203話 コース料理
ジャックさんの態度に腹が立って外に出たのは私ことサクラ・トレイルである。共用広場のベンチに座ってどうするか三人で相談中だ。
「啖呵きったのは良いけど誰に頼むつもりなのよ」
「ラティナかマティナに頼むつもりだよ。二人ならジャックさんの技術を盗んでるかもしれないし」
「あの爺さんが鍛冶場を貸してくれるかのう?」
「うっ」
プライドが高い職人をけっておいて作業場だけ借りるなんて認めない可能性の方が高いよね。どうしよう……。ん? 私の服を引っ張ってるのは誰かな?
「ん……」
「マティナ? 今は食べ物ないよ?」
「ん。違うの」
マティナが首を横に振る。食べ物につられたわけではないと。ジャックさんが私の事を呼んでいる?
「久しぶりなの。忘れたの?」
「七龍学園の文化祭で会ったね。久しぶり」
「ん」
挨拶に来ただけみたいだ。あのおじいさんからこんなに良い子が育つなんて奇跡だ。
「マティー! どこいるの?」
「ラティ」
ラティナがマティナを探している。マティナが返事をしてるけどいつも通りの音量しか出ていないため聞こえてなさそうだ。
「ラティナ! こっちだよ!」
「あ、サクラさん。マティの捕獲ありがとうございます。それとおじいちゃんがごめんなさい」
「捕獲て……。ま、いいけど」
もっと別の言い方がある気がしないでもないが本人達が気にしていないなら放っておこう。
「あ、そうだ。二人はオリハルコンの加工できる?」
「できま「できないの」できません!」
ん? できないのか、残念。……どうしよう。
「サクラさん、つなぎの素材はありますか?」
「混ぜ物のこと?」
「そうです。魔石であれば魔刀に、普通の鉱石であれば普通の刀になりますよ」
ふむふむ。氷の魔石は……全て売り払った後だからないね。火の魔石ならあるからそっちでいいかな? あ! いいこと思いついた。
「何してるんですか?」
「火の魔石から魔力を抜いて氷属性の魔力を流してるの」
「もっと上手にしてちょうだい。冷気が少し漏れてるわよ」
「あはは、ごめん」
少し調整が上手くいかなかったみたい。でも人工ではあるけど氷の魔石が用意できたから許して。
「家来る」
「え? 今ジャックさんと会うの気まずいかな」
「むぅ……」
どうしよう。マティナが裾をつまんだまま離してくれない。行かなきゃだめ?
「マティ……。サクラさん。こうなったマティは止められないので諦めてください」
「ぐぬぬ」
カトレアちゃんとコハルちゃんを見るも諦めたように首を振る。仕方ない、諦めるか。
―――
鍛冶場とは別の建物に案内される。こっちが生活用の建物か。
「「「お邪魔します」」」
「ん。来た」
「あはは、いらっしゃい」
「待つ」
椅子を叩くマティナに従って三人で座るとマティナが奥に入る。ラティナは私達の前に笑顔で座っている。
「三人共覚悟してね」
「覚悟?」
良く見るとラティナの顔は薄っすらと青ざめて冷や汗が出ている。え? なんで?
疑問の答えは直ぐに判明した。
「食べる」
奥から戻ってきたマティナはその小さなドワーフの体にそぐわない大きなお皿を持っている。マティナよりも盛られた料理の方が大きいのでは? マティナに勧められるまま食べ始めるとマティナはそれを見て再度奥の部屋に入る。
おっと? 嫌な予感がするぞ?
嫌な予感は見事的中しし、最初に出された料理を食べ終える前に同じ量の料理が出される。
「マティナ。私達そんなに食べられないよ?」
「?」
再度奥の部屋に入ろうとするマティナを引き留めようとすると純粋な目をしたまま何を言ってるの? といった顔をして首を傾げる。しばらく見つめあうけど部屋に入ってしまった。
「マティは私達が遠慮してると本気で思ってるから。まだまだ出てくるから気合入れて食べるよ」
「まだまだ?」
「やっと前菜の半分かな。こっちも含めてね」
最初に出された料理を食べ終えた時点でお腹が膨れているのだけど……二回目に出された。料理も含めて前菜の半分?
「こっちにもフルコースの概念があるのか」
「良く知ってるね。マティが考え出したはずなんだけど」
さすがマティナ。食い意地が張りすぎて日本にもあったコース料理の概念を生み出しちゃったか。
―――
四人してお腹が破裂しそうなほど膨れて苦しんでいる横でマティナが一人で私達四人が食べた総量と同じ量の料理を食べている。見るだけで吐きそう……。
「ごちなの」
「ごちそうさま」
マティナ以外の全員の顔が引きつっている。マティナの体形の五倍は体積があったのにどこに入ったんだろう……。
食休みをしていたはずが増えている満腹感を不思議に苦笑いしつつ寝る準備をする。お風呂を借りて客室に行こうとするとジャックさんが帰ってきた。
「おじゃましてます」
「さっきはすまんかった。だがオリハルコンを扱えるのが儂だけというのは本当だ。きさ……お主らが言うのであればいつでも打つ」
昼間とは打って変わって素直に頭を下げて自室に入っていった。
「誰かしら……」
「ジャックさんでしょ」
「知ってるわよ。人が変わったみたいじゃない」
「槌を持つと人が変わるとか?」
「いい迷惑ね」
「あはは」
鍛冶に自信を持っている証拠だとも言えるかもしれないけどカトレアちゃんはバッサリと切る。ま、人に横柄な態度を取っていい理由にはならないからね。
次話は明日の17時投稿予定です
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