193話 里長
コハルちゃんからポーラに先頭が変わり、妖精族の里を歩く。妖精も咲いている花も小さいものが多いから踏まないように魔法の絨毯を出して三人で乗っている。暑くもなく寒くもなく、のどかな風が心地よい。
妖精達はちらちらとこちらを見てるけど近付いてこないのは私達が珍しくて気になるけど大人間だからと警戒してるんだろうか。
しばらくするとキノコの上に座って寝ている髭の生えた妖精の所に辿り着く。
「里長~! 起きるのサ! お客様なのサ!」
「ふぁ~。起こすでない。すぅ」
ポーラの声に一瞬起きた里長だったけど直ぐに寝てしまう。ポーラはむきーと怒ってるけど私達はどうすればいいのかな?
「しかたないのサ。みんなに説明してくるからここで待っていて欲しいのサ。里長が起きたらポーラの名前を出していいから説明よろしくなのサ」
ポーラは距離を置いてこちらを見ている妖精達の所に向かう。取り残された私達は妖精達を刺激しないように注意しつつ里の景色を楽しむ。
「魔法の絨毯のおかげで花を踏まずにすんで良かったわ」
「せっかく綺麗に咲いてるから傷つけたくないよね」
「のどかじゃのう」
日本や今まで訪れた国では花壇など仕切りがあって人の歩く所と花を育てる場所が分かれていたけど空を飛べる妖精ならではの配置で、歩く場所は無く一面全てに花が咲いているのだ。それにしても初めて見る花ばかりだな。
「妖精が育てた花は気まぐれ花と言って特別な効力を持つのじゃ。過去に精霊が人に狙われた理由でもある」
「気まぐれ? どういうこと?」
「一つ一つ効力が変わるのじゃ。人の魅力をあげる効果だったり傷や病を治す効果だったり様々じゃな」
様々な効力ね。ギャンブル性があるから本来は信じられないような効力の花もありそうだ。人に狙われたのは蘇生とかステータスアップとかそういった効力を求められたんだろうな。
「逆に毒に侵されたり一週間不運に見舞われたりするような悪い効果を持つ花もあるみたいじゃぞ。悪い効力を持つ花は少ないみたいじゃがのう」
「防衛のためかもね」
リスクのない獲物はダメ元でって人にも狙われやすいけどリスクがあれば手を出す難易度が高くなるよね。意図的なものかどうかは分からないけど賢い方法だと思う。……そもそも気まぐれ花を作るのを止めた方が良いのでは? と思うけどそれは野暮だろう。
「大人間だ! 初めまして!」
「大きいね!」
「ちょっと怖いね?」
「サクラ様に群がったらダメなのサ!」
ポーラの話を聞いたらしい妖精達が近くに寄ってきた。まじまじと見つめられるのは止めて欲しい。私の思いが伝わったのかポーラが妖精達を追い払う。ただ、当の妖精達はキャーと楽しそうに離れた後直ぐに戻って来たからただの遊びだと思ってるふしがあるな。
「妖精さん達初めまして。カトレアよ。よろしくね」
「「よろしくー!」」
カトレアちゃんに妖精達が群がる。むう、カトレアちゃんも鼻の下伸ばして……カトレアちゃんこそロリコンじゃないの? というかポーラもなんで追い払わないのさ。
「やったのサ! サクラ様を独り占めなのサ!?」
「えぇ?」
なんでこんなに慕われてるの? 最初の警戒心はどこ行った?
「サクラよ。妖精達は元々人懐っこい性格をしているのじゃ」
「おぅ」
私が戸惑っているとコハルちゃんに肩を叩かれて同情された。そっか、人懐っこいのか。なら仕方ないね。
「サクラ?」
「ん? あ、ごめん」
「ふふ。そのままでいいわよ」
「うん」
気が付いたらカトレアちゃんに抱き着いていた。嫉妬してなんか無いんだからね! 顔が赤いのは……そう。暑いだけ! それだけだから! だからニヤニヤしないで!
「サクラ様ズルいのサ! ポーラも混ざるのサー!!」
ポーラを筆頭に他の妖精達もくっついてきて二人してもみくちゃにされる。少しすると飽きたのか妖精達は元の場所に戻っていった。
「思った以上に疲れたわ」
「そうだね。魔力が枯渇してるような感じがするよ」
「我らは魔力を吸うからのう。うむ、二人も美味しそうだな」
「美味しそうってなに よ……」
疲れて魔法の絨毯の上で寝転がっていると知らない声が聞こえてくる。そうか、魔力を吸われてたのか。魔力にも味があるんだね。
ん? 今“も”って言った?
「あの子狐も美味しかったぞ」
「コハル!?」
慌ててコハルちゃんのいた位置を確認するとぐったりした姿が目に入る。あれ? 人型のコハルちゃんを見て狐って言った?
「我ほどになるとみれば分かるのだ」
「里長は凄いのサ!」
威張ってる二人はスルーしてコハルちゃんの様子を確認する。うん? ……気のせいか。コハルちゃんは魔力を吸われて枯渇気味になってるだけだね。一先ず無事そうで安心だ。
「で、客人達は何用かね?」
「特に用はないかな。強いて言えば観光?」
「ポーラ?」
「だからそう言ったのサ! ポーラがお礼に連れてきただけなのサ! 話を聞かないで決めつけたのは里長なのサ!」
何か行き違いがあったのかな? 私達も誘われるまま? 興味本位で入っただけで悪さするつもりないんだけど。
「それは済まなかった。てっきりアホのポーラが騙されて連れてこさせられたのかと」
「いや、私達も迂闊だったよ。妖精族の事を考えたら安易に入るべきじゃなかったね」
なにおー! と両手をあげて抗議しているポーラだけど完全に無視されている。うん、ポーラの立ち位置がよく分かるよ。
「抵抗もせずに魔力をくれたのも事実。お詫びとお礼を兼ねて何か欲しいものをプレゼントしよう。欲しいものはあるかね?」
「蜜が欲しいな。花もいっぱい咲いてるし蜜も取れるでしょう?」
蜂蜜ならぬ妖精の蜜! ぜったい美味しいもの!
「そんなもので良いのならいくらでも」
にやりと笑った里長が他の妖精達に号令をかける。楽しみだな。
次話は明日の17時投稿予定です
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