167話 孵化
真っ白な空の下、一泊したのは私ことサクラ・トレイルである。風呂も布団も一級品でぐっすりと休めたね。
「サクラちゃんおはよう」
「オリディア様おはようございます」
「珍しく遅かったわね。疲れていたのかしら?」
部屋をでてリビングにでるとカトレアちゃんとオリディア様は既に朝ごはんを食べ終えていた。私も早速ご飯を食べ始める。
「オリディア様はそれが何か分かるんですか?」
カトレアちゃんがオリディア様に卵を見せている。突いたりしているのを見ると割りそうで怖いけど腐っても神なんだしそんなヘマはしないだろう。
「サクラちゃん。魔力を卵に流したことはある?」
「? カトレアちゃんが毎日流しているけど私は流してないですよ?」
SDSでは卵が出てこなかったけど日本のゲームで与えた魔力量で孵化するものがあったりしたから試しているのだ。ダメだったかな?
「サクラちゃんも魔力を流しなさいな。それで孵化するわよ」
「私の魔力が必要なの?」
「ええそうよ。うふふふふ」
二人以上の魔力が必要だったのか。食事を終えたら魔力を流してみよう。
「早く流さないの?」
「ご飯中ですから。食べ終えたらやりますよ」
「そ、じゃあ代わりにあれ出してちょうだい」
「あれってなんです?」
「アビスの核のことよ。処分しちゃいましょう」
なんで知ってるのかな? まあいいか。封印を施したままストレージから取り出す。オリディア様に渡すとアビスの核を眺め始めた。
「ふんふん。吸収してるのは嫉妬と……」
真剣な目をしてると神様らしさが出てるのになんで口を開くと残念になるのだろうか……。なんて思いつつご飯を食べ終える。さて、卵に魔力を流してみようかな。
「カトレア。卵を貸してくれる?」
「ええ、お願いね」
「任せて」
カトレアちゃんから卵を受け取り、魔力を流そうとする。
「あ! ちょっと待って!」
「へ?」
「あ!」
ガシャンッ!
「「「…………」」」
突然オリディア様が突撃してきてその衝撃で卵を落としてしまった。
嫌な音が響いて卵にひびが入る。
「て、てへ?」
てへぺろをかますオリディア様の横で崩れ落ちる。カトレアちゃんごめんなさい……。
ピシッ
「サクラ!」
「ひゃいいぃ!」
カトレアちゃんの呼び声に幼馴染止めるとか絶交とか言われたら死ねると思いつつ返事をする。
「今の音聞こえた!?」
「ものすごく鮮明にガシャンという音が聞こえました。ごめんなさいいい!」
自分の口で言わせて罪悪感を煽る手法をとるなんて……。やっぱり死んで詫びるしか……。
「違うわよ。その後の音!」
ピシピシッ
「ピシピシッ?」
「そう! それよ! きっと孵化する音よ!」
テンションの上がってるカトレアちゃんも可愛いんだけど私まだ魔力流してなかったんだよ? 割れちゃった可能性が高いんじゃ……。
パキッ
「生まれた! 可愛いわね!」
「良かった……」
「あちゃー、遅かったかー」
卵が完全に割れ、卵の殻からは小さな狐が顔を出していた。
―――
子狐が卵から出てきてカトレアちゃんの周りを歩き回っている。全体的な色合いはカトレアちゃんに似ているけど毛先がほんのりピンク色になっているね。モフモフ度合いも高そう。そしてカトレアちゃんを母親だと思っているみたいだね。ただ私を見てビクッとするのは精神的ショックが大きいから止めて欲しい。カトレアちゃんも笑わないで!
「カトレアちゃん、サクラちゃん、せっかく生まれたところ申し訳ないのだけど新しい子を創ってあげるからその子を処分してくれない?」
「な、なにを言うんですか!!」
難しい顔をしていたオリディア様がとんでもないことを言い出した。子狐はカトレアちゃんの後ろに隠れ、カトレアちゃんがオリディア様を非難する。
「それはなぜでしょうか」
「サクラ!? 理由次第でこの子を処分するつもり? そんなことするなら絶交するわよ!?」
「しないから! ただ子煩悩のオリディア様が理由なく酷いことを言うとは思えなくて。理由を聞いても懐かなくても子狐を攻撃しないから絶交しないで!」
理由を聞いただけなのにカトレアちゃんから絶交って……絶交って言われた。オリディア様めぇ。
「待ちなさい。そんな目で見ないで。理由を話すから」
「生まれたての子供を処分する理由なんてあるわけないでしょう!」
「その子が大罪の欠片の可能性があるとしても?」
「!?」
セレスがくれたプレゼントを食べたカトレアちゃんから生まれるのが大罪の欠片? そんなわけないでしょう?
「カトレアちゃんが持っていた卵は二種類以上の魔力を吸収することで孵化するわ。そしてサクラちゃんにはセレスちゃんの魂が混じっているの」
「…………!? セレス本人の魂から怠惰の欠片が消失していても私に混じっているセレスの魂の欠片には怠惰の欠片が混じっている? 生まれてきたのは怠惰の欠片ってこと?」
「違うわ」
「違うんかい!」
今の説明なんだったのさ! 一人納得して驚愕までしちゃったじゃんか!
「最後まで話を聞きなさい。カトレアちゃんは嫉妬の欠片にとりつかれたことがあったわね?」
「そうね。できれば思い出したくないんだけど……」
私はモフモフできて幸せだったね。ん? 言われてみれば顔立ちがあの時の大狐に似ている? ……やっぱり狐の顔は判別つかないや。
「つまり下手したら二人の魔力から生まれたその子は嫉妬と怠惰両方の力を継いでいる可能性があるの」
「そ、そんな……」
もし本当にそうならカトレアちゃんに絶交されても倒さないといけない? いや、無理だ。カトレアちゃんに絶交されたら私は生きていけないと思う。
……。……。
そうか、私はカトレアちゃんのことが…………。
こんな時に自覚するとは思わなかった。でも、それなら私の選択肢は決まりだよね?
次話は明日の17時投稿予定です
評価とブクマ、いいねをお待ちしております!