165話 神樹の迷路
神樹の周りを調査を終え、適当な廃屋で一夜を明かした私とカトレアちゃんは再度神樹の根元に来ていた。
「ここが入口なの? よく見つけたわね」
「手をついて回ってたら吸い込まれただけだよ。ちなみに上には入口も何も無かったかな」
「登ってくる人がいるなんて神樹も想定してなかったんでしょう」
ぐぬぬ。せっかくカトレアちゃんに怒られるまで時間をかけて探し回ったのに……。まあ枝について知れたからいいけどね。
二人で神樹の中に入ると天井の向こうに迷路が見える。カトレアちゃんは一目見るとギギギと聞こえそうなほどぎこちなくこちらを向いた。
「この迷路を攻略するつもり? 無謀じゃない?」
「神樹の病気? はこの迷路の中に原因がある気がして……」
着いてきてくれないのかな? とカトレアちゃんを上目遣いでみると手で顔を抑えた後そっぽを向きつつも了承してくれた。やったね!
魔力感知を少しだけ広げて怪しいところメインに進んでいく。本当は全体像が分かるくらい感知範囲を広げたいけど情報量が多すぎるから断念。入口にゲートを立てて来たから迷子になっても問題ないからズルをしつつも純粋に楽しんで迷路を進んでいく。
「サクラ、空を飛ばないの?」
「なんとなくやめた方がいい気がしてね」
何度目かの行き止まりに着いた時にカトレアちゃんが質問してきた。ちょうどいいから今日来る前に拾った石を上に投げてみる。
ヒュッ
ジュッ
「…………」
「飛ばなくて良かったでしょ?」
一つ目のヒュッは私が石を上に投げた音。二つ目のジュッは石が迷路の壁よりも上に行った瞬間にどこからか飛んできた液体に貫かれて蒸発した音だ。私も済ました顔をしているけど思っていた以上にえぐくて内心とてもびっくりしている。空飛ばなくて良かった……。
飛ぶのを完全に諦めて歩いて迷路を進んでいく。すると途中で休憩できるスペースを見つけた。座れる切り株と机程の大きさの切り株。焚き火用の小枝にスペース周りの茂みに小さな木の実が自生していたり道管らしきものから水が出ていたり至れり尽くせりの空間だ。
せっかくだから休憩をとる。体力は平気でもずっと似たような景色だから精神的に疲れたね。
「広すぎて何日かかるか分からないわね……」
「今日はここまでにして一度戻る? ゲートを作ればまたここから始められるし」
「ここでもまったりできそうだけどそうね、太陽の光にも当たりたいし」
「よし、じゃあゲート!」
あれ? 失敗したかな? もう一度チャレンジ。
「ゲート!」
「サクラ?」
「…………ショートワープ」
「まさか……」
「この中だと転移系の魔法は使えないみたい」
ズルはダメらしい。これは行きも帰りも大変なのが確定したね……。
「ここで休みましょうか。さすがに今すぐ出発する気力は無いわ」
何故か置いてあったハンモックに寝そべってカトレアちゃんが休み始める。私も今日は休もうかな。
―――
目が覚めた私達は周りにある木の実とアイテムボックスにある食料のいくつかをつまんで腹ごしらえをする。次の休憩スペースまでどれくらいかかるか分からないから食べるのは木の実がメインで食料は少しだけだ。
「行きましょうか」
一つ目の休憩スペースを越えると魔物……アウラウネかな? 植物でできた魔物がちらほら現れた。
「火魔法はやめておいた方がいいかしら」
「大丈夫だと思うけど念の為次の休憩スペースまでは止めておこうか」
植物型の魔物だけあって火の魔法がよく効きそうだけど通路に燃え移ると危険だからね。
襲ってくる魔物を適当にあしらいながら迷路を進んでいく。気が付いたら垂直方向に壁を登っている。
「重力どうなってるの!?」
「?」
垂直方向に沿った迷路があることは入口から見えていたけど魔法でどうにかして登る道だと思っていた。まさか重力ごと向きが変わっているとは……。神樹の神秘だね。
―――
そのまま進み、何回か休憩スペースで休みつつ進んでいくと急に魔物の種類が変わった。
「キクイムシ?」
「木にとって天敵じゃない!」
虫の魔物がそこらに居るのが見える。植物型の魔物と違って私達を襲ってくることはなく、外壁や地面を齧っている。……これが神樹の異変の原因だね?
神樹の中でも火の魔物を使っても問題ないと確認を終えているため火の魔物を使って虫を駆逐していく。本当は二手に分かれたいけど迷子になったら合流できないので断念してまとまって動くことにした。
―――
「全く、多いわね!」
「細い道にもたくさんいるから取りこぼし注意だよ!」
「分かってるわよ!」
大量の虫にカトレアちゃんがヤケになっている。一体一体は弱いため適当にやっても怪我する心配は無いけど私達が食事? の邪魔をする存在だと認知されたのか攻撃され始めた。
外から見て生命力が回ってないと感じた枝は内側が食い荒らされていて見た目が酷いことになったいる。適期私が光の魔法と木の魔法で修復しつつ進んでいく。
節の部分だけど……なんと大量の卵が植え付けられていた。そこから生まれる虫を想像してしまい吐きそうになりつつ火魔法で一掃した。あんなん生まれる瞬間に出くわしたら軽くトラウマになるわ。
朝も昼も無いため正確な日数は分からないけど数週間とも数ヶ月とも思える期間の探索を終え、迷路の終点らしき所まで進むことができた。魔物も一掃できたと思う。途中から植物型の魔物が味方をしてくれていたから取り残しの虫がいても今頃倒しきっているだろう。
「ようやく終わりが見えそうね」
「最後にボスバトルが来ないといいけど……」
最後の休憩をとる。今いる休憩スペースには今までとは違い重厚な扉が設置されている。頑張ったご褒美部屋なのかはたまたボス部屋なのか、気になりつつも心と体を休めておこう。
次話は明日の17時投稿予定です
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