表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな龍のレクイエム(改稿版)  作者: セレシア(旧 助谷 遼)
アフターシナリオ ~地底公国編~
216/292

207話 夢幻

 ドワーク公国の正面口から外にでるとそこに広がるのは雪国……なんてことはなく普通の温泉街だ。ドワーフ以外の種族も多くいるね。


「匂いがきついわね」

「あはは、鼻がいいと辛いかもね」


 温泉特有の硫黄の匂いが辺りを漂っている。公国の中は温泉があっても匂いがしなかったのに不思議だね。ドワーフの技術だったりするのかな?


「温泉は好きなのじゃがこの匂いは嫌じゃのう」

「外に出たばかりだけどもう戻る?」

「もう少し見学するのじゃ」


 鼻の良い二人組の許可を得て三人で観光する。ドワーフの国の近くだけあって質の良い武具を扱う店が多い。


「公国の中よりも安いみたいだのう」

「防具でも買ってみる?」


 私達は今まで防具を使ってこなかったから一度買ってみるのもありかもしれない。


「いらないわよ。防具なんてあっても動きにくいだけだもの」


 この世界では魔力を持つ生き物はそれだけで強靭な防御力を持つ。魔力が多ければ多いほど体が丈夫になるのだ。それもあって防具を整える人は少ない。ま、魔力の少ない人は防具を使う人も多いけどね。


 その後いろんな武器屋防具屋を冷やかしてからドワーフの公国に戻る。デートみたいで楽しかった。こっそりとワンポイントアクセを買っておいたから後でカトレアちゃんとコハルちゃんに渡そう。


 ―――


 ラティナの家に戻る中で二人が待っていた。おや? ラティナが持ってる箱は?


「二人ともただいま。ラティナが持ってる箱はもしかして?」

「おかえりなさい。うん。コハルちゃん用の武器ができたよ!」


 やっぱり! 私の刀は氷炎鉱石がまだ無いからできないよね。早く用意しないと。

 箱から取り出して見せてくれたのは短い刃がついた長い棒状の武器。これは……。


「薙刀かな?」

「良く知ってるね。そう、薙刀だよ」


 薙刀は使いこなせば短中長距離に対応できる上に力が弱くても扱いやすい武器だ。さすが鍛冶師。目の付け所がいいね。


「コハルちゃんは使えそうかな?」

「うむ。任せるのじゃ」


 コハルちゃんはそう言いつつ受け取った薙刀を振り回す。おお! カッコイイ!


「凄い……。武器を作る前に使えるのか聞き忘れちゃったけど問題なかったね」


 確かに……。コハルちゃんは九尾の時の記憶があるから薙刀を扱う技術があったけど武器に詳しいドワーフならともかく普通の人は扱えない可能性が高いよね。


「悪い癖なの」

「う、そうだね。鍛冶に夢中になると先走っちゃうの注意しないと」


 口数は少ないけどマティナはラティナの事をよく理解してるようだね。よく見てるみたいだ。きっとラティナがネガティブな思考に陥っていても性格が曲がらなかったのはマティナのおかげだろう。


「銘はあるの?」

「“夢幻”だよ。変幻自在な動きを可能にできるように思いを込めて打ったんだ」

「いい名前ね」

「うむ。満足じゃ」


 コハルちゃんは嬉しそうにニコニコしている。見た目は微笑ましいけど持ってるものが物騒なんだよな……。


「そういえば……ジャックさんとはどう?」

「しっかりと向き合ってくれてるよ。一つ一つ丁寧に教えてもらってるからサクラさんの分の刀も任せてね」


 今までの親子関係が悪かったから聞かない方がいいかと思ったけど平気そうだ。良好な関係が築けているようでなによりだね。


 次の日、コハルちゃんと三人で火山の外に行く。目的は夢幻の試し切りだ。使った感触を確かめて欲しいとラティナに頼まれたのだ。


 非常口から外に出ると数は少なくとも魔物が襲ってくる。さっそくコハルちゃんが夢幻を手にして振り回し始める。


「振って回せばスライスさ~。スパッとシュパッと切り刻む~のじゃ!」

「楽しそうね!」

「だいぶ物騒だよ!?」


 楽しそうに鼻歌を歌いつつ上機嫌に薙刀を振り回してるのはコハルちゃんだ。歌に合わせてビシッとポーズまで決めている。手にしっくりと来てるみたいで出てきた傍から魔物が散っていく。ぅゎ幼女っょぃ。


 魔物をちぎっては投げちぎっては投げしているコハルちゃんをよそにカトレアちゃんに昨日買ったアクセサリーを渡す。今回買ったのは空調効果のある腕輪だ。


「あら。涼しいわね」

「体感温度を一定に保ってくれる腕輪だって。二人とも暑さが大変そうだったから買っておいたんだ」

「ありがとう。コハルにも渡したのかしら」

「まだだよ。渡すタイミングのがしちゃって」

「そうね……」


 二人してコハルちゃんを見て遠い目をする。今近寄ると私達も攻撃されそうなんだよね。少しして満足したコハルちゃん戻ってくるまでカトレアちゃんと二人でお話をして待っていた。


 ―――


「どうだった? って聞くまでもないか」

「大満足じゃ。すごく手に馴染んでおる」


 満面の笑みで答えてくれるコハルちゃんには当然のように返り血がない。不慣れな武器であれば返り血の一つや二つ浴びるものなのにそれが無いということは余程夢幻の質が高いのだろう。大業物かもね。


「戻ってラティナに報告に行こうか」

「うむっ!」


 にこやかな笑顔が愛くるしい。魔物の残骸が転がってなければなお良かったのに……。


 そっと魔物の残骸をアイテムボックスに回収してからコハルちゃんにも腕輪を渡す。


「ふぉぉ! サクラからもプレゼントを貰えるとは! 暑いと感じていたから丁度良かったのじゃ!」


 まるで子供みたい……。いや、子供ではあるけど中身九尾のはずだよね? もしかして肉体に精神が順応してきてるのかな? それとも……。

次話は明日の17時投稿予定です


評価とブクマ、いいねをお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ