162話 眠りの国
チェリエ共和国が砂漠の地下にあることに気付いて驚愕しているのは私ことサクラ・トレイルである。もっとしっかり母から聞いておけば良かったと絶賛後悔中だ。
「どうやって入るのかしら……」
「流砂にはまるとか?」
「それは命懸けね……」
魔法の絨毯を動かして入口が無いか探し回る。残念ながら普通に入れる場所は無さそうだ。
「サクラ、エルフなんだから入口は森にあったりしないかしら」
「確かに! 探してみようか」
カトレアちゃんの意見になるほどと手をポンと叩く。
少し時間を掛けて森に戻ると膜を通り抜けるような少し不思議な感覚がした。
「カトレア、今の気付いた?」
「なにかしら?」
「何かの境界を越えたような?」
「なんで疑問形なのよ」
「自分でもよく分かってないからね」
カトレアちゃんは感じなかったらしい。私がエルフだから気付けたのかな。それとも怠惰の契約者だから?
気になりつつも森を探索していると進む方向の地面が僅かに下がっていることに気付く。
「地下に向かえているのかな?」
「浮いている分気付きにくかったわね……」
カトレアちゃんも気付いたらしい。魔法の絨毯を使っていることがこんなところで仇になるとは……!
「それにしても良く迷わないわね。全部同じ木にしか見えないのだけど」
「前にライアスにも似たようなこと言われたけど私がエルフだからみたいだよ」
斜面になっている地面は複雑なルートに沿っており、少しでも道を外れると元の高さまで戻る仕掛けになっているみたい。何言ってるか分からないかも知れないけど安心して欲しい、言ってる私もよく分かってないから。一つ言えるのはあれだね。魔法の世界ってすげー。
そのまま斜面を下っていくと再びの膜を通り抜ける感覚と共に突然視界が開けた。
「ここどこ?」
「私達は地下に向かってたのよね?」
辺り一面に広がるのは大小様々な木々の傘と木漏れ日からなる幻想的な空間だ。木の上は砂漠の筈なのに何故か日の光がさしているし砂が落ちてくることも無い。
どうやらチェリエ共和国は周囲を崖に囲まれた場所にあるみたいだ。高低差のおかげで今の位置から国全体を一望できる。
中でも目が着くのは広い空間の中央に佇む巨大な桜の木。世界に三本しかない神樹の一本。枝葉が国の上空を覆うように広がっており、木漏れ日はその隙間から差し込んでいる。雄大な姿のはずなのにも関わらず不思議と寂しさを感じる。
「綺麗な木ね」
「カトレアは見たことが無かったっけ。あれは桜と呼ばれる木で神樹だよ」
「神樹!?」
「前世や王都でも見たけどここまで大きな桜は初めてみたよ」
「そっちの世界にも神樹があったのね」
「向こうでは普通の木だったよ。綺麗だし人気だったけどね」
ふうん。と納得しつつも桜に目を奪われているカトレアちゃんを横目に何が足りないように感じるのか考える。うむむ、もっと近付かないと分からないな。
「進もうか」
「そうね」
魔法の絨毯に乗ったまま垂直に近い崖を下っていく。他のエルフ達はどうやって出入りをしているのだろう。ロッククライミングじゃないよね?
崖下に到着して魔法の絨毯をしまう。上からでは木の傘しか見えなかったけど下から見ると秘密基地のようにログハウスが乱立していた。
「少年心が刺激されるね」
「今は少女よ」
ハンモックやブランコなどワクワクしながら妄想しているとカトレアちゃんに水をさされた。別にいいもん、男はいつまで経っても子供なんだからね!
私の考えを読み取ったのか処置なしといったふうに首を振ったカトレアちゃんが歩き始める。
「なんだか静かね」
「家の中にはいるみたいだけど誰も外に出てないね」
まるで全員が寝ているかのように静か……本当に全員寝てない!?
寝てる間に国が砂に埋もれたとかじゃないよね? 紛らわしいけど中に入る為に森の迷路を進んで地下に降りてくる以上地下に国があるのが正常だと思いたいんだけど……。母にもっと詳しく聞くべきだったと後悔する。どこかに念話機でも置いてないかな?
「誰か適当に起こしてみる?」
「単に寝てるだけだと可哀想だからどこか念話機を探そう。母さまに話を聞くよ」
「その方が良い……のかしら? 怠惰の欠片が原因なら先に解放した方がいいと思うのだけど」
「そうかもしれないけど百年とか寝てたら誤差だから……」
「なるほど。……なるほど? エルフでも百年は続けて寝ないような?」
カトレアちゃんが混乱している間に念話機を探して回る。流石に人の家に勝手に入る訳にはいかず、公共の施設をメインに、メインに…………外観が全部一緒でどれが人の家でどれが公共の施設か分かんない。仕方がないから魔力感知で魔道具の反応を示すものがあれば突撃しちゃおう。
…………そもそも魔道具が少ないな。全員が国に引きこもっているから使う機会がないのか、外から念話機が入ってきてないのか……。こうなるんだったら携帯できる念話機作っておけば良かった。
そのまま探索を続けると苔が生い茂っている建物で念話機を見つけた。どうやら冒険者ギルド? の残骸みたいだ。
「誰もいないのかしら」
「鎖国をしてる訳じゃないから作ってみたはいいけど誰も来なくて風化したみたいだね」
ますますエルフの暮らしが心配になってくるけど念話機が残っていて助かった。あとは念話をかける……前に修理をしようか。壊れてたからね。
次話は明日の17時投稿予定です
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