194話 秘蜜
妖精達が蜜を集めてるのを絨毯の上から眺めているのは私ことサクラ・トレイルである。甘い匂いが届いてよだれが垂れそうだ。
「それにしても蜜を譲ってくれるとはのう」
「珍しいことなの?」
「うむ。滅多に出回らない一種の伝説じゃな。一滴売れば家が立つぞ」
魔力が回復して元気になったコハルちゃんが妖精の蜜について教えてくれた。どこかで聞いたような言い回しだね。
「これくらいで良いかの?」
「ありがとう。良くこんなに集めてくれたね」
「なんの。サクラ様の為であればいくらでも採取しますぞ」
ほっほっほ。と笑う里長。さっきまで私達がポーラを騙したとか疑っていたよね?
「ほっほっほ。忘れてくだされ」
にこやかに誤魔化す里長。別に怒らないのに。
「サクラ様からはセレシア様や創造神様と似た気配がしての。最初は気付かなかったのだ」
「オリディア様の気配……」
アービシアの気配じゃないのか。オリディア様の気配の方が良いけどね。それとも双子だからほとんど変わらない? ドツボにはまりそうだからこれ以上考えるのは止めておこう。
ちょっとした調味料として使おうとしたら大量に集まったけど何に使おうかな。果物の蜜付けにでもしようかな。
「贅沢な使い方じゃのう……」
「いいじゃん。貰ったものだし」
「そうなんじゃがの」
コハルちゃんは難しい顔をしてるけど気にしないことにしよう。
「サクラ様! 妖精の蜜に目を付けるとはさすがなのサ!」
「へ? なんでさ?」
「まったくもうサクラ様もとぼけちゃってサ。ポーラ達の蜜が特別なことを知ったうえでの選択なのサ?」
ポーラが私の腕に抱き着きながら褒めてくれた。蜜が特別って何さ?
「サクラ。気まぐれ花について説明したじゃろう? 妖精の蜜はそこからとれるのじゃぞ?」
「あ! それってつまり……」
「うむ。蜜も花と同様なのじゃ」
様々な効力を持つ蜜ってことか。でも一つの花だけじゃないなら効力が混ざりそうだよね?
「そうなのサ。蜜は花の効力が全て混ざっているのサ」
「全て……」
ごくりと唾を飲み込む。なんか凄そうだ。
「エリクサーともアムリタともいわれておるの」
つまりどんな病気も怪我も古傷さえも、どんな症状であっても回復してくれる伝説の霊薬か。うん。調味料に使うにはもったいないね。アイテムボックスに保管しておこう。ラストエリクサーにならなければいいや。
「サクラ様。もう一つ受け取ってほしいものがあるのだが」
「ありがとう? 蜜だけで充分なんだけど……」
「そう言わずにサクラ様に受け取ってくれ」
蜜の使い道について考えていると里長からもう一つプレゼントがあるらしい。たまたま立ち寄った先でいろいろ貰い過ぎだよ……。そう思いつつも里長に付いて行く。
「何を貰えるのかしらね」
「本当にこんなに貰っていいのかな?」
「向こうが良いって言ってるんだからいいじゃない。貰っておきましょう」
カトレアちゃんがそういうならいいか。ありがたく貰おう。
「ここじゃよ」
里長が立ち止まったのは滝が流れる洞窟だった。里長が魔法を使うと滝が割れて洞窟の中に入れるようになる。お宝がありそう!
「中に入れるのは一人だけじゃ。それと、ここはとある試練となっておる。死にはせぬが……厳しい試練となろう。どうする?」
「試練の内容は教えてもらえないんだよね?」
「済まぬがそうなるの」
滝。洞窟。試練……ひらめいた! 心の闇と戦うとか自分自身と戦うとかそういった試練だ! 日本のラノベで読んだことあるよ! SDSでは出て来てないけどね……。
死ぬことがないなら気楽に行こうか。想像通りの試練になるなら過酷な試練になりそうだけどね。
一人絨毯から降りて洞窟に向かう。あ! そうだ。
「試練の中で魔法を使っても洞窟は壊れない?」
もし魔法で洞窟が崩壊したら私が生き埋めになっちゃうからね。でも試練の戦いが外部に影響を与えないなら思いっきり戦える。
「大丈夫……のはずだ。普通は」
最後にぼそりと一言呟いていた気がするけど大丈夫と言っているから大丈夫だろう。改めて洞窟の中にはいると膜を通過した感覚がする。どこか別の空間に飛ばされたのかな? 後ろを振り返ると先ほど通った滝は無く、出口のない洞窟に閉じ込められていた。
「少し待つかな」
「待つ必要はないよ。俺は大変だな。本来は一度で済む試練なのに四度も試練を突破する必要があるんだ」
何もない空中から突然光の玉が発生してとある男の姿をかたどった。
「そう。最初は俺なんだ。次は私? 四度ってことは私の魂に混ざってる魂の欠片全てってことだよね? 龍馬とサクラ、神霊と最後は……」
「ああ、アビスだ。報酬は期待していいぞ。今サクラに必要なものが手に入ると保証しよう」
どこのボスラッシュかな? うん。目の前にいる龍馬はともかく残り三戦は気を抜けないね。
「うん。気楽にやろうと思っていたけど気合を入れないとダメそうだね」
「俺相手でも舐めない方がいいぞ。むしろ一番きついかも知れないな」
自信満々に告げる龍馬に警戒する。日本にいた時の俺ならつまらない嘘は吐かない。つまり自信を持つ理由がるってことだ。もしや里長はこの試練が四連戦になることを知っていた? それで蜜を大量にくれたのかな? ますます油断できなくなったね。
次話は明日の17時投稿予定です
評価とブクマ、いいねをお待ちしております!




