188話 明智気分
織田が居合切りの構えをしてカトレアちゃんに斬りかかった所を身体強化をして無理矢理間に割り込む。
「貴様!」
「後は貴方だけだよ」
数秒の鍔迫り合いの後、織田の体を弾き飛ばす。
「サクラ? まだ手を出さないで欲しかったんだけど……」
もう少しで斬るところだったとジト目で文句を言われて苦笑いで誤魔化す。カトレアちゃんになら斬られても本望! ……コホン。冗談だからその目止めてね?
「憤怒の欠片は片付いたのね?」
「うん。コハルが吸収したよ」
「た、戯言を! サル! サル! 隠れてないで出てこい!」
私とカトレアちゃんの話が聞こえたみたいで、織田が慌ててサルのいた場所を確認している。思っていたよりも仲間思いなのかな?
「ふんっ、死んだのか。まあいい。力を奪い取れなかったがこれで本気を出せる」
ウン、ワタシシッテタ。そんなわけ無いよね、だって暴君だもの。それにしても大罪の力を奪うなんて本当にできると思っていたのだろうか。コハルちゃんと言った前例がある以上可能性はあるけどさ。
なんて考えている間に織田が炎を身に纏う。これが本気か、迫力あるね。
織田の攻撃を刀で受けようとして咄嗟に躱す。そのままだと熱で焼き斬られそうだ。水魔法を纏わせて刀で斬り掛かる。織田が刀で受けて火と水がぶつかり合い辺りが真っ白になった。
「むっ!」
「貰ったわ!」
霧に乗じてカトレアちゃんが織田の背後に回り込んで背中を殴り飛ばす。吹き飛ばされた先には刀を構えた虎徹さんがいて、そのまま刀を真っ直ぐ振り下ろした。
織田の体が真っ二つに分かれてそのまま地面に落ちる。
「私達の勝ちかしら?」
「いや、あっさりし過ぎている。というか脆すぎだな」
首を傾げる二人と共に織田の残骸を見ていると全身がくろずみ始めた。
「警戒!」
「サクラ! 後ろ!」
背後に氷の壁を作って攻撃を遅らせつつカトレアちゃんの背後にいる織田に刀を投擲する。あっさりと刀が刺さって織田が倒れる。後ろではガッと音が鳴り、刀が氷に壁に刺さった音がした。
辺りを見渡すと織田が四人。一人はくろずんで溶け始めている。
「影分身?」
「「「奥の手を出すことになるとはな! 褒美に苦しめて殺してやろう!!」」」
一人が溶けきると同時に一人が分裂して四人に戻る。これ知ってる。全員同時に倒さないと永遠に復活するパターンだ!
「先の動きを見る限り速度は落ちてるな」
「それでも使う魔法が厄介だね」
きっとサルも織田も魔法が使えなくなる代わりに膂力や速度が上がっていたんだと思う。じゃないと自分達の魔法を使えなくする意味はないからね。
四人で散開してそれぞれが織田と対峙する。分身だからなのか憤怒の大罪の恩恵が消えたからなのか、耐久値も下がっているからコハルちゃんも一人で戦闘させて大丈夫だと思う。心配しなくともコハルちゃんは強いって? 知ってるけど子供だからね。心配するものだよ。
個別で織田を倒すも何度も何度も再生してキリがない。何か見落としがあるかも……。
「「くはははは!」」
四方から笑い声が聞こえてうるさい。……ん? 四方? 今織田がいる方向は正面に一人とその奥に一人、右に一人と左に一人で四人とも私の視界の中にいるはずだ。そうか! 織田の目を潰してからドランを呼ぶ。
「ドラン! 代わって!」
「任された! うおおおお!」
今まで奥の手兼調整役として参戦していなかったドランとスイッチして背後に集中する。スイッチしたことには気付かれてないみたい。少し遠く、隠れられる場所を中心にもう一人の織田を探す。
見つけた! 少し遠いけど直ぐに行ける距離にある洞窟に隠れているね。ドランと入れ替わっていることに気付かれる前に刀を回収してから織田の隠れ場所に移動する。どうやら目を瞑って瞑想しているみたい。
「曲者!」
「わっ!」
背後からゆっくりと織田に近付くと突然目を開けて振り向きざまに斬りかかってきた。危なかった。
「突然虎徹が二人に増えたと思ったら貴様がなぜここにいる?」
「私の事はともかく、こんなところに一人でいるなんて……怖かったの?」
「あ゛?」
「一人だけ隠れるなんて恥ずかしくないの?」
「余程死にたいらしいな」
こめかみに血管が浮き出て破裂しそうだ。無駄な力みが出て思うように動けていない織田と何度か打ち合う。
「どうしたの? さっきまでの速度がないよ?」
「くはは。貴様相手に全力を出す必要がないだけだ!」
冷や汗を流しながら言われても説得力無いよね! 低い姿勢を維持して攻撃方法を限定してヒットアンドランでかく乱する。ここにいる織田は四人が相手をしてる織田よりも強いからこっちが本体だろう。それでも最初の時よりもかなり弱体化してるけどね。
「うおおおお!」
「ファイアーボール!」
イラついて魔法を使い始めた織田に合わせて私も火の魔法を使う。相殺されるも洞窟内部に熱がこもる。
「焔!」
「あまいわ!」
カトレアちゃんの焔魔法を真似して使うと直感で危険性に気付いたのか炎魔法で打ち落としてくる。再度相殺されるも洞窟の中の気温が更に上がっていく。
「貴様! まさか……」
「気付いてももう遅いよ!」
辺りに数十、数百のファイアーボールを作り出して一つにまとめる。気分はさながら炎帝だ。
「蒸し焼きになっちゃえ!」
「ふざけるなあぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛」
織田の叫び声を聞きながら洞窟の外に出る。これで本体は復活してもそのまま蒸されて死ぬことになるだろう。勝負あったかな。
次話は明日の17時投稿予定です
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