206話 最後の神霊
ラティナに素材の調達を頼まれた次の日、私ことサクラ・トレイルは一人でドワーフの国の坑道を歩いて回っている。ちょっと寂しい。
カトレアちゃんとコハルちゃんの二人は暑さに負けて早々に帰って行った。今頃二人で街中を散歩してる頃だろう。うん、さっさと終わらせて合流しよう。
魔力感知の範囲を広げつつ鉱石喰らいを探すもなかなか見つからない。
「地面の中で生活してるみたいだから音で誘き寄せられるかな?」
鉱石を餌にしようにもこの山全体が鉱床だから飯能しないと思うんだよね。……ここで採れないレアな鉱石なら誘き寄せられるかな?
一先ず音で炙り出しが出来ないか挑戦してみる。
「エアーボム」
名前そのまま音爆弾だ。風と火の複合魔法で私が今作った。目覚まし代わりに使えるかな?
しばらく待っても鉱石喰らいは出てこない。音量が足りなかった?
「エアーボム」
今度は込める魔力量を増やして遠くまで音が響くように調整する。これでダメだったら美味しそうな鉱石を餌にしよう。
………………。
集まって来ないね。残念。じゃあ美味しそうな鉱石を置こうか。……美味しそうって何? マティナに聞いておけば良かった。普通は鉱石の味なんて知らないだろうけどマティナだからな。知ってても可笑しくない。
「さすがにマティも鉱石の味は知らないっしょ。サクちゃんマジウケる〜」
「…………だれ!!?」
突然後ろからギャルに声をかけられたと思って振り向くも誰もいない。
「こっちこっち。分かっててやってるなら最低じゃん?」
「ごめん……。現実逃避させて……」
「え〜? 現実逃避とかウケるんですけど〜。現実を直視しな! きゃはははは」
マティナの口からギャル語が出てくる事に頭がバクりそうだ。ぴえん。
「てゆーかサクちゃんマジやばたにえん。さっきの音爆はなにさ。サクちゃんパネェ」
脳が受け入れを拒絶してるけどこの子はルルディアだよね?
「さっすがサクちゃん。ウチはルディだよ。よろぴくね」
いやキャパイわ。最後の最後で濃い神霊が出てきたな。そう、ルルディアは何を隠そうマティナと契約している神霊の一人だ。これで全ての神霊と出会えたね。
「私も神霊と契約してるとはいえ出てきて良かったの?」
「はにゃ?」
そっか、勝手に出てきたのか。何の用だろう。
「ルディは何しに来たの?」
「やばばな音に誘われてやって来たんだよ。あれじゃあ鉱石喰らいにとってもえぐいて」
えっと? エアーボムが効き過ぎて鉱石喰らいが参ってるってことかな?
「一回目のエアーボムだけで充分だった?」
「サクちゃんウケる。充分もなにも全員逃げたし。自重してもろてええかな?」
そっか。エアーボム逆効果だったのか……。
「明日出直してもろて」
「うぐっ」
ルディに追撃されて撃沈する。今日はもう諦めてカトレアちゃん達と合流しよう。
―――
「それで諦めて帰ってきたのね?」
「たはは。明日は気をつけるよ」
「警戒してしばらく隠れてたりしてのう」
「う、一週間くらいは待ってからにしようかな」
二人と合流して直ぐに成果を聞かれる。ちょっと呆れてる雰囲気が出てる気がけど気のせいだろう。
氷炎鉱石が必要になるのは作業の後半らしいからまだ二週間くらいは余裕がある。一週間後に見つからなかったら大変だしラティナに聞いて氷炎鉱石が手に入らなかった時の代替案聞かないとね。
三人揃ったため国の正面口に向かう。いつ見てもパノムティコンみたいな構造してるよ。いや、犯罪者がいる訳ではないし家の正面が鉄格子ってわけじゃないけどね。
「パッと見どの家も同じにしか見えないわ。間違えて隣の家に入ったりしないのかしら」
「さすがに扉に目印付けてるでしょ」
「それもそうね」
ドワーフなら手が器用な人が多そうだし各家の目印を作るくらい簡単だろう。一度迷子になったら一軒一軒扉を確認する必要が出てきそうだけどね。
そのまま歩き街の最下層に行くと大きな扉があった。
「大きいわね」
「非常口とは違う形だのう」
大きさもだけど意匠が全く違うね。非常口は金床と大槌の絵が描いてあったけど正面口には何も描いてない。非常口の扉は知らなければ伝説の鍛冶場への入口とかと勘違いしそうだが正面口は何となく出入口だと分かるね。
扉を開けてもらい外に出る。一々開閉するの大変そう……。正面口がどこに繋がっているのか確認するためだけに扉を開けてもらうのも申し訳なくなってくるね。それでも門の開閉係の人は仕事ですからって言って笑顔で送り出してくれた。
「さっきの門番達大丈夫かしら」
「へっ?」
良い人達だと思ったけど何か問題でもあったかな。
「いや、私達のことを普通に通してくれたでしょ?」
「悪さしてないし普通の事だよね?」
「私達は非常口から入ってきたのよ? つまり入国の記録は残ってないはず。明らかに怪しいじゃない」
言われてみれば確かに……。でも記録なんて見た目が怪しくないと確認しないんじゃ……。あ、というか。
「それ分かってて正面口を確認するのに賛成したの?」
「そうよ? 外から正面口が見つからなかったらのだから中から探すしか無いじゃない」
「それはそうだけども……」
「サクラが居ればなんとでもなると思ったのよ」
「うっ」
そう言われると怒れない。ふへへ。信頼されてるね。
「ちょろいのじゃ……」
ニヤニヤしている私にコハルちゃんの言葉は届かなかった。
次話は明日の17時投稿予定です
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