172話 ネリネの答え
ネリネ様の家を出るとエルフ達に取り囲まれた。背中合わせになって警戒すると一人の少年……青年? エルフだから年が分からないけど周りのエルフの代表ならおじいさんかもしれない……が一歩前に出る。
警戒を強めると突然エルフ達が土下座をする。何事?
「女王様が失礼した。そなたたちが我らを助けてくれたのにも関わらず身内というだけで礼もなく礼を失した態度を取ったのであろう。代わりに我らが謝罪する」
そういえばこの人達オリディア様のせいで昏睡していたね。すっかり忘れてたよ。
「謝罪を受け取るわ~。代わりに、サクラちゃんがお母さんに面白いこと提案したからそれを承認してちょうだいね~。そして私達はここから出ていくわ」
「待ってくれ。今日の所は宴に参加していただけないだろうか。継承しなくとも次期女王候補として快気祝いに出席していただきたい」
「快気祝い? よく分からないけど来賓としてなら参加するわ~」
母はこの機に女王に納まる権利を完全に破棄するつもりだね? 私としては同年代のエルフと接してみたい思いもあるし、今後神樹の様子を見る時にエルフとの関係値が低いと不便そうだから参加できるのは良いことだけどね。……ネリネ様の判断次第かな。
カトレアちゃんとコハルちゃんも宴に参加することに賛成し、来賓として快気祝いに出席することになった。
―――
その日は母の家に泊まった。そう、なんと数百年家を空けていたはずなのに家がそのまま残っていたのだ。場所はネリネ様の家の隣で神樹のすぐ傍でとても良い立地なのにも関わらず……。なんなら定期的に掃除までされているみたいで埃一つなくそのまま泊ることができた。
「お母さんも不器用よね~」
母の呟きは聞こえなかったが懐かしむような顔をする母をそっとしておいて私はカトレアちゃん、コハルちゃんと三人で家の中を探検する。
「木の実の貯蓄が多いわね」
「こっちは甘酸っぱいもの、こっちは塩辛いもの、保存が効く調味料のようなものじゃな」
倉庫に着くと早速二人が物色を始め中の者を評価していく。勝手に見てもいいのか心配になるけど一応母の所有物扱いになるから問題ないらしい。母の許可は得てるからね。
「誰が補充したんだろう」
「あら、ローズさんが暮らしていた時に補充したものじゃないの?」
「それはないのう。そうだとしたらここまで保存状態が良いわけなかろう」
「そもそも母さまは全ての荷物を持って外に出たって言っていたから」
アイテムボックスもストレージも無いのに良く持っていったよ……。精一杯の反抗だったのよ~なんて言ってたけど無茶をし過ぎだ。
綺麗に磨かれた廊下を歩いて二階に上がる。一つ目の部屋は母の部屋、二つ目の部屋は増築された部分なのか使用された木が違う。
「なんでそんなの分かるのよ」
「妾にも判別できないのう」
「エルフだからじゃないかな?」
中を覗くと子供が喜びそうな小さなアスレチックやらぬいぐるみやらがいっぱい置いてあった。どんな子供だったとしてもどれか一つはお気に入りのおもちゃがありそうだ。
「ネリネ殿には悪いことを言ったかもしれぬな……」
「コハル?」
「なんでもないぞ。気にするでない」
いくつかおもちゃを見たコハルちゃんは一言呟いた後に人の姿に戻ってよく分からない形状をしたぬいぐるみを抱いて小さくなった。…………なにそれ可愛い! カメラは? スマホは? なんで撮るものが何もないの!? 念写機を持ってくるべきだった。ぐぬぬ。あ、ちなみに念写機は名前の通り魔力を込めることで写真を撮れる機会ね。
「私達以外の人に会って疲れたのかもしれないわね。コハルは休ませてあげましょう」
「そうだね。ご飯の匂いをかぎ取ったら勝手に起きてくると思う」
―――
夕食の時間になって人型のまま下に降りてきたコハルちゃんを見ても母は二人にそっくりね~とだけ言ってあっさりと受け止めていた。神霊で人型をとる生き物を知ってるとはいえすんなりと受け入れることができる人は少ないと思うんだけどさすが母だね。
次の日になると昨日の青年が家まで来て国を案内してくれた。時折顔を赤くしながら私の事を見ていたけどどうしたんだろうか。カトレアちゃんも警戒していたしコハルちゃんも最後まで懐かなかった。悪い人ではないと思うんだけどな。ちなみに私のはとこにあたるみたい。
森を散歩という名の観光が終わるとガックシした様子の青年はネリネ様の家に戻っていった。これから宴の準備をするらしい。
邪魔をしないように母の家に戻って時間をつぶす。神樹の中では帰ることを最優先にしていたためコハルのステータスやスキルについての検証をしていった。
夕方になり、再度青年に呼ばれる。来賓用の席に四人並んで座り、エルフの人達から感謝の言葉を投げかけられる。くすぐったい思いをしつつもカトレアちゃんを見るとどうやら楽しんでいるみたいだ。良かった。
―――
宴も終わる時刻になった頃、ネリネ様が声をあげる。
「めでたい席で済まないが一つ、皆に話すことがある。単刀直入に言おう、私ネリネは今日をもって女王職を辞そうと思う」
途端にざわめくエルフ達。正直私も気が気でない。突然母や私を後継者として名指しされると断りにくい雰囲気だ。指をさされる前に隠れる準備をしておこう。
「そして私の後任についてだが……、無しにしようと思う」
「!?」
驚きの声が漏れる。不安そうな表情をするエルフ達に向かってネリネ様が続ける。
「トップがいなくなることに不安を覚える者もいるかもしれない。だが安心して欲しい。これからは一人の女王がトップに立つのではなく、数名のトップを立てて協力してみんなを引っ張っていくつもりだ」
なるほど。ネリネ様も私の話を聞いてちゃんと考えてくれたんだね。
「これが良い変化となるか、悪い変化となるか、今の段階では分からぬ。だが、よりよい方向に進んでいけるよう努力する所存だ。皆の者も協力してくれ」
ネリネ様が頭を下げるとエルフ達は一瞬どよめいたが直ぐに興奮した声が上がり始めた。どうやら好意的に受け止められたようだ。母を見ると頷いているから一部根回しをしていたのかもしれないね。
「さて、皆が気にしているであろうトップの数名だが、この場で発表しようと思う。一人目は私、ネリネだ。今後ともよろしく頼む。二人目はザック。私の孫だな。三人目は……」
国の若い人から年寄りまで……見た目では分からないけど……名前を呼ばれたものが前に出ていく。そうか、はとこ殿の名前はザックだったのか。
今日聞きそびれたと思いつつザックの名前を憶えていると七番目に私の名前が呼ばれた。……え? 私が呼ばれた?
ネリネ様の方を見ると私を見ている。私と同名のエルフがいるわけではないみたいだ。次に母を見るとサムズアップしている。……聞いてないんですが!?
次話は明日の17時投稿予定です
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