180話 歩法
「すみませんでした」
「師範にだけはどうか、どうか何も言わずに……」
「コハルさま……!」
コハルちゃんに一方的に叩きのめされた門下生達が今度は必死で頭を下げてきた。一一人程新しい扉を開いたようでコハルちゃんのことをうっとりと見上げているけど見なかったことにしよう。コハルちゃんも怖がって私の後ろに隠れているし。
「そうはいかないわ」
「カトレアちょっと待って」
「なにかしら?」
良い顔をして脅そうとしているカトレアちゃんを一度止める。今回みたいな時は脅すより譲歩した方が効率が良い。
「道場破りの件は交換条件で黙っていてあげる」
「本当ですか!?」
「なんでもします!」
「コハルさま踏んでください!」
今なんでもって言った? じゃなくて、虎徹さんの所に案内すれば私達からは道場破りについて話さないと約束する。変態は無視だ。
「ありがとうございます!」
「本当に黙っていて貰えるんですね!」
「もちろん。私達は黙っているよ。私達はね……」
私達と強調しているけどカトレアちゃんとコハルちゃん以外に仲間がいる訳では無い。ここの道場の人が話すかもしれないし、虎徹さんが配下を派遣していて既に状況を把握してるかもしれないからただの保険だね。そこまでは責任もたないよ。
―――
三人に案内されて虎徹さんの道場に向かう。うーん。段々と人気の少ない所に移動しているような?
「あなた達、本当にこの先に虎徹さんがいるんでしょうね」
「もちろんです!」
「信じてください!」
「コハルさまに誓って!」
「あ、そう」
最初の二人は胡散臭かったけど変態の言葉は逆に信頼できるね。カトレアちゃんの表情も胡乱げだったのが一瞬で真顔に戻ったし。
「ここです」
「えっ?」
三人について行くこと数十分、到着したのは墓地だった。
―――
「ふむ、お主がセレス殿のパートナーか。お初にお目にかかる」
無事に虎徹さんと会うことができた私達は客間に通されていた。
「初めまして、突然の訪問失礼致しました」
「お主なら良い。ウィードから話を聞いておる」
「ウィードさんとお知り合いでしたか」
それで戦乱の最中にも関わらずあっさりと会えたのか。
「ウィードさんはなんと?」
「優秀な弟子と言っておった。筋が良いと」
「ありがとうございます」
うーん、ちょっと気恥ずかしいね。
「サクラ殿、魔法抜きで手合わせをしないか?」
「身体強化もなしという事ですか?」
「うむ」
身体強化も無しの剣のみの勝負か……。昔の私は魔法無しだと弱弱だったけど今ならステータス的に優位に立てるはずだ。恐らく勝負の分かれ目になるのは技術面、如何に虎徹さんに近付くかだね。
「上で……いや、隣で良いだろう。充分の広さがある」
虎徹さんの案内に従って一度表に出る。
「なんで墓地の見た目にしたのよ。サクラの話と全く違うじゃない」
「む? 儂の道場だと判明すると燃やされるのだ。行きついた形がこの墓地よ」
いやホント門下生に交換条件で場所を聞いて良かった。知らないと探しても絶対に気付かないよね。特にSDSの背景で判断していたし……。
それにしても燃やされるのか、強者として有名なんだろうな。欲にまみれた天下統一には与しない性格してるし、敵として危険だから排除したい人が多いのかも。
そんなことを考えているうちにさきほどまでいた墓とは別の墓の中に入り、竹刀を受け取る。
「さて、サクラ殿には先ほども言ったが魔法無しで手合わせ願う。それゆえ防御面で危険があるためこの模擬刀を使用して頂きたい」
「竹刀ですね。軽くて振りやすい」
「存じていたか。準備ができたらいつでもかかってきなさい」
そういって構える虎徹さんを向いて身震いする。こいつ……できる! いや、冗談じゃなくてやばい。なにこれ、隙が全くないんだけど。
「ふむ。修羅場はくぐってきているか」
「……いきます」
どう打ち込んでもカウンターを食らう未来しか見えなかったため今出せる最高速度で近づく。フェイントを入れて背後に……引っかからない! バックステップで下がるが高速のすり足で体を寄せられて逃げきれない。
「早い……!」
「口を動かす前に足を動かせ」
「ぐぅ」
破れかぶれで竹刀をふるう。ほとんど動かずに躱されてしまったがおかげで少し間を開けることが出来た。
「ひっ!」
少し立て直そうとするもつかの間で虎徹さんを見るとすでに竹刀を打ち下ろすだけの段階になっていた。距離を取ったのが悪手になったみたいだ。
振り下ろされる竹刀を良く見てギリギリで躱す。そのまま流れで逆袈裟斬りにつなげるが一歩横にずれるだけで躱されてしまう。一歩が大きい!
強さの秘訣は歩法かな? 日本でも武道の極致は歩法だと聞くし真似できればいいんだけど。
「勝負を捨てたか?」
「まさか! まだまだこれからだよ!」
見に徹して様子を伺うと虎徹さんが挑発してきたが挑発には乗らずに攻撃を躱しつつ守りを固める。そろそろ真似できるかな?
重心を先行して動かし、重力に身を任せながらすり足で移動する。微妙に力が入って速度がいまいち出なかったけど初めてにしては悪くなかったのではなかろうか。
「ほほう。見るだけで吸収するか。面白い」
移動速度で拮抗し始め、試合はより苛烈になっていく。
次話は明日の17時投稿予定です
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