている。
「最優先捕獲対象はジャックとマティナだ。二人は抵抗しても殺さずに連れてこい! 他の奴らは抵抗したら殺していいぞ!」
バルバロッサは一人ほくそ笑む。暴食の欠片が暴れた形跡がある以上相手の守りは脆くなっており、蹂躙するのも時間の問題だと疑っていないのだ……。
―――
「野郎ども! 武器を取れ! サクラの嬢ちゃんからは援軍を寄越せると連絡が来てる! だが! この国は俺達の物だ! 自由に鍛冶をするためにも借りを作る訳には行かねぇ! 分かってんな? 死ぬ気で守れー!」
ジャックがドワーフ達に号令をかける。数ヶ月前、曇っていた自分の目を覚ましてくれた少女の為に。素直に慣れない頑固な爺は贖罪も兼ねて覚悟を決める。ここにいないマティナの為にも……。
―――
サクラを見送った後、せっせと街を修復している皆を目守る。
「マティナは手伝わなくていいの?」
「ん。ラティがいるから大丈夫。ご飯のが大切」
パートナーのルディに返事をしつつアイテムボックスからおやつを取り出して食べ始める。私よりもラティの方が鍛冶が上手い。私は作るより使う方が得意なんだ。後食べるの。
「アービシア。知らなかったの」
アービシアという創造神様の弟が反逆をし始めたとつい先日ルディから初めて聞いた。もしかしたらサクラはその手先かもしれないとも……。
ブルーム王国で初めて会った時にはおやつをくれた優しいサクラが悪い人なわけが無いとルディには言ったのだけど、ずっと守ってきた暴食の欠片の封印を破ったのがその証拠だと言われたら反論できなかった。
たまたま最初に接触したラティを通してサクラの人となりを把握して、やっぱり悪い人じゃないと、私よりも貪欲で才能があるラティの事を、私では救えなかった双子の片割れを救いあげてくれたサクラは良い人なんだとルディを説得することができた。
お父さんも悪い人では無かったけど偏屈だった性格がサクラと衝突した後は丸くなっていった。
直接的な関わりは少なかったけどだからこそ私はサクラに感謝してるし、何かあれば手伝いたいと思うんだ。
「マティナ。少し鍛えようか?」
「ん。サクラに恩返しをするためにも頑張る」
私は神霊の契約者として期待されているけどラティみたいな天才じゃないし努力も嫌い。できればずっと美味しいご飯を食べていたい。……でも、私だって得意な事はある。外の魔物も強くなってるけど私には関係ない。サクラの敵は強大。しかも世界の敵でもある。それならば、私も静観しているわけにはいかないんだ。
「厳しくてもいい。頑張るの」
「ま、ま、マティナが厳しくして良いって言うなんて。てんあげじゃー!」
「うるさいの」
せっかく真面目な雰囲気だったのに一瞬で残念な感じになってしまった。でも入ってた力もちょうどいい感じに抜けたしこれを狙っていたのかも。
数ヶ月後、桜色の髪をしたエルフの姿の少女が迎えに来た。
「ちっす! おひさ〜!」
「ルディ久しぶり。マティは初めまして。準備は出来てる?」
「任せるの。恩返しのチャンス」
この数ヶ月間でしっかりと特訓をして力を付けた。目の前の少女以外にも赤髪の男性や青髪の人魚が……お魚美味しかったな。
「ちょっとゾクッとしたわ。私は美味しくないわよ?」
「残念なの。ちょっと齧りたかったの……」
「ダメに決まってるでしょ!」
取れた鱗なら食べられると思ったのに、残念。
「巫山戯てないで行くぞ。儂含めて全員がサクラ殿に恩がある身。今こそ助太刀の時だ!」
うん。やっぱりサクラは凄い。各国のトップ全員に貸しがあるって世界の支配者みたいだ。挨拶を終えて家族と向き合う。
「お父さん、ラティ……」
「ここは任せろ。ドワーフを舐めたら痛い目を見るって思い知らせてやる。奴らにくれてやる武器は一つもないさ」
「私もいっぱい武器作って送り込むからね! いくらでも使い潰していいからサクラさんの役に立つんだよ」
「もうすぐでアービシア軍が来るっしょ。急いで出るよ!」
ルディに急かされて外に出る。魔物の行進に地面が揺れる。生まれ育った国を攻められている時に一緒に守れないのは悔しいけど私はみんなを信じてる。
魔物の雄叫びを背にブルーム王国へと歩き進める。
サクラの為に、家族の為に、絶対アービシアを止めてみせるよ。
―――
<アービシア視点>
先ほど準備を終えたバルバロッサとグリフスを送り出した。
「こちらの陣営に裏切り者がいるな?」
「なんでそう思うんだよ?」
相手の対応が早すぎる。向こうの陣営が整う前に叩き潰すつもりだったがもう準備されている。杞憂だといいが楽観はできないな。可能性が高いのは……。
「安心しろ。お前じゃない。そうだな……。ニュディル。グリフスを尾行しろ。油断するなよ」
「殺しても?」
「裏切り者だと判明した時点で殺して構わん。好きにしろ」
これで良い。後は報告を待つとしよう。
次話は明日の17時投稿予定です
評価とブクマ、いいねをお待ちしております!