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小さな龍のレクイエム(改稿版)  作者: セレシア(旧 助谷 遼)
アフターシナリオ ~空島編~
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181話 虎徹との勝負

 抜き足差し足忍び足! 一流の忍者を目指す私はサクラ・トレイルだってばよ!


 ひゅんっ


 虎徹さんの竹刀が先程まで私がいた場所を通りすぎる。そしてそのまま地面を割る。……ふ、ふざけてる場合じゃないね。


「その竹刀本当に竹でできてる?」

「当たり前だ。技術を極めれば竹で鉄も切れる」


 これなんてファンタジー? いや、魔法のある世界だからファンタジーだけどさ……。


 どうやら私が動きについて行ったことでギアを一つ上げたみたいだ。防御しても上から叩き切られる未来しか見えないため全て(・・)の攻撃を躱す必要がある。それに対して虎徹さんは防御の選択もあればフェイントには一つも引っかからないからこのままだとジリ貧だ。


 虎徹さんのフェイントがフェイントに見えない件。"魔法"じゃなくて"気"とか新しい概念出してこないよね?

 目を凝らして見ても何か特別な事をしてるようには見えない。違和感が全く無いんだよね。…………?


 攻撃を続けるもこちらの攻撃がすり抜けていく。ぐぬぬ、思っていた以上に技量に差が有りすぎる。


 竹刀を深く持ち、突きをしつつ勢いで竹刀をズラす。ギリギリを狙って後ろに引いて避けた虎徹さんに初めて攻撃が当たった。


「ほう、よく当てたな。だが次はないぞ」

「だろうね」


 負け惜しみではなく次からは本当に当たらないだろう。所詮小手先の技だからね。でも、不意をつければ攻撃を当てられそうだ。……その不意をつくのが大変だけどね。


 少しずつ歩幅や動きを小さくしていく。少しずつ押されていっても焦らずに気付かれないようにゆっくりと。


「もう疲れたか? そんな早くバテるほどヤワではなかろう」

「どうだろうね」


 あっさりとバレた。でも狙いまでは気付いてないみたいだ。


 その後も一方的に押される展開が続く。小さな隙を見つけても反応せずに我慢する。綿sが床に落ちた汗に足を取られると虎徹さんが少し落胆したような顔をした。どうやら演技ではなく本当にバテたと判断したらしい。

 止めを刺すことにしたらしい虎徹さんが大振りになった瞬間を狙ってできる限り最速で突きをする。


「っ!」

「…………」


 初めて姿勢を崩した虎徹さんがたち直す前に追撃する。竹刀を捨てて足払いをかけてから掌底で肩を狙う。押しきれば私の勝ちだ!




 ゴンっ


「なんで……?」

「惜しかったな」


 掌底が当たった瞬間勝ったと思ったのにひっくり返ったのは私の方だった。竹刀を突きつけられ勝負が決まる。


「何が起きたの?」

「狙いは良かったし、儂の想定よりも上をいった。ただ相手が悪かったのだ」

「…………」


 悔しい。確かに虎徹さんの方が技量は上だ。でも、勝ちたかったな……。自然と手に力が入る。


「ほれ泣くな。孫ほどの女子おなごを泣かすようなジジイとは思われたくない」

「泣いてない」

「そうか。儂も目が悪くなったものだな」


 そう言うと気を使ってくれたのか門下生達を引き連れて外に出ていった。


「サクラ……」

「カトレア……負けちゃった」


 いつの間にか近くに来ていたカトレアちゃんに心配かけないように笑いかける。ちゃんと笑えてるかな?


「おいで」


 手を広げてくれたカトレアちゃんに抱き着く。カトレアちゃんは肩が濡れるのも気にせずに背を軽く叩いてくれた。


「うぅ」


 本気の真っ向勝負で負けた。別に負けたのは初めてってわけじゃない。母との修行ではいつもぼろぼろにされていたし、アービシアの手で死にかけたことだってある。でも、いつの間にか私は驕っていたらしい。学園を卒業してからも鍛え続け、()には負けないと思っていた。


 全ての適正の魔法を使えるようになり、SDSのサクラからは想像できないほどのステータスを身に付けた。でもそれだけだった。


「うわああぁぁぁぁ」


 私は弱い。


 私はまだまだ子供だった。頭の片隅ではゲーム感覚で過ごしていたのかもしれない。カトレアちゃんを大切に想う気持ちは本物だし、この世界が現実だということも分かっている。でも、私が(・・)負ける意味(・・・・・)理解して(わかって)いなかった。

 私が倒さないといけない相手はアビスだ。負けたら私が死ぬどころか世界が終わるんだ。


「ぐすっ。もう、負け、ないから」

「別に負けてもいいじゃない」

「ダメ……なの。それじゃあ、ダメなんだよ」

「そう」


 最後に勝てばいい。そういう人もいるだろう。確かにその通りかもしれない。けど、その一敗がとりかえしのつかない物だとしたら? 今回の戦いは憤怒の欠片(・・・・・)の模擬戦(・・・・)の役割があった。少なくとも虎徹さんはそのつもりだったはずだ。それなのに私は実戦ではなく模擬戦としての戦い方をしてしまった。


 乱暴に顔を拭ってカトレアちゃんから離れる。


「せっかくの可愛い顔が不細工になってるわ」

「むぅ」


 不貞腐れた顔をすると頭を撫でてくれた。恥ずかしいけど嬉しいね。


「サクラなら大丈夫よ。信じてるから」

「うんっ!」

「妾達もいるのじゃ。忘れるでないぞ?」

「そうだね」


 二人に激励されて決意を新たにする。

次話は明日の17時投稿予定です


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